第104話 太古神ゼウスと深淵のフィリア
「よっしゃぁーー! いよいよ、人間界一歩手前!オーガの村へ乗り込むぞぉ!」
ルノアが両手を上げて気合を入れた。
「うぉぉぉ、俺もやるぞぉぉぉ!」
エメルダも負けじと声を跳ね上げる。
「お前たち、気合を入れるのはいいが……人間界を甘く見るなよ。なにせ、七つの大罪共が目を光らせているからな」
ルダルが大はしゃぎの二人にくぎを刺した。
しかし、
「大丈夫でしょ。アマト様がいれば怖いものなしさ!」
「まぁ、俺達も相当強くなったしな」
「そうさ!神クラスの魔獣を倒したから、ついにオレたちはエクストラスキルをゲットできたし!」
「そうそう。神様にだって勝てる気がする!いや、それどころか、幽霊にだって勝てる気がしてきたぞ!」
「そうだな。あぁ、そうだとも!はっはっはっ」
と、まったく緊張感のない二人であった。
そこへアマトが、
(お前ら、神より幽霊の方が格上なのかよ……?)
と心の中で突っ込みを入れていたことを二人は知る由もない。
ルダルもミィナも、この二人の言動にはあきれ返っているようだった。
アマトの精神空間では――
『そうそう、この前の魔獣からの魔素なんだけど、大量だったわ!アマトちゃん、ちゃんと仕事してるじゃない!』
と、ティアマトも緊張感のかけらもなかった。
『お前も、あの二人とソックリだな……』
アマトがあきれると、
『あら。ルノアちゃんもエメルダちゃんもかわいいから、ソックリってうれしいわ!』
と言って喜ぶノー天気なティアマト。
『……そういう意味じゃないんだがな……』
話をしていて、だんだん面倒になったアマトは、それを振り払うように現実世界で言い出した。
「ところで、あの魔獣が発した”ゼウス”と”フィリア”なんだが……」
一呼吸置くと、アマトは続けて言った。
「ゼウスは、俺の前世の世界でも有名な万能の神の名前なんだが……同じ神なのか……違うのか……」
すると、ルダルが応じる。
「私が聞いた話では、ゼウスはオリンポスの伝説の神だということです。大昔、ティターンズ神をタルタロスに追いやったのがゼウス神で……」
ルダルが説明を開始すると、
『アマトよ、ゼウスの話なら俺様が教えてやろう』
とゼルヴァスがアマトの精神空間で話し込んできた。
『ゼウスは、ルダルが言ったように太古のオリンポス神の一人だった。そのころオリンポス神とティターンズ神との間で大きな戦争があってな』
ゼルヴァスは仰向けのまま目をつむっており、その声はどこか得意げだった。
『結果は、オリンポス神の勝ち。ゼウスはティターンズ神どもをタルタロスに閉じ込めたわけだ。ただ……』
そう言って片目を開けるゼルヴァス。
『ティターンズ神どもが生み出したテュポーンという化け物が異世界へ逃げ込んだんだ。そして、ゼウスもそいつを追って転移したということだな」
その時、
『おい、その異世界ってのは……』
とアマトが間髪入れず言った。
『……そうだ。お前の前世の世界だ』
ゼルヴァスが両眼を開けて応えた。
そして、アマトは一つの疑問を思いつき、叫ぶように言った。
『だとすると、こっちの世界から俺の前世へ転移できるってことか!?』
ゼルヴァスの眼が鋭く光る。
『そう言うことだ。だが……普通のやつらでは無理だ。俺様ぐらいの資質がないとなっ。アマト、お前にはちょっと無理だ。はっはっはっ!』
と笑って勝ち誇った感じに言った。
『あら。確かに今のゼルヴァスちゃんなら、アマトちゃんの前世へ簡単に行けるわよ。そこからカオス空間に落ちれば簡単だわ。やってみる?』
ティアマトが、嬉々としてゼルヴァスに言いよる。
『や、やめろ!俺様は絶対に落ちないぞ。アマトの身体をうばわねばならないからな!お前があっち《カオス》へ行けっ!』
ゼルヴァスは、カオス空間の入り口に大の字で引っかかりながら、必死にカオス空間の方を顔で指した。
『えぇ~っ。いいじゃない。減るもんじゃないしぃ……』
『バカッ!カオスへ行ったら俺様がここからいなくなってしまうではないか!』
ゼルヴァスとティアマトのそんなバカ騒ぎが始まったころ、
「……ということで、ゼウス神はティターンズ神からは相当恨まれているということかと」
と、現実世界のルダルが話を終えていた。
「そうか。わかった。となると……」
アマトが少し考えて、ルダルに向かって言った。
「あの時の魔獣の感じだと、フィリアもゼウスに引け劣らず、恨まれているってことだよな」
ルダルが頷いてから答えた。
「えぇ、おそらく。そしてフィリアが、私の村の伝承とポタ村の伝説に出てくるフィリアの可能性は、かなり高いのではないでしょうか……」
アマトは、黙ったまま頷いた。
「へぇぇっ、フィリアって奥が深そうだな」
「あぁ、俺はもうわけわからなくなってきたぞ」
話についていけてないようなそぶりのルノアとエメルダをよそにミィナが呟く。
「フィリア様ってどんな方だったんでしょうか……」
一同は、黙り込むしかなかった。
と、その時――
「ちょっとお邪魔する」
そう言って、詰所のドアを開いたのはグラントであった。
アマト達の視線が一斉にグラントへ向く。
すると、その視線に一瞬たじろいだグラントは、申し訳なさそうに言った。
「二つ頼みごとがあって、やってきたんじゃが……いいかの」
グラントのその言葉だけが場に残った――。




