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第103話 動き出す者と立ち止まる者

ティターンズ神クリュング三世との戦いから二日後のエルシアの森とドルムの里――


グラントが、森の修復作業の指揮にあたっていた。


「おーい、ドルマ。向こうの倉庫から石材を持ってきてくれ!」


グラントがドルマの姿を発見すると、大声で叫んだ。


「あぁ、分かった。ここの作業があともう少しで終わるから、ちょっと待っててくれ!」


ドルマがグラントの方を向いて声を張り上げる。


しばらくすると、


「ドルマさーん、ちょっとこっちを手伝ってもらえませんかぁ!」


ジルクが広場の方から手を振る。


「さっきグラントから頼まれごとがある!すまんが、別の奴に頼んでくれ」


「わかりましたぁ!」


ジルクは元気に返事を返してきた。


「まったく、人使いが荒い奴らだ。こっちはこの間の戦闘で、あちこち捻挫してるんだがな……」


作業を続けながらドルマがぼやいた。


そして、ふとグラントの方に顔を向けると、一人の老ドワーフとグラントが話しているところだった。


「ほう。これは珍しい客と話してるな」


と、ドルマがニヤッと笑った。


――


「お主が、直接頼んだらよかろう」


と、珍しいものを見たかのようにグラントが笑う。


「ば、馬鹿なことを言うな。私がそんなことできるわけないだろ!」


そう言って、声を荒げているのはバルナックであった。


バルナックは、セイラスタンに体を射抜かれて、ミィナの介抱により、いまは歩き回れるぐらいまで回復していた。


「そもそも、ただでさえ私は、ミィナ……様……にだな、助けられた身だ。これ以上、あのお方の主≪あるじ≫にまでお願いができるわけなかろうが!」


バルナックは、グラントの笑いにどうにも腹が立ったようだ。


「あぁ、わかったわかった。ジルクの件はな、実は、わしからもお願いしようと思っていた。だから、そう怒るな」


「そ、そうか。では、頼んだぞ」


バルナックは、少し落ち着きを取り戻し、小さく言って、振り返ると自分の家の方へ歩いて行った。


その姿を、どこかうれしそうなグラントがいつまでも見続けていた。



リーファの寝室ーー



ベッドの上で寝返りをうつリーファ。


窓の桟には、1匹の小鳥が止まっていた。


コン、コン。


その小鳥が桟を嘴で突く音が部屋に響くと、


「ん、んー」


とリーファが声を出して、ゆっくり目を開けた。


しばらくボーッと天井を見つめるリーファだったが、


「はっ!」


急に我に帰り、ガバッとベッドから飛び起きた。


「私、生きてる?」


自分の体を確かめるように、両腕で自分を包んだ。


「そうか……私、セイラスタンを……」


そう言うと、彼女の目から涙がこぼれそうになる。


その涙をこぼすまいと、再び顔を上に向けたリーファ。


涙でぼやけた天井を見つめたまま、リーファは口を強く食いしばった。


そして、


「ふぅーっ」


と、彼女は深い呼吸をして、両手で目を軽く拭うと、ベットから起き上がって部屋を出て行った。


しばらくすると、リーファの家のドアが開き、そこからリーファが出てきた。


彼女の目の前に広がる光景は、見慣れたそれとは大きく異なった。


樹々は倒れ、地面はいたるところが陥没し、心なしか森がざわめいているように感じた。


彼女は、軽くため息をつくと、前に歩き出した。


あちらこちらで、復興作業の音と作業員の声が聞こえてくる。


その様子を目で追いながら、リーファは明らかに人を探しているようだった。


森の広場付近まで来ると、彼女の眼にグラントが作業をしている姿が映り、少し顔が明るくなった。


そして、グラントのところへ小走りで走っていった。


「グラントォ!」


リーファが声を上げると、グラントが彼女の方へ振り向き手を振った。


「おぉ、リーファ。起きたか」


グラントのところへたどり着くリーファ。


「すごいことになってしまったわね……」


「あぁ、そうじゃの。幸い森と里のものに被害者は出ておらん。これもアマト殿のおかげじゃの」


グラントが周りを見回しながら言った。


「アマトは、今どこにいるの?」


ハッとしてリーファは、探している人物の居所を聞いた。


「アマト殿はぁ、詰所でみんなと今後のことを話すって言っておったな」


髭を撫でながらグラントが応える。


「そう。ありがとう」


そう言うと、リーファは詰所に向かって駆け出していった。


その姿を目で追うグラントの表情は、どこか心配そうであった。




リーファが走っていく先に、詰所が見えてきた。


彼女は、少し手前で足を止め、乱れた息を整える。


胸に手を当て、何度か深く呼吸をしたあと、ゆっくりと歩き出した。


そして、ドアの前に立つ。


中からは、アマトたちの話し声が微かに聞こえていた。


リーファがドアノブに手をかける。


その時だった。


「よっしゃぁーー! いよいよ、人間界一歩手前!オーガの村へ乗り込むぞぉ!」


ルノアの弾けるような声が、扉越しに響いた。


――その瞬間。


リーファの手が止まった。


ドアノブを握る指先に、わずかに力がこもる。


だが――その手は、ゆっくりと力を失い、音を立てることもなく、ドアノブから手が離れた。


やがて、彼女は静かに目を閉じて、ふっと息を吐く。


そして、ゆっくりと背を向けると、足音を立てぬように、一歩、また一歩と歩き出した。


来た道を引き返すように、振り返ることなく歩き去っていった。

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