第310話 西砦平原の戦場 終着 前編
グラナリー平原戦での敵将を討伐した大樹の森国軍は、残存兵力を殲滅していく。
一方、西砦平原の戦闘では、退却を始めたクリムト帝国軍第二師団を追う。
敵将である第二師団長の紅葉をつけ狙う大妖達。
ーーー 三人称です ーーー
「紅葉、待てぃ!」
「逃がさんでありますですはい」
「観念なさいな」
前鬼、馬頭、弁才天が声を荒げる。
「じょ、冗談じゃない。
大妖三人の相手なんてしてられないわ!」
クリムト帝国軍第二師団長の紅葉は、大妖三人に背を向ける。
ただ、紅葉が不幸だったのは、大妖の中でも高速で知られた前鬼と馬頭から狙われたことだ。
そして、弁才天は己の前に大量の水を召還して濁流を起こし、その中に飛び込む。
バシャン。
高速泳法で紅葉を追う。その速度は、あろうことか、高速で駆け出す前鬼と馬頭より速い。
「くっ!?
なんて非常識な者共!」
鬼の脚力で、どのオーガよりも速く走り抜ける紅葉に、どんどん迫る大妖の三人。
「やむを得ん。
コレを使う」
紅葉が懐から取り出したもの。それは折り紙なのか、紙が立体的に折り込まれていた。
それが4枚。
「……急々如律令……」
カタ、カタ、カタカタ。
紅葉が呪文を唱えると、左の手のひらに乗せられた4枚の折り紙が揺れ出す。
紅葉の右手は印を結んでいる。何処と無く、後鬼や弁才天が結ぶ印と似ている。
そして、折り紙が宙に浮かび上がり、白光を放つ。
パアァッ。
「むっ、あの光は……」
「厄介ね。式神まで喚び出すなんて」
「ほう?
あれが式神召還術でありますか」
大妖の三人は、警戒して足を止める。
三人が見つめる光が四つに分かれ、徐々に大きくなり、それぞれ異なる形状に変化していく。
一つは、巨鳥に。
一つは、蛇……いや、龍に。
一つは、ネコ科の巨獣、虎に。
最後の一つは、巨亀に。
「これは我輩も知ってるでありますですはい」
「四神だな」
そう、紅葉が召還したのは、朱雀・青龍・白虎・玄武の姿であった。各々が体長5メートルほどもある。
「でも、おかしいわね。
玄武は、もうこちらに居るのに」
「ふん。
所詮は式神召還で喚ばれた者達だ。
紛い物の魂を取り入れたに過ぎん」
前鬼は、次郎の妖召還で喚び出された時、己が式神では?と疑っていた。
通常、妖気を練り込んだ依代に祝詞を唱え、式神を顕現させる術が式神召還術。その術者の力量に応じた格の魂を引き寄せ、合一させるのだ。
これが陰陽道の術である。
それに対し、次郎の妖召還は、本人の肉体と共に魂まで本人のものを喚び寄せる。
「つまり、アレらは偽物でありますか?」
「そうよ。
偽物と言っても、術者の力量次第で限りなく本物に近くなるけどね」
「くふふ……。
失礼しましたでありますですはい。
いやさ、玄武がコレを見たら、どんな顔をするのやら」
バサッ、バサッ。
「それは烈火の如く怒るだろうね~。
あ、ボクも混ぜてもらっていい?」
突然、その場に舞い降りたのは八咫烏。
天狗隊と一緒に部隊全体のフォローを行っていた八咫烏は、この戦場も終盤に差し掛かったところに、敵将の紅葉を追う大妖三人を見つけ、介入してきたのだ。
『なんか面白そう!』という理由で。
「四対四でちょうど良いしね♪」
「貴方が玄武に知らせてやれば済むことじゃない。
あっちは雲外鏡と一緒なんだから、一瞬でこっちに来られるわ」
「えー。それじゃボクが遊べないじゃん」
「四対四じゃ、紅葉を逃してしまうじゃない。
アイツは私が八つ裂きにしないと気が済まない」
弁才天は紅葉にかなり固執しているようだ。
「あるじからは紅葉の抹殺命令は出てないよぉ」
「良いの!
