第313話 味噌おでん
大樹さんを食事に誘った次郎。振る舞う料理は次郎の地元料理。
見た目が凄いがどうか?
ーーー 大樹の視点です ーーー
次郎にごはんを招待されたわ。
付き合い初めの男女は、最初のデートで一緒にごはん食べるのが良いって言うけど、これもそうよね。
それでどんなお料理が出るのかしら? 楽しみ。
あ、次郎がワゴンを押して入ってきた。
「お待たせ~」
ワゴンの上に大きな鍋が乗っかってる。
お鍋料理?
次郎の後ろからリントもワゴンを押して来た。
こっちは白ごはんね。御櫃が乗ってるもの。わかるわ。
次郎が大きな鍋を持ち上げ、わたしの前に置いて、向かい側に座る。
「簡単なもので悪いけど、僕の地元飯なんだ。
気に入ってくれると嬉しい」
そう言った次郎が鍋の蓋を取ってくれた。
ふわっ。
ああ、なんて良い香りなの。
なんて形容したら良いのか……色々な香りが混ざってて、でも統一感もある不思議な匂い。
思わず、この香りを堪能するのに二度深呼吸しちゃった。
「これは?」
わたしの知らない料理だったから、確認してみる。
「うん。
僕の郷土料理、味噌おでん、だよ。
まだ、こっちでは初披露なんだ。
季節的には冬の定番なんだけど、まだ夏にはなってないから、良いと思うんだ」
次郎が言うには、その味噌おでんってのも大きく二種類に分かれるんだって。
一つは、目の前の味噌スープに具材がどっぷり浸かったもの。
もう一つは、普通のおでん?にあとがけで味噌を掛けるタイプがあるんだって。
いや、わたしは普通のおでんってのも知らないんだけどね。
まあ、良いわ。
次郎の地元のお料理というのはわかったわ。
次郎の世界のお料理が美味しいのはわかってる。いつも次郎のお母さんが作ってくれるお供え物で知ってるわ。
「それにしても、すごい見た目ね」
そうなの。
どろっとした茶色いスープにゴロゴロといろんなものが浮いてる。
「ハハハ。
そうだよね。地元の人じゃないとちょっと引く見た目をしてるかも?」
すごい見た目ととっても良い匂いのギャップが激しくて、軽く混乱する。
「装ってあげるね」
次郎が装ってくれる。
「このおつゆがまた美味しいんだ」
色々な具を入れてくれた後、お玉でたっぷりおつゆも流し込んでくれる。
「さあ、食べよう」
「「いただきます」」
わたしもちゃんと手を合わせていただきますする。
さてさて、味噌おでんとやらはどんな感じかな?
大根かな? お箸で半分に切って持ち上げてみる。
中心は白さが残ってるけど、周りは茶色くなってる。スープが染み込んでるって訳ね。
では、パクリ。
ほふっほふっ。
熱々でちょっとびっくりしたけど、お味噌が濃厚で美味しい。
大根もほろりと崩れて食べやすい。
あっという間にお口から消えちゃった。
お供え物に付いてくる黄色い大根と違って(おにぎりの添え物としてたくあんがある)、食感も味も全然違うのね。
ホント、人間のお料理って不思議。
さて、お次は……何コレ?
灰色でぷよんぷよんしてる。まるでスライムみたい。
よくわかんないけど、齧ってみる。
ん、む、ほぇー。クニュクニュしてる。
「それはコンニャクだよ。面白い食感だよね。
これが芋なんだから、不思議なものだよね」
え!? お芋なの? こんなにクニュクニュなのに!?
「蒟蒻芋が源なんだけど、そのままだと毒があるから、昔の人はよく食べようって思ったよね」
へぇー、毒があるんだ。
毒の処理が出来てるんだろうけど、どっちみちわたしは平気よ。大樹であるわたしを枯らすことの出来る毒なんて無いもの。
よし、次はコレ。
お箸で持ち上げてみると、どっぷりとお味噌に浸かった面と白くなってる面がある。
何だろ? 全然予想がつかない。
パクリ。
あ、ジュワって来た。
ううん、ジュワって来るのは外側で、中身はどっちかって言うと淡白な味わい。
…………そうだ! コレ、わたしが好きなお稲荷さんと同じ味わいだぁ。
食べながら、次郎に目で訴える。
「うん?
ああ、ソレ?
ソレは厚揚げだよ。
豆腐を厚いまま油で揚げたものだよ。
……ああ、そうか。
大樹さんは油揚げ好きだもんね」
ものを言わなくても理解してくれた。これが以心伝心ってやつよね。
はわわぁ~。お揚げさんって、どんな形でも美味しいのね。わたしはやっぱりコレが好き。
で、コレは何だろう?
