【44】セイン様、ガチで怒ってる件。
「カワグチ様っ!」
──次の日。
俺は役場のカフェテリアで手の空いた文官さんとフィオナさん、そしてリオネルさんと一緒に紙を敷いて金槌やゴム手袋をはいてチョコを割って、ペロモールの100均で買った透明な袋に入れていた。
チョコがとけないように冷房が効いているので皆には上着を着てもらってる。
戦車とかはあとで剣聖ヴィクラムさんに刑務作業の一環としてブルーシートを敷いて一口サイズに切ってもらう予定だ。
砕いたチョコはアルカディアの住人たちに配る予定である。
──うん、今日も平和だな。
ペロは外を見ながら日向ぼっこをしている。
俺があくびをしようとした所でグレイスさん、そしてグレインさんに付き添われたソフィア王女がやってきた。
「おー、ソフィア様じゃないですか! ヴァラの騎士団長と話せました?」
俺が尋ねると笑顔で答えた。
「はい、お陰様で!!」
「良かったじゃないですか。これからどうするんですか?」
すると、ソフィア王女ではなくて、グレイスさんが答えた。
「セイン様とも話したのですが、我が国の『捕虜』として暫くアルカディアに滞在してもらいます。
ヴァラの孤児院の院長にも話をつけて、こっそり献金もしておきました。
申し訳ないのですが、一応監視のアンクレットだけ付けて頂きますが、基本客人なのでホテルに滞在して頂きます」
「あー、それがいいっすね。よかったですね、ソフィア様」
「カワグチ様にはこれから、セイン様も魔道具で会議室で会話をして頂きます。
魔導士が一人きて、映像を映してくれる予定ですので」
要はリモート会議ってことね。
「わかりました。じゃあ行きましょうか。ソフィア様はスパでも行ってゆっくりしてくださいね」
俺の言葉にソフィアさんが御礼を言った時だった。
「ソフィアたん、はい、これ! 君のために俺が砕いたチョコレートだ」
リオネルさんがずいっとチョコレートをソフィア王女に渡した。なんとなくリオネルさんの言葉尻がちょっとキモい。
「あ、リオネル様。ありがとうございます」
チョコレートをうけとるソフィア王女を尻目にチラリとフィオナさんを見ると、リオネルさんには目もくれず大砲だったデカめのチョコをガンガン叩き割っていてホッとする。
良かった。どうやら気にしてないようだ。
俺は皆さんに手を振ると、ペロと一緒に会議室に向かった。
◇◇
「やあ、カワグチ殿。昨日はお疲れ様。
…まさか本当に無血で敵軍を圧倒するとは思ってなかったよ。君、建物を建てる以外にも凄かったんだな。」
会議室に入るとすぐに会議が始まった。
呆れたような複雑そうな顔で笑うセインさんに俺は曖昧な顔で笑っておく。
スキルについて色々突っ込まないで欲しいので何か言われる前に答える。
「いやー、僕自身もびっくりです。セイン様、ところで、これからどうなるんですか?」
すると、セインさんがニヤリと笑う。
「んー、とりあえず、ソフィア王女と今回進軍した兵には捕虜になって貰ったままアルカディアに止まってもらうよ」
「そうですか、でも、家族がヴァラにいる人は可哀想ですね…」
その言葉にセインさんは苦笑する。
「まあねー。でも、流石に今すぐ返してあげるのは無理かな。ということで、1日も早く彼らが家に帰れるよように僕に名案があるんだ」
名案とは一体なんだろう?
俺はワクワクしながら顔を上げる。
「え、何ですか?」
すると、セインさんが薄く笑った。
「うん。決まってるよね。勝手に攻め込まれて僕が怒らないとでも思う?
普通にヴァラにはラングスチアの属国になって貰うよね。いくらこっちに情報をくれたって言っても中枢になってる人達が裏切ってるんだったらその人達を叩くしかないよね」
セインさんは笑ってるけど、よく見たら目の奥が笑っていなかった。
これは恐らく、めちゃくちゃ怒っている。
「え、え、マジっすか?」
思わず言葉遣いがいつもより崩れてしまう。
「うん。結果としては君がいてくれたからどうにかなったよ? でも、それはあくまでも結果論だ。
もし、これが他の都市や村だったら?
