【55】 お見合いに老若男女100人来たらしい。
「カワグチ様! 私、こんなにこの街が賑わっているのを初めてみましたわ」
そう言ってフィオナさんが目を丸くした。
──今日はショッピングモールのオープン日だ。
流石に不具合があるとまずいので、俺とペロとフィオナさんは会員になった貴族が到着するという昼過ぎにショッピングモールに向かった。
すると、見たこともない夥しい数の馬車がショッピングモールの駐車場に入っていっている。
(やっべ。かなり大きめの駐車場作ってあるけど結構パンパンになりそうだな)
騎士団のメンバーが何人か警備で馬車を誘導している。
「お疲れ様です。どうですか? 何も問題ないですか?」
俺が声をかけると、騎士が頷く。
「おお、カワグチ様! 今のところ、馬車を停めるスペースがかなり広いので問題なさそうです」
そう言われてとりあえず胸を撫で下ろす。
「そうですか。もし何かあったら魔道具でグレイスさん経由で僕にも連絡来るんで教えてくださいね」
「ワシも変な輩が現れたら戦うぞいっ」
ペロと一緒に声をかけながらショッピングモールに入っていくと、グレイスさんが緊張した顔で館内を見て回っていた。
「グレイスさーん! オープン初日、どうっすか?」
俺達が駆け寄るとグレイスさんはホッとした顔をした。
「あ、カワグチ様! 今の所は問題はありませんが、何分人も多いですし、高位貴族ばかりなのでヒヤヒヤですよ……」
そう言ってグレイスさんが溜息を吐いた。
「そういえばセイン様は? 今日来てるんですよね?」
「はい。来てますよ。でも、カワグチ様やサミュエル殿下、それにリオネル様とお見合いする令嬢達を今面接してます。思ったより大人数になったそうなので」
そう言われて、隣のフィオナさんは目を見開く。
「……え。お見合い?」
「はい。僕伯爵になったんで! 僕が色々建物を建てたり動くのでデスクワークでサポートしてくれる人が欲しいんですけど、奥さんじゃないと権限がないっていうので!」
俺が答えると、フィオナさんが少し顔を曇らせた。
「……そうですか」
(ん? どうしたんだ?)
一瞬そんな事を思ったが、グレイスさんがこんな事を言いだしたので、驚いてしまった。
「なんと、老若男女合わせて100人ほど集まったみたいなんです!」
その言葉に俺は目を丸くしてしまった。
「……え。老若男女……? てことは男性や結構お年を召した方もきたんですか?」
「はい。 歳が上の方では60歳の方もいらっしゃいました。どうやらアルカディアのホテルのスパのことを聞きつけたらしいです」
(温泉目当てかーい!)
俺は心の中で思わず突っ込んでしまう。
「性別や年齢も念の為に書いておくべきでした。まあ、サミュエル様やリオネル様と親交を深めたいというご令嬢も勿論いらっしゃったんですけどね。
五ヶ国語が話せて、ラングスチア人で身元がしっかりしている人というだけで、大分絞られると思ったのですが、こんなに来るとは予想外でした。
最終的には、30名程に絞られる予定です」
そう言って、グレイスさんが溜息を吐いた。
「わかりました。僕が何かやっておくことはありますか?」
「──そうですね。令嬢達と交流するサロンと、暫く滞在して頂くためのマンションを作って頂いていいですか?」
(……サロン? なんだそれは)
俺が困惑していると、フィオナさんが教えてくれた。
「お茶ができる庭園のような場所ですわ」
「……なるほど、話がしやすい場所……みたいなところですね。あとで作っておきます」
「ついでに美味いものも食えるといいのう」
ペロにそう言われて、とりあえず頭の中でどんなところにしようか考えながらショッピングモールを回った、
貴族達は興奮しながらモールのものを買い漁っていた。
「素晴らしいですわっ! こんな品質のいいもの、王都の服飾店でも買えませんわっ」
「この見たこともない食べ物はなんだ! ぜひ食べてみたい!」
チラリとカートを見ると、パンパンに詰め込んでいる。
(これは売上が凄そうだな)
彼はニンマリと笑うとフィオナさんとペロに声をかける。
「せっかくなので、何か食べに行きませんか? フィオナさん、何か食べたいものあります?」
「そうですね。アイスクリームが食べたいですわ」
ペロも口の中でパチパチ弾ける小さな飴が入ったアイスクリームが気に入ったらしく、賛成していたので三人でフードコートにいったのだが──。
「うわ、こりゃ凄い人ですね」
フードコートには長蛇の列が出来ていた。当の貴族達は家臣に並ばせてテーブルで寛いでいるが、物凄く混んでいる。
(うーん……オペレーションとか大丈夫なんだろうか?)
チラリとラミア村出身のスタッフの方を見ると、てんてこ舞いになっていた。
それでもなんとか頑張って捌いているようだ。
「──きっと、数日したら落ち着くと思いますわ。今日はコンビニのソフトクリームにしておきましょうか」
「うむ。流石にあそこに並ぶのはちょっと面倒じゃのう」
フィオナさんとペロがそう言ってくれたので、俺達はマンションに入っているコンビニに行くことにした。
コンビニは流石に混んでいなくてホッとする。
「あ、カワグチさんっ! それにフィオナ様!!」
俺達が入ると、ハーマンさんが嬉しそうに手を振ってきた。
「今日はどうですの? お忙しいですの?」
フィオナさんが声をかけると、ハーマンさん頷く。
「はい、少しだけいつもより忙しいですけど、あまりいつもと変わらないですよ」
どうやら二人はいつの間にか仲良くなっていたようだ。わだかまりもなさそうに楽しく話しているようでホッとする。
そして、コンビニのガラス窓からチラリと外を見ると、役場からセインさんが出てくるのが見えた。
(──あ、セインさんだ)
──手を振ろうとしたその時だった。
丁度セインさんの後に続いてゾロゾロ令嬢達が役場から出てくるところだったのだ。
その中には男性やかなりお年を召した方や、子供までいる。
「……この方達がカワグチ様の奥様候補になる方達なのですね」
そう言ってフィオナさんが目を見張っていた。
「まあ、俺の候補だけじゃないですけどね」
なんだか急に不安になってきてきゅっと拳を握りしめていると、セインさんが一瞬こっちの方を見てニヤリとした。
ちなみに俺がここにいることに、セインさん以外気づいている人はいなさそうだ。
「…せっかくだから、あの人達が暮らすことになるマンションでも建てましょうか」
俺達は外に出て、誰もいなくなったのを見計ってから手を天に翳した。
──その瞬間。
ゴオオオオオオオオオッとまたしても音がして、マンションが出現した。
ちなみに一階のテナントにはケーキ屋さんを入れた。
中に入ると、マンションの作りは今住んでいるものと大体同じ感じである。六階にもきちんとゲストフロアがあった。
地下に降りると、ラウンジがあったので、そこを改装してフィオナさんの意見を取り入れながらサロンにすることにした。
ちなみに、上の店からケーキも持ち込みできるようになっている。
「まあ、確かにここなら話しやすそうでいいですわね! あとは季節の花などが飾られていたら良いのですが」
そう言われたので、俺は観葉植物をひたすら飾り、照明もおしゃれなもの変えた。
家具もシンプルなものから、可愛らしい白を基調としたクラシックなデザインのものに変えた。
「せっかくだからここでケーキを食べたいのう!」
ペロにそう言われて俺達は奮発して大きなホールケーキを購入すると、ホールのまま三人でフォークでつついた。
──行儀は悪いが、なんとなく幸せな気持ちになった。




