【45】ヴァラ王宮に乗り込みました。
「やぁ、カワグチ殿。久しぶり」
一週間後。ドラゴンに乗ってセインさんが護衛と共にやってきた。フィオナさんとソフィア王女、そしてリオネルさん、グレイスさん達が見送りに来てくれた。
「セイン様、お久しぶりです! 宜しくお願いします」
俺はペロと迎えのドラゴンに乗り込んだ。
セインさんとはあれから、ヴァラで万が一何かあった時の為に、綿密な作戦を立てた。
今回ヴァラに行くドラゴンは二匹だ。一匹はタロウである。騎士団のメンバーと何人か魔術師も一緒だ。
──兵舎に行ってからタロウになかなか会えていなかったが、元気そうで何よりである。
俺が手を振ると、嬉しそうに「グルオオオオッ」と咆哮した。
(うん、やっぱタロウは可愛いな)
「ヴァラはワシも行くのは初めてじゃのう。まあ、相手がどんな態度を取ってくるか、ちと不安はあるが、楽しみじゃ」
ペロが尻尾を振っている。
「カワグチ様。気をつけて行ってくださいね」
フィオナさんは心配そうに眉尻を下げている。
「はい! 大丈夫ですって! お土産買ってきますね」
俺が答えると、フィオナさんの横でソフィア王女がお辞儀をした。
「──どうか、ヴァラの事を宜しくお願いします」
うん……。セインさん、普通に属国にするとか言ってたけど……。
まあいっか! 今より悪いようにはならんでしょ!
「カワグチ殿! 帰ってきたらまた一緒にゲームしよう」
リオネルさんは通常運転だ。そういえば、大使館をまだ作っていないのだが、この人は毎日何してるんだろう……。
毎日朝起きて、ご飯食ってダラダラしてるだけなのでは……。ま、俺も人のことは言えないけどね!
「うん。じゃあ行こうか」
セイン様の言葉でドラゴンがふわりと飛び立つ。
「行ってきまーす!!」
俺達は見送りに来てくれた人達に手を振って、ヴァラ共和国に向けて出発した。
◇◇
「そういえばセイン様。ラングスチアって何カ国くらい治めている国があるんですか?」
今はドラゴンに乗りながら皆でバリバリお菓子を食っている。ちなみにペロは騎士団のメンバーにモフられてご機嫌である。
「今の所五カ国だね。ヴァラが属国になったら六カ国になるかな」
「へえ……。今回ショッピングモールのプレオープンに来たトライデンとナーミャ、それにサヴィーニャ公国ですっけ。そこは属国ではないんですね」
「ああ。ナーミャはドラゴンの飼育に長けているし、魔道具も発達しているからな。向こうも友好的だし、対等な立場で取引を続けた方がメリットがあると考えている」
どうやらフィオナさんとリオネルさんの故郷のナーミャは何気に凄い国らしい。
俺が感心していると、さらにセインさんが続ける。
「サヴィーニャとドライデンはまあ……。属国にしようと思えばできるかもしれない。けれど、流石に何もしてないのに攻め込むのはこの世界でも国際的にマナー違反だからさ。──そういう意味では、今回ヴァラはよくもまあ、やってくれたよね。事前にソフィア王女からの情報がなかったらどうなっていた事か」
そう言ってセインさんが溜息を吐いた。
「あ、そうだ。今後のスケジュールって教えてもらってもいいですか?」
「そうだね。まず、ヴァラに着いたら謁見する。──で、国王が出てきたら、変身術を解かせて、替え玉が誰か確認しなければいけない。宰相は……どんな言い訳をするか楽しみだね」
さっきからにこやかに話しているのにセインさんの目が全然笑っていない。
「王太子殿下は、こちら側に引き込むよ。ま、もちろん様子を見てだけどね。属国になったら彼にはヴァラを継いでもらってこちらの言うなりに動いてもらおうかなって。……まあ、僕も鬼じゃないし、彼にはそんなに酷いことはするつもりはないよ?」
「そうですか。……そして、王様は、ラングスチアで治療させるんですもんね。お妃様はどうするんですか?」
ちなみに、この前話した時は治療してあげるなんて優しい……と思っていたけれど、要は人質なのだろう。
