第312話 戦の後で
グラナリー領防衛戦と西砦平原戦を終え、大樹の森国に平穏が訪れる。
紛争が無ければ開催してたはずの催しをすべく、準備を進める次郎だったが……。
皆さん、お疲れ様でした。
やぁっと、戦争から解放された次郎君ですよー。
でも、指揮官って気疲れがハンパないのよ。
みんながケガしないか、ハラハラしっぱなしだし、戦況が戦略通りかイチイチ確認しないといけないし……。
今回は、概ね作戦通りにいったから良かった良かった。
戦闘終わった後も、各部署からの報告会議もあったし、恒例の戦勝の宴も開かれ、僕ちゃん疲れました。
翌日、弁才天からの謁見の申し出があったけど、戦後の休養を理由に三日後に延長した。
内容はおおよそ検討ついてるから。
も~、正義もしっかり奥さんの手綱を引いてよね。君が原因なのはわかってる。
イケメン滅ぶべし。
正義が浮気なんて絶対しないのはわかってるけど、紅葉をその気にさせちゃうような態度や振る舞いをしちゃったんだろうね。
まずは、当初の目的であるクリムト帝国軍を削ることには成功したと思う。
そのクリムト帝国軍がゴドー王国軍を削ってくれたから、それもまたよし。
この世界の戦国時代はまだ続きそうだけれど、戦闘二大強国の戦力は減少したから、しばらくは小康状態が続いてくれると良いな。
戦争ってお金が掛かるからね。
この間のゴドー王国みたいに戦争賠償をクリムト帝国に求められないから、厄介なんだよね。
だって、クリムト帝国って、どの国とも交流せずにただただ支配して搾取する事しかしてないし。国際的には国家と認識されてないし、ガキ大将が暴れてるって感じかな。
ただ、その戦闘力が侮れないけど。
ああ、ウチは今回討伐したオーガの魔石で潤ったからマシだったよ。魔石取引に応じてくれたカザフ王国とヤンバル国に感謝。
あ、ここでお知らせを一つ。
今度、大樹の森の都で武闘大会が開かれることになったんだ。
てか、グラナリー領防衛戦の前に決まってたことなんだけどね。
クリムト帝国はこっちの都合なんて考えないから、仕方ないね。
紛争の直前は、みんな訓練してたから身体のキレが良かったみたい。不幸中の幸いだね。
あ、武闘大会は例の能力(第171話)で力の制限をするからご心配なく。
各人の力を制限するけど、能力が無くなる訳ではないので、妖術や魔法ありの大会です。
あれから僕も修行を積んで、妖術や魔法に制限掛けるだけで、その能力自体は発動出来るようになったんだ。
だから、技の熟練度が物を言う感じかな。
よって、大妖のみんなも参加出来る内容。
そこで問題が一つ。
結界使いの第一人者であるアヤメも選手として出場したいって言うんだよなぁ。
出場選手だけでなく、観客の安全を図る為にも裏方に回ってほしかったんだけど……。
「で、わたしのところに来た訳ね」
そう、ここは大樹の祭壇の前。
「うん。お願い出来ないかな?」
大樹さんが女神姿で顕現してる。
「……面白そうだから良いけど。
結界役をやれば良いのね?」
「大樹さん、ありがとう。
当日は貴賓席を用意するし、ご馳走も出すよ」
「やったー♪」
大樹さんが女神の舞い?をズンチャズンチャしてる。……とっても独創的だけど。
「当日も出すけれど、これからごはん作るから食べていかない?」
「行く行く!」
近い、近いよ、大樹さん。鼻先3センチまで迫らないで。
ふぅー。鼻息の荒い大樹さんを引き離すことに成功した僕は、大樹の屋敷に大樹さんを連れていった。
「お帰りなさいませ、ジロー様」
大樹の屋敷に到着すると、扉に手を掛ける前にリントが開けてくれる。
「ただいま」
「お客様もご一緒なん……です……ね……」
リントが僕の後ろに居た大樹さんに気がつき、言葉を繋げるが、目を見開いたまましばらく硬直していた。
リントの公式の場でのこうした振る舞いは初めて見るな。
動き出したと思ったら、居ずまいを正し、右手を胸に当てて綺麗なお辞儀をしてた。
あ、コレ、エルフの精霊への祈りとそっくりだ。
リント、もしかして大樹さんの正体に気づいた?
