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第114話 視線の先にあるもの

「あの山を越えれば、村が見えてくるはずだ」


先頭を行くルダルが後ろを振り返って、笑みを浮かべて言った。


「えっ、もうそんなに近いの?」

「思ったより早いな」


ルノアとエメルダが顔を見合わせ、驚きの声を上げる。


ミィナとリーファは顔を見合わせて笑顔になると、ルクピーが「ルクーッ!」と鳴いて、ミィナの腕から元気よく飛び上がった。


一方、ジルクは初めて訪れる他エリアの空気に圧倒されているのか、どこか緊張の面持ちを浮かべている。


アマトはそんな様子の仲間たちを最後部から見守り、穏やかに目を細めていた。


しかし、そんな緩やかな空気の中、


グウォォォーーッ!


空を裂くような低い唸り声が響いた。


一行の足を止めたのは、鋭い牙を剥き出しにし、狂気に満ちた眼光でこちらを睨む野生の熊種の魔物。


「一匹か、だったら……」


ルノアがいたずらっぽく後ろを振り向いて叫ぶ。


「ジルク! 出番だ!」


エメルダも同じく顔を彼に向けて、意地悪く笑った。


「死ぬなよ! もし死んだら、お前のその飛び道具、俺が形見としてもらってやる」


ルダルは苦笑しながらも、一行の安全を確認し、


「まぁ、いいだろう。実地訓練だ」


と言って一歩後ろに退いた。


「は、はい! 頑張ります!」


ジルクが緊張した足取りで一行の前に出る。


彼の右手には、一つのアイテムがあった。


それは、かつてバルナックが作り上げた発砲武器をさらに小型化し、洗練させた魔銃であった。


ジルクがその魔銃を構えると、魔物が咆哮を上げて彼目掛けて突進してくる。


彼は慌てて引き金に手をかけると、


バンッ


と鋭い発砲音とともに、魔力の弾丸が魔物の腹部を貫いた。


咆哮が悲鳴に変わり、魔物が力なく倒れ伏す。


「やった!」


手応えを感じたジルクは、魔銃を構えたまま倒れている魔物にゆっくりと歩み寄る。


そして、彼が恐る恐る魔物を覗き込んだその時だった。


ガオォォーーッ!