「うん。それなりの罰を受けてもらうよ。当たり前だよね。ナディア王女は……、セイワ共和国と婚約しちゃってるらしいからね。制裁を下すのはセイワ共和国を潰す時かな」
「──ソフィア王女はどうするんですか?」
「ああ、彼女はラングスチアの貴族に嫁いでもらうおうかな。ヴァラも流石に王と王女を取られたら向こうもこちらに従わざるを得ないだろうし」
(──はい、リオネルさん、失恋決定)
流石に大使とはいえ、ナーミャの王族とは結婚できないだろう。
俺は仕方ないから帰ったらやけ酒に付き合おうと決心した。
◇◇
「うん。時間通りだな」
大体ドラゴンで一時間程度でヴァラの首都に着いた。
王宮は高さはないがとても大きく、煉瓦の堅牢な作りだった。ドラゴンを降りると、すぐに謁見室に通された。
「……セイン殿下。よくぞお越しになられました」
出迎えてくれたのはフィオナ王女の面影を感じさせる国王陛下(恐らく替玉)とサミュエル王太子殿下。それに、宰相殿だった。目力が強い感じの小狡そうなおじさんである。
周りにはこちらより遥かに多い人数の兵が並んでいる。
(うわ、これ……! 絶対威圧にきているよな)
宰相と替玉はにこやかであるのに対し、サミュエル殿下は無表情だ。……というか、顔色が悪い。
恐らくセイン様がついにここまで来たということが、どれほど切迫した事態か気づいているのは彼だけだろう。
ソフィア王女はサミュエル殿下とだけ連絡を取っているらしいので、彼だけは何が起きたかわかっている。
他の者達は恐らく、俺が全て偵察の魔道具もチョコに変えたので、まさかこちらに圧倒的にねじ伏せられたとは思っておらず、まだ戦っている…とでも思っているのだろうか。
「ええ。実は七日ほど前、我が国が力を入れて開発をしている街、アルカディアが突然攻め込まれまして」
その言葉でその場が水を打ったように静まり返った。
その間にも俺は謁見室の中を不自然じゃない程度に物色する。
(うーん…なるほど。こういう作りか)
俺は怪しい雰囲気を早くも感じ取り、万が一に備えて頭の中でシュミレーションする。
「それは何ということだ。攻め込んだのがどこの国かはわかりませんが、我が国で力になれそうな事があれば何でも協力しよう」
影武者がいけしゃあしゃあと言い放った。
(あ、しらばっくれる気だな)
俺が少しイラッとしていると、セインさんが言い放つ。
「……それはおかしいですね。攻め込んだ者達が『ヴァラから来た』と言っていたのですが」
そして作戦通り、演説するフリをして少しずつヴァラの兵のいない壁際に寄っていく。
俺も後ろでヘラヘラ笑いながらセインさんと一緒に壁に寄っていく。
「そんなことは濡れ衣です! 私達がそんな事をする筈がないではないですか!! 正式に抗議させて頂きますぞ!」
宰相がそう言った瞬間。俺はバレないように後ろに手を掲げる。
最近知ったのだが、タブレットは設定画面から『プライベートモード』を選択すると頭の中にだけ表示する事も出来るらしい。
頭の中にいつもの文字が思い浮かぶ。
『スキルポイントを5消費して、テナント(コンビニエンスストア)を生成しますか?
MPを10消費します。』
そのメッセージに俺が『お願いします』と念じた瞬間──。
パアアアッと謁見室が白く輝き敵を目潰ししている間に壁際にコンビニを作った。
俺とセインさんをはじめ、ラングスチアの兵士がどさくさに紛れてコンビニの中に逃げ込む。
「「なっ!!」」
宰相と影武者とヴァラの兵が驚きの声を上げる。
──コンビニの中にさえ入ってしまえばもうこっちのものである。
俺がコンビニの窓を開けると、中からラングスチアから連れてきた魔導士のうち一人が影武者に魔法を放つ。
すると、影武者がパアアアッと光り出す。
「…陛下になんて事を!!」
──宰相が叫んだ瞬間。
国王陛下とは全然違う顔の、少し中年太りの、どこにでもいそうなオッサンが現れた。