「こんにちは。
ユグドラシルと申します。
シルと呼んで頂ければ幸いです」
大樹さんも綺麗なカーテシー(西洋の女性専用お辞儀)で返してた。
大樹さん、こういうことも出来たんだ?
お姫様だったアルメリアに匹敵する出来映えだ。
「当屋敷の執事、リントでございます。
シル様、お見知り置きくださいませ」
「リント、シルにごはんをご馳走したいんだ。
食堂にご案内して」
「かしこまりました。
先導致します」
僕も食堂まで一緒に行くことにした。
途中、大樹さんがこっそり話し掛けてきた。
「あの子、気づいたっぽいね」
「え? やっぱり?
エルフは特殊な種族なんだね」
「エルフは特殊って言えばそうなんだけど、たぶん、他のエルフでも気付かれないと思うわ。ミレイユちゃんやナターシャちゃんでも無理だと思う。
リントちゃんが特殊なのよ」
そういえば、大妖達も大樹そのものを見ても何も感じなかったみたいだし……。大樹さんの女神姿を見知っているのは、真神と八咫烏と僕の三人だけだよね。
うーん、リント侮りがたし。
そうこうしてる内に食堂に到着した。
「ボクはお茶をご用意して参ります」
退室するリントに併せ、
「僕も調理してくるから、少し待ってて」
僕も退室する。
隣の厨房に入った僕は、インベントリからエプロンを取り出し、装着する。
さあて、何作ろっかな~。
パカッ。
よしよし、ご飯は炊いてあるね。
あとはおかずかぁ。
うーん……あ、地元飯でいってみるか。めっちゃ簡単なヤツ。
冷蔵庫を開けてみる。
ふむふむ。材料は揃ってるな。
ちゃちゃっと下準備に掛かろう。
まずは大根。
大根の頭と先っぽを包丁で落として、半分くらいでカット。
皮剥きは野菜スライサーでパッとやっちゃう。ただし、今回は皮を厚めに削ぐ。
そして、厚切りの輪切りにするんだけど、面取りと隠し包丁も忘れない。
味がしっかり染み込み易いようにね。
先にコレを下茹でしちゃおう。
あ、ご飯炊けちゃってるからとぎ汁が無いや。
でも、ご安心を。
そんな時は、生米そのものを入れると良いよ。
よし、これで大根の僅かなアクや苦味が取れて、甘みが引き立つんだ。
鍋にカットした大根が浸るくらいの水を入れ、生米を少量投入して火に掛ける。
ついでに、隣のコンロで卵を茹でておく。
お次はこんにゃくだ。
こちらも適度なサイズにカットして、格子状に切り込みを入れておく。
僕はそのままでも良いけど、今回はお客様にお出しするから、こっちも一応アク抜きはしておく。
おっと、時間の掛かるものがもう一つあった。
牛すじ肉。
これもカットして下茹でしておく。
こいつは時間が掛かるから、コンロごとインベントリに収容して時間を加速しておく。
これがステータスボードの機能の一つだなんて、なんてチートだろう。
管理者様に感謝。
あとは、練り物や厚揚げをささっと油抜きしておく。
もうここまで来るとわかるよね。
そう、家庭料理の定番、おでんだ。
さあ、各具材の下準備も出来たし、おつゆを作って煮込むだけ。
大樹さんを待たせるのも悪いから、お鍋をコンロごとインベントリで収容して時間を加速させよう。
さて、行きますか。
我が郷土料理を持って。
おや、今度は大樹さんを食事に招待するようですね。
次郎の地元愛が唸る料理なんですね。
さて、次話は、その料理の食事風景をお届けします。
お楽しみに。