アイツは私が殺すの!」
「悋気嫉妬は女の常、でありますなぁ」
馬頭の言葉に前鬼も八咫烏も黙って頷くのみ。
「女ぁ!
貴様のことは忘れんぞ。
ただし、生き残ればの話だがな」
フハハと笑いながら、その場から遠ざかる紅葉。
「ちっ。
アイツ、捨て台詞まで憎たらしいったらありゃしない!」
「あれ?
弁天の名前を知らないんだ?」
八咫烏が不思議そうに紅葉の逃走姿を眺めている。
「ふん。
あんな女に名乗る訳無いでしょ。
倭神名すら教えてやらないわ」
ここでは弁才天と名乗っているが、幾通りもの名を持つ神である。
ゴッゴッゴッ、ブバァッ。
四人が会話している最中に、式神の玄武からブレスが吐かれる。
大妖の四人は結界でしのぐ。
「では、この玄武もどきは私が対応しよう」
前鬼が一歩前に出る。
「じゃあ、ボクは鳥さんをもらうね」
「あっしは、虎をいただきますですはい」
「も~。
みんな勝手なんだから!」
四人がそれぞれの相手を選んだようだ。
玄武が再度ブレスを吐こうと喉を膨らませる。
ザザッ。
その時には、四人とも四方に散って、その場には居ない。
ボクッ。
ゴボッ、ブボッオオォォッ。
玄武がブレスを吐く直前に、縮地で玄武の眼前に接近した前鬼。その勢いも利用して、顎に強烈なアッパーカットを放っていた。
玄武のブレスは打撃の威力で空中に吐き出されたが、その勢いは先ほどの半分くらいしかない。前鬼の打突が強すぎて、ブレスの威力まで半減させたようだ。
当然、前鬼の攻撃がそれで止むわけではない。
続けざまにかかと落とし蹴りを玄武の前足の甲に叩き落とす。
ボキィッ。
「グアアッ」
派手な音を鳴り響かせ、玄武の前足の甲が粉砕される。さすがの玄武も悲鳴を上げた。
振り下ろした勢いを利用して踏み込みとし、前鬼の左ストレートが玄武の喉元に炸裂する。
ドンッ。
いや、一発では止まらない。両拳の連撃に蹴りまで加わった打撃の猛攻の始まりである。
ドカッ、バキッ、ドドドドドッ。
前鬼の猛攻を浴びて30メートルも後退してしまった玄武。
玄武の被弾箇所から大量の血が流れ出でていた。
前鬼の打撃が強すぎて、皮膚が裂け、またその同じ箇所に打撃を受けるのだから、傷口が広がり続けた結果だ。
ピッ。
「ふん。
本物とは比ぶるものでもないな」
指を弾いて返り血を払った前鬼が宣う。
ズズンッ。
派手な音を立てて沈む玄武。
パアアッ。
そして、玄武の身体が白光を放ち、散っていく。
「他愛もない。
さて、紅葉の方は?
……すでに失せたか。
まあ、良い。また逢うこともあろう」
視線を仲間達の方へ戻す前鬼。
各々が各々の式神と交戦中だ。
「放っておくか。
下手に手を出すと文句を言われかねないからな」
前鬼は、やれやれとため息を吐き出す。
シュンッ。 カァンッ。
ヒュヒュヒュッ。ヒュン、ヒュン、チッ。
八咫烏と式神朱雀の空中戦だ。
「速さはまあまあだけど、それだけだね。
ああ!
前鬼のやつ、もう終わらせてるぅ。
ボクもさっさと始末して、見学組に回ろうっと」
ここで式神が登場。
実は初期プロットにあったんですが、投入タイミングが大幅に遅れました。
さて、次話は、この後編となります。
お楽しみに。




