【58】一緒に暮らすことにしました。
「──ちょっと待ってください! あの方は一体誰ですか?! 五カ国語話せて、身元がきちんとハッキリしているラングスチア人というお話でしたわよね?!」
扇をバサバサさせながらスミノフ公爵令嬢が捲し立ててきた。
「ご安心下さい。この人は隣国ナーミャの元公爵令嬢で当然言語もペラペラです。 そして、数ヶ月前に移り住むに当たってラングスチア国籍も取っています」
(実際何カ国語話せるかは知らんけどな!)
俺がキリッとした顔で答えると、スミノフ公爵令嬢は言葉を詰まらせる。
「──でも、エントリーしてないではないですか。せっかく私達はここまで来るのにドレスを新調して遥々やってきたというのに!」
その言葉にセインさんがはぁっと溜息を吐きながら前に進み出た。
「カワグチ殿目当てで来てくれた令嬢達には申し訳ないね。 ドレス代と交通費、それに無駄な時間を使わせたお金はこちらから補填しよう」
(……セインさん! ありがとうございます……!)
俺は心の中でセインさんに深く感謝した。
「そんな! 困りますっ!! 虐げられている私には帰るところがないんですぅううううう!!!」
そう言って、先ほどお菓子を持って帰っていいか尋ねてきたランガス伯爵令嬢がユサユサと俺を揺さぶってきた。
「あ、良かったらじゃあマンションの部屋、一部屋暫く無料で貸しますのでこの街に住みます? 新しく出来たスーパーかショッピングモールで働いてもいいですし、ケーキ屋でも書類仕事が出来るなら文官とかも受かればありだと思いますし……」
俺がチラリとグレイスさんの方を見ると、彼も頷いている。
「きちんと試験をパスして下さるなら問題無いです」
「──ということで、お見合いパーティーは終了です! 皆様遠路遥々ありがとうございました!」
サダニアさんが無理矢理締めてくれたので、渋々令嬢達は解散していった。
こうして地獄のお見合いパーティーはなんとか終了した。
ちなみに残ったケーキやお菓子は役場の残業中だった文官達とランガス伯爵令嬢にお裾分けされた。
◇◇
「それでは、カワグチ様とフィオナ様の結婚、並びにリオネル様とユリア様、そして、サミュエル様とモニカ様の婚約を祝して! カンパーイ!」
お見合いパーティーのあと、サダニアさんとグレイスさん、そしてセインさん達とカップルになった俺達六人はショッピングモールのイタリアンの個室に打ち上げに来ていた。
この前フィオナ王女とリオネルさんともご飯を食べた場所だ。
「いやー、それにしても、グレイス。──君、あの場にフォンティーヌ嬢を呼んだの、絶対わざとだろ」
そう言ってセインさんがワイングラスを傾けながら溜息を吐いた。
「何のことですかね」
グレイスさんが素知らぬ顔をしたが、俺は悟ってしまった。
──きっとあの令嬢達にヤバい何かを感じ取ってグレイスさんが機転を効かせてくれたのだと。
(ありがとうっ! グレイスさん! セインさんからOKが出たらグレイスさんにマンションかショッピングモールでもプレゼントしてあげよう……)
「しかし、よくあの一瞬で君も決断したね。元々付き合っていた訳とかではなかったんだろ? おかげで僕はこれから尻拭いだよ……」
セインさんがじとっとした目で俺を見てきた。
「すみません。マンションやコンビニで尻拭い出来そうだったら言ってください……。
でも、あそこにいた人達より明らかにフィオナさんの方が性格もいいし可愛いし、絶対一緒にいて楽しいんで。それに、一緒に暮らしても自然だと思ったので」
俺の言葉に個室内がシーンと静まり返った。
何故かフィオナさんが一人で口を両手で抑えて真っ赤になって固まっている。
「まあ! カワグチ様はフィオナ様のことがとても好きなんですわね!」
「素敵ですわっ!」
モニカさんとユリアさんはキャーキャー騒ぎ出した。
「君、案外天然だったんだね……全く、この僕が君には振り回されっぱなしだよ」
そう言ってセインさんが何故か虚な顔をした。
「カワグチ殿、フィオナを幸せにしてやってくれ」
リオネルさんが、そう言ってきたので俺は頷いた。
「はい! それはもう」
「大丈夫じゃっ! ワシもいるのじゃからなっ! フィオナを不幸にはさせんわいっ!」
ペロはよっぽど嬉しかったのか、俺以上に張り切っている。
「ところで、フォンティーヌ嬢の御両親はこの事をまだ知らないんですよね? その、挨拶に行っておいた方がいいのでは……」
サミュエル殿下の言葉に俺は目を見開いた。
(そ、そうだったーー!! ナーミャまで挨拶に行かなくちゃ!)
