【51】帰ってきたのでとりあえずごはん
「はー。なんか疲れた……」
俺達はヴァラの王宮にサミュエル殿下を降ろして護衛の騎士や魔導士と合流すると、アルカディアに帰ってきた。
今日は流石にセインさんも疲れているということで、ホテルに泊まるそうだ。
俺達は兵舎にドラゴンを預け、それぞれ自分の家やホテルに戻った。
明日は朝イチで役場の会議室で今回の訪問の報告会をすることになっている。
「今日は美味しい肉が食べたいのう」
やっと部屋に戻ったペロは、ソファの上にダラーンと寝そべっていた。
「そうだな。あとでショッピングモールのファミレスに行くか」
そんな事を話しながらヴァラで買った調味料などを冷蔵庫に入れていく。
(あ、お土産の鶏せんべい、そういえば渡しに行かなきゃな)
俺はシャワーを浴びて着替えると、フィオナさんの家に鶏せんべいを届けに行った。
ピンポーン
インターホンを押すと、いつもの唐揚げちゃんTシャツに前髪チョンマゲスタイルで出迎えてくれた。
「カワグチ様っ! 無事戻られて良かったです! おかえりなさいませ!」
そう言って嬉しそうにしている。
俺がハーブチーズ味の鶏せんべいを渡すと「……まあ! 大層なものを!」と言いながら目を丸くしていた。
せっかくなので、フィオナさんと一緒にリオネルさんとソフィア王女にも鶏せんべいを届けると、みんなで一緒にご飯を食べに行くことになった。
◇◇
「……そうですか。ヴァラはラングスチアの属国になることになったのですね」
皆でファミレスに入って、ヴァラで何があったか報告するとソフィア王女、なんだか複雑そうな顔をした。
「……ええ、まあ。でも、ショッピングモールをセイワ共和国との国境に建てて、ラングスチアが後ろ盾になるだけなので。──支配されるとかそういうわけではないですよ」
確かにソフィア王女の立場からすれば良い知らせではないだろう。
「……そうですか。でしたらかえってよかったかもしれません。……その。父も兄も少し心配なところがありましたから。……良い人、なんですけども。セイワ共和国の属国になるのは何とか避けたい所でしたし」
そう言って彼女は力無く笑って、さらに続けた。
「あの、差し出がましい質問かもしれませんが、ショッピングモールの売上ってヴァラも頂けるのでしょうか」
「……一応二割は」
すると、彼女は溜息を吐いた。
「……まあ、賠償金などの支払いを免除して頂けたというのであれば妥当かもしれませんね。従業員はヴァラの者ですか?」
「はい。給料はラングスチアが支払うとのことです」
「……そうですか。ですが、もしそこに買い物する人が集中すると、あまり国内にはお金は落ちなくなってしまいますね。
果たして売上の二割がどれくらいの金額になるのか検討もつきませんが……」
ソフィア王女はどうやらサミュエル殿下より賢いようだ。
フィオナさんは、そんなソフィア様を気の毒そうに見つめながらも、爆速でミートソーススパゲッティを啜っている。
ペロは、肉をいつもの調子で貪り食っていた。
「──ところで、セイワ共和国って僕結局どんな国かよく分かってないんですよね。エキゾチックな衣装を着ていて、野心が高くて、ヴァラの王妃様の出身国だってのは知ってるんですが。
周りの国からはどう見られているんですか?」
俺が尋ねると、リオネルさんが言葉を濁した。
「……そうだな。謎に包まれている国、と言えるだろうな。国民がどんな生活を送っているかはよくわからないが、貧富の差が大きいらしい、というのは聞いている。あと、王の力が強いのはどこの国も同じだが、ある程度他の国は民の意見を領主経由で取り入れているんだが……。とてもじゃないが粛清が恐ろしくて国民が何かを言えるような感じではない、と商人が言っていたな」
言いながらリオネルさんは渋い顔をした。