──多分、村人やその都市の人間、ほとんど死ぬんじゃないかなぁ。
いくら優しい僕でもさ。ちょっと見過ごしてあげることは出来ないかな。ってことで、カワグチ殿。
僕、グレインとヴァラにサクッと行ってこようと思うんだ。場合によってはヴァラの宰相とお妃を殺さないといけないしさぁ。
悪いけど、七日後にグレインと三日ほど一緒に行くんだけど、君もきてくれない? 僕は向こうと違って紳士だからいきなり侵攻なんてしないからさ。
もちろん訪問することも伝えたんだよね」
この人、今サラッと殺すって言ったんですけど!
「あ、あのー、僕、生臭い感じになるのはちょっと…」
俺が冷や汗を流しながら答えると、セインさんは口の端を上げた。
「大丈夫大丈夫!君の目の前では殺さないって約束するよ! それに殺すのは最終手段だからさ。
まだ確実に殺すって決めたわけではないね。まあ、属国にはなって貰うけど。
だって、どうせ今だってセイワ共和国の属国みたいなもんじゃない?
ヴァラ共和国から王国になってうちの国に属して貰うだけだ。
ちょっと口出しはするけど、自治権与えるつもりだよ? あと、お金も取るけど」
…うーん、それならまあいいんかな?
「そういえば向こうの王様は今伏せってるって話でしたよね? どういう扱いにするんですか?」
「あー。多分、毒だろ? とりあえずラングスチアかナーミャで治療させるよ。ヴァラよりは医療が進んでいるからね。君とペロの旅費はもちろん全部出すから! 来てくれたら税金もとりあえずアルカディアはずっと全部タダにしてあげてもいいよ?」
え、マジでいいんすか? 俺はこの美味しすぎる条件にすぐ飛びつくことにした。
「行きます!」
考えたら異世界に来てからナーミャにちらっと行ったくらいで旅行をしたことがなかった。
人のお金で、仕事という名目で海外に行けるのは俺としても嬉しい。
「ありがとう。交渉が成功したらその他に手当ても出すつもりだ。ヴァラは肉料理や麺料理が有名だからね。たくさん名物を一緒に食べよう」
こうして俺はグレインさんとセインさんとヴァラに行くことになった。
◇◇
「まあ!! それは本当ですの?」
俺はその日の夜、フィオナさんとペロと一緒にショッピングモールで寿司を食っていた。
七日後にヴァラに行くことを伝えると、フィオナさんはなんだか不安そうな顔をした。
「はい、セイン様が誘ってくれました」
フィオナさんは何だか考え込むような顔をした。
「公式訪問ってことはヴァラの王宮に泊まることになりますよね? その、大丈夫でしょうか」
「大丈夫っていうのは?」
俺がキョトンとすると、フィオナさんが眉尻を下げる。
「…敵対国に、しかも昨日侵攻してきた国に入るのは、モンスターの巣に入り込むような自殺行為でもありますわ。 その、毒など盛られないか心配でして」
…そんな事、全く考えてなかったー!!
そうか、そういう可能性もあるのか。い、行きたくねぇー!!
「…え。そういうもんですか」
思わず挙動不審になりながら中トロを飲み込む俺にフィオナさんが溜息を吐いた。
「そういうもんですわ。カワグチ様。アイテムボックスに食べ物や飲み物を念の為沢山入れて行った方がいいですわよ? 外の飲食店ならまだしも、お城の中の食事は何を入れられるかわかったものじゃないですわ」
「うわー…マジっすか。とはいえ、もう行くって言っちゃいました…」
俺の言葉にフィオナさんはジュースを一気飲みした。
「…鑑定の魔法を使える魔導士が同行出来ればいいのですが、食事の席で許されるかどうか…」
俺は思わず顔を上げる。
「…良かった! 俺、鑑定できます!」
「…え。鑑定まで出来るんですの?! …でも良かった、それなら安心ですわね。いいですか、カワグチ様。念の為に食事に手をつける前に鑑定するようにして下さい」
フィオナさんの言葉に俺は心から頷いた。