打ち上げが終わった後、俺はフィオナさんとペロと一緒にほろ酔いで歩いていた。
「──カワグチ様。これから不束者ですが、宜しくお願いします」
そう言ってフィオナさんが頭を下げた。
「いや、こちらこそ。フィオナさんこそ僕で良かったんですか? それに、書類仕事もやって頂くことになってしまいますけど」
俺の言葉に彼女は嬉しそうに笑った。
「はい! 大丈夫ですわ。王子妃教育で同じようなことはしておりましたし。──それに、カワグチ様が御結婚なさるとお伺いして、一緒にこれまでのように映画に行ったり食事をする人がいなくなってしまうと思ったら、急に寂しくなってきてしまって」
顔を綻ばせる彼女を見て、ちょっと可愛いと思ってしまった。
「……そうですか。僕はそこまで考えてなかったんですけど、言われてみればそうですね」
そんな事を話しながら歩いていると、マンションの部屋の前まで着いてしまった。
「あの、カワグチ様。いつからカワグチ様のお部屋に引っ越せばいいですか?」
「──えーっと、いつでもいいですけど」
俺が困惑しながら答えるとフィオナさんが上目遣いでジッと見てくる。
「……じゃあ今日からでもいいですか?」
俺が固まっていると、目の前にタブレットが自動で出てきた。
『結婚おめでとうございます。フィオナ・フォンティーヌとの部屋を合成して、新居にしますか?
──MPを5消費します』
俺は頭が半分ついていかない状態ながらも、YESを選択する。すると、パアアアッと7階全体が光り出す。
目を開けるとなんと部屋が繋がり、玄関のドアがお洒落な木製になっていた。
「まあ、素晴らしいですわっ!」
ちなみに、現在七階は俺達以外の住人は住んでいない。空いてる部屋の分は、俺たちの新居に吸収され、廊下はお洒落なロビーのようなスペースになった。
元々部屋があった向かいの壁が一面ガラス張りになりアルカディアが見渡せるようになっている。
フロアの端のスペースにはテーブルとソファ、ドリンクバーがあり、本を読んだり仕事をしたりするのに良さそうだ。
「──これから宜しくお願いします」
俺が声をかけると、フィオナさんが嬉しそうに頷いた。
恐る恐る玄関に入ると、これまでのマンションっぽい作りとは異なり、一軒家っぽい形になっている。間取りは4LDKになっていた。
居間、そしてテレビもデカくなっている。キッチンはアイランドキッチンというやつだ。
ユーティリティも広く、浴槽も倍くらいの広さになっていて、窓からはスカイファームタワーが見える。
「おー、メチャクチャいい景色ですね!」
部屋は、それぞれの部屋がそのまま移動しているが、寝室が一つになっていた。
「……あー……とりあえず、フィオナさん、先に風呂に入っていいですよ」
なんとなく居た堪れなくなって声をかけると、フィオナさんが頷く。そして、着替えを取りに自分の部屋に戻った。
──ザーッとシャワーの音がする中でペロと二人で居間でテレビを見る。
「……ワシは居間のソファで一人で寝るからな。頑張れよ」
ペロが突然そんな事を言い出した。どうやら気を遣っているらしい。
フィオナさんが戻ってきたので俺も風呂に入ることにした。髪を乾かして寝室に行く。すると、緊張した顔でフィオナさんが待っていた。丁寧に、寝室にお茶のペットボトルが並んでいた。
フィオナさんなりに落ち着こうとしたのがなんとなく伝わってきた。
二人きりになると急に静かになり、緊張が走る。
「──寝ましょうか」
俺が声をかけると、フィオナさんが頷いてもぞもぞと同じ布団に入ってきた。
「カワグチ様……」
上目遣いで見つめられて思わず喉が鳴る。気づくと、お互いに唇を寄せていた。
……その後、何があったかは内緒である。