「そもそもどうしてセイワ共和国から王妃様を娶ったんでしょうね」
俺がソフィア王女の方を見てそう言うと、彼女は何ともいえない顔をした。
「……セイワ共和国から結構貿易に関して税率を下げてもらったり融通を利かせて貰ったみたいなんです。父のことだからすぐに乗っかってしまったんでしょうね。──母もいなくて寂しかったのもあるかもしれないですし」
「ソフィア王女。あの……正直に答えてくださいね? ヴァラから貴女がいなくなってしまったら、結構……まずいんじゃないですか?」
俺の言葉に彼女は唇を引き結んだ。
「──もしそうだったとしても、王太子はお兄様ですもの。私にはどうしようもないことだわ」
そう言って視線を下に落とした。
(……まあ、俺には関係ないことなんだけどさ。なんか、ちょっとだけヴァラにも親しみが沸いちゃったんだよな)
そんな事を考えながら、俺はハンバーグを飲み込んだ。
◇◇
「カワグチ様っ! お帰りなさいませ!」
──次の日。そう言ってグレイスさんがなんと抱きついてきて、ちょっとビビる。
「ただいまー。はい、これお土産です」
俺が鶏せんべい(塩味)を渡すと彼は苦笑した。
「……別に無事で帰ってきてくださっただけで十分でしたのに」
「ちょっとグレイス! 僕よりなんかカワグチ殿の方に優しくない?」
セインさんが隣で仏頂面をしている。
「……心配だったんですよ! 大体セイン様はカワグチ様を便利に使い過ぎなんですよ! 今回だってカワグチ様ありきの作戦だったではないですか」
「うーん、まあ、それは否定しないけどさ」
まあ、別に俺としてはただの暇人だったから観光に行っただけだけどな。
──それから報告と話し合いが行われた。
無事宰相と影武者、それに王妃を捕らえたこと。
そして、ヴァラとセイワ共和国の国境にショッピングモールをすでに建てたこと。
売上の取り分が今の所ラングスチアが四割、俺が四割、ヴァラが二割になったことなどが挙げられた。
「あとは、アルカディアに捕らえているヴァラを侵攻して来た者達をどうするかですよね。
──属国としてこちらがヴァラを整えたら、返してしまっても良いですか?」
「うん、構わないよ。あとは、ソフィア王女の嫁ぎ先かな。僕が選んだ候補なんだけど──」
その言葉を俺は思わず遮ってしまった。
「……ちょっと待ってください」
「なんだい?」
セインさんが俺を訝しげに見てきた。
「多分あの国、王族の中では一番賢いのがソフィア王女です。……あの国が再生する為には、いなくなってしまったらまずいのでは? まあ、言うなりにさせたいだけなら今のままでもいいかもしれないですけれど。
セイン様はきちんと発展して欲しいと考えていらっしゃいますよね?」
「まあ、それはそうだけど。
けれど。彼女にラングスチアに嫁いで貰わないと人質がいなくなってしまうだろ?」
そう言ってセイン様が困惑した顔をする。
「……それなんですけれど。僕に考えがあるんです。 それは──」
俺が考えを伝えると、彼は目を見開いた。
「……確かにそれはいい考えかもしれないけれど、果たしてサミュエル殿下とヴァラの国王陛下に受け入れられるかどうか……。下手したら属国になるのを辞めるって言い出すかもしれないよ?」
「うーん……そしたら、ショッピングモールの取り分を僕の分から何割か交渉材料にしていいですよ?……僕、あの国に少しだけ、愛着がわいちゃったんですよね。だから、いい国になって欲しいなって思いまして」
その言葉にセインさんが溜息を吐いた。
「──わかった。それではアルカディアで契約書類を交わす際にその事を伝えてみよう」
もしかしたら、俺の考えはヴァラの王族のプライドを傷つけてしまうかもしれない。
──それでもこうするのが、きっとあの国にとってはベストなのではないか……と俺は思ったのだ。