厚揚げよりは薄っぺらなのに、プルプルしてる。でも、コンニャクほどプルンプルンでもない。
ハグッ。モチッ。
うぐっ。
柔らかいんだけど、今までの具材よりも噛みごたえがある。
ううん、その食感よりも旨みがすごいわ。
これは、白ごはんで追いかけないと。
モグモグ、ごくん。
「気に入ったみたいだね。
大樹さんは美味しいと、ずっとニコニコしてるからわかりやすいね」
え? わたし、そんなことになってる?
「それは、さつま揚げって言うんだ。
魚のすり身を油で揚げたものを全般にそう言うね
僕もさつま揚げを食べると白ごはんが進んじゃう」
一緒ね。
「そうそう、白ごはんが進む一番の具材があるよ」
「なになに!?」
「っと、その前にお茶碗のおかわりが必要だね」
次郎がそう言いながら、わたしのお茶碗に白ごはんのおかわりを装ってくれた。
そのままお茶碗を手にして、その上におでんの具を…………あ、それって玉子?
その玉子がスープに浸って真っ茶っ茶。
白ごはんの上にその茶色い玉子がデンって乗っかってる。
さらに次郎は、その玉子の上から茶色いスープを一杯二杯と掛けていく。
「はい。
玉子を割って白ごはんと一緒にどうぞ」
次郎の言う通りにしてみよう。
まずはゆで玉子を割るでしょ。
パカッ。 とろり。
うわっ。ゆで玉子なのに黄身がトロッとしてる。
「おっ、上手くいったな。
鍋物では、この調整が難しいんだ」
次郎をもってしても、この調整は難しいらしいわ。
よくもまあ、お料理にそこまで情熱を掛けられるものね。
あ、いや、次郎って、何にでも一生懸命な人だったわ。
はむっ。
うわっ、白ごはんとこのお味噌のスープって合うのね。
複雑な旨みと甘いお汁が白ごはんと合わさると、なんとも言えなくなる。
美味!
他に言い様が無いもん。
お茶碗を掻き込むのが止まらなくなっちゃったじゃない、も~。
時折お口に入り込む玉子の旨みが堪らなく良い!
「んっ」
モグモグしながら空になったお茶碗を突き出す。
「はいはい」
やや呆れながらも、三杯目のおかわりを次郎が装ってくれる。
その間に箸休めのお漬け物に箸を伸ばす。
ポリポリ。
うん。濃厚な味わいに慣れた舌を、このお漬け物がさっぱりしてくれる。
結局、おかわりを五杯もしちゃった。
女の子がはしたなかったかしら?
でも、次郎はわたしの倍は食べてたから、大丈夫よね?
「「ごちそうさまでした」」
食後の挨拶もちゃんと手を合わせる。
「お粗末様でした」
「いいえ。
期待以上のものだったわ。ありがとう」
「大樹さんにそう言ってもらえて嬉しいよ。
…………はっ!?」
次郎が慌てて口を手で押さえてる。
そして、ギギギって音がしそうなほど、ぎこちなくリントの方を見る。
リントの目が、心なしか大きく見開かれた印象を受けたけど、まあ良いわ。
「もう良いわ。
リントにはバレてると思うし」
「……ホントごめん」
謝る次郎も可愛いから許してあげる。
コポコポコポ。
「シル様、食後のお茶でございます」
「ありがとう」
「あ~、リント。
あの~ね、そのね……」
恐る恐る次郎がリントに話し掛ける。
「ああ、デザートもお持ちしますね」
「いや、そうじゃなくて!」
出口に向かうリントを次郎が引き留める。
「ボクはお客様であるシル様を精一杯おもてなしをすべく、お茶淹れに集中していましたが、何か?」
リントの方が上手だわ。
「あ、いや……そ、そうか。
冷蔵庫に疾駆庵のいちご大福があったはずだから、それを頼むよ」
「かしこまりました」
優雅に一礼して食堂を出ていくリント。
でも、ドアの前で再度のお辞儀をする時、わたしの方を見てウィンクしてきたのが見えて思わずクスッとしちゃった。
リントもイイ男に成長してるのね。
それに、前から気になってた疾駆庵のいちご大福が食べられるのね。楽しみ♪
ホント、良い都だわ。わたしは幸せよ。
次郎が大樹さんに用意したのは味噌おでんでした。
これって見た目がホント凄いんですよね。地元民からすると当たり前なんですけどね。
本文には出していませんが、一味や七味等の唐辛子が添えられてるのが普通です。甘いお味噌のおつゆと合うんです。
大樹さんも楽しんでいただけたようで良かったです。
さて、次話は、第二回武闘大会のルール設定に関するお話です。
お楽しみに。