と唸って、魔物がジルクの魔銃を腕で払い落とした。


そして、魔物が片腕を高らかに上げた。


「しまった!」


そう言って、ジルクが思わず目をつむり、防御の体制をとった時、魔物の右腕が振り下ろされた。


ドコォォーーン。

ゴロゴロゴローー。


岩壁が崩れ落ち、砂煙で辺りの視界が遮断された。


しばらくすると、砂煙が薄れ、そこから現れたのは、先ほどジルクにトドメを刺そうとしていた魔物の姿であった。


ジルクは、あっけにとられてその場に立ち尽くした。


ふと気づくと、前方にはルノアとエメルダの後ろ姿があった。


「まったく……詰めが甘いのよ。あんたは」

「次は助けてやらねぇぞ」


ルノアとエメルダが振り向いてジルクに言った。


「あ、ありがとうございます。以後、気をつけます」


そう言うと、ジルクは頭を下げた。


そして頭を上げるとき、彼の眼は、あるものを捉えていた。


ルノアの揺れるポニーテールの隙間から垣間見えるウロボロスの痣――。


ジルクは、ゴクリ、と唾をのみ、それを見つめた。


すると、後方で様子を見ていたリーファが、


「まったく……調子狂うわよ……」


と呟くように言って、昨日のことを思い出しながらルノアを見つめていた。




前日の夜――




「アマト様……リーファさんを連れて来ました」


ジルクがアマトに声をかけた。


「お兄ちゃん、なんか用?」


アマト、ミィナ、そしてルダルの前で立ち止まるリーファ。


アマトが一歩前に出ると、


「実は、二人に話しておきたいことがある」


と、二人の顔を見て言って続けた。


「ルノアの首筋にある痣を知っているか?」


「あぁ、痣っぽいのがあるとは思ってたけど……」

「僕は、タトゥーかなにかかと思ってました」


リーファとジルクが答えると、


「あれは”ウロボロスの痣”と言って、”記憶封じの楔”という神が作ったシステムによる呪いの表れだ……」


アマトが目を伏せて言った。


「「……呪い!?」」


思いもよらない言葉にリーファとジルクが声を揃えて驚いた。


「あぁ……この呪いは、異世界人が前世の記憶を語った時に、その話をした者、又は、それを聞いた者のどちらか一方にだけ掛かることになっているらしい……俺はそのときは知らなかったんだ……」


一拍おいて、アマトが言った。


「だが、ルノアに前世の話をしたのは俺だ……だから、あいつに呪いを背負わせたのは、俺自身だ」


「「!?」」


驚きを隠せない二人がそこにいた。


「ルノアの呪いが、どうやって発動するのか、いつ発動するのか……いまはまだ何もわかっちゃいない」


悔しさをこらえるように話すアマトを、悲しそうに見るミィナ。


アマトは右手を目の前に挙げると、


「だから俺たちは、呪いを解除する方法を探しに人間界と神界へ行くつもりだ。もちろん、魔獣が現れる原因を突き止めることも重要だが、これが隠された目的なんだ……」


と言って、拳を作った。


そこへミィナが


「アマト様……もう一つ、ご自身の真の目的もお話しされた方がよろしいのではないでしょうか……」


と静かにアマトに促した。


「……」


アマトは、握りこぶしをほどき、手を下げると、天を仰いで力なく話した。


「あぁ、実はもう一つ、やりたいことがある。だが、それは前世の記憶にかかることで、それを口にした瞬間、また“楔”が誰かに打ち込まれる……」


しばらくの沈黙ののち、


「だが、必ず見つける。解除する方法も……全部だ」


と言って、アマトが力を込めて言った。


それを聞いた二人がアマトに応える。


「なら、一緒にやるだけでしょ」


リーファは、迷いなく言い切った。


「……では、僕が解明します。呪いの仕組みも、解除方法も」


ジルクも力強く言った。


それを聞いたアマトは、僅かに息を吐くと、


「……頼む」


と言って、目を上げ、二人を見た。


リーファが、


「当然でしょ」


と言って、明るい顔をアマトに向けた。


一方、ジルクは、


「必ずやり遂げます」


と、真剣な顔つきで言葉を返した。


そして、ミィナも笑みをこぼすと、アマトの顔を見上げた。


ルダルは、一歩前に出ると、


「話がまとまりましたね。前へ進みましょう」


と言って、アマトを見て頷いた。


「あぁ……」


アマトがルダルに顔を向けて言った。




――




リーファは、ルノアへの視線を外し、一度、目をつむると、


「沈んでいても仕方ないわね。よし……」


と言って目を開け、前へ駆け出して明るく声を発した。


「ジルク!私も、あんたを鍛えてあげるから覚悟しなさい!」


ジルクが、ギクッとして、後ろを振り返ると、


「マジ……ですか」


と言って、落胆の色を隠せずにいた。




そんな様子を少し離れた場所から見ていた者たちがいた。


二人の目の前に浮かぶモニターらしきものには、ルノアが投影されている。


「ハクギョウ、あの……ウロボロスの痣が刻まれているな」


黒衣の男が呟くように言った。


「あぁ……確かに」


ハクギョウがその男を見る。


そして、モニターはアマト達全員を映し出す。


「レマルガよ。この連中をマークすることにしよう」


「あぁ、そうだな」


レマルガが、モニターをじっと見つめ静かにうなずいた。


その時――


モニターの端で、ミィナの視線が、わずかにこちらを向いた。


それはまるで、何かを感じ取ったかのように――。


だが、二人がそのことに気づくことはなかった。

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