第308話 戦場の甘い空気
西砦平原では雪ん子部隊とは別に雪女隊も存在する。
ーーー 三人称です ーーー
ビュオオォォォッ。
西砦平原に季節外れの猛吹雪が舞う。
キラン、ズブリ。
オーガの額に氷柱が刺さる。
キラキラキラキラ…………ズドドドドッ。
光の反射が見えたと思った次の瞬間には、複数のオーガ達に氷柱が突き刺さる。
「グワァッ」「グオオッ」「ぬ、抜けん!」
吹雪の中から、オーガ達の悲鳴が響いてくる。
ユキ率いる雪女隊の仕業だ。
「さすがユキさんですね。
ユキさんのだけ、急所の脳天を捉えています」
「あら、あなたには"見えている"の、リント?
この吹雪の中」
雪女の統率者ユキとその護衛を命じられたエルフのリントである。
「妖である雪女の皆さんの攻撃は"見えません"が、オーガの纏った魔力の渦は感知出来ますから」
リントは、妖気は感知出来ないが、オーガの放つ魔力の残滓を感じ取ることは出来るようだ。それは、負傷の有無までわかる。
さすがは魔法の申し子エルフである。
「さすがリントね。私の勇者様」
「いえ、そんな……」
ユキがリントの頬を優しく撫でる。
当のリントの顔が真っ赤だ。
「良いなぁ、ユキ様は。イイ男がそばに居て」
「仕方ないじゃない。
エルフは遠距離攻撃を担当しているのだもの。
それにライデンは小隊長を任されているのでしょ」
「それはそうなんですけどっ。
少しくらい顔見せてくれたって……」
スミレは表情はあまり変化は無いが、少し怒っているようだ。
「ライデンさんはスゴいですよ。
弓矢の狙いも正確ですし、魔法も多彩に使い分けられてます。
さっきも仲間が危ないところを助けてました。
ビューンって」
オーガ親衛隊が撤退を始めた時、閃光団の団員がオーガの集団に踏み潰されそうになり、寸でのところでライデンが救出したのをリントが目撃していた。
ライデンは、飛翔魔法で空中に居た為、視野が広く取ることが出来、オーガ親衛隊の動きがよく見えていた。そして、そのオーガの撤退進行線上に居た仲間も把握。急降下で駆け付けたのだ。
ライデンが凄いのは、その際に剣でオーガを串刺しにして、且つそのまま雷魔法で電撃を食らわせたことである。
ライデンは単騎でオーガを討伐したのだ。それも親衛隊のオーガを。
「まるで天狗のようだった」とは、リントを始め、目撃した者達の弁。
「ふん。
私のところにはちっとも来ないくせにぃ」
リントがこっそりユキに囁く。
(スミレさんって、あんなに焼きもちを妬く人でしたっけ?)
(雪女の特性の一種でもあるわ。
普段の私達は感情を面に出さないだけ)
(…………ユキさんも?)
(私も常にそうよ。
リントが他の女と話をするだけでムカムカするわ。
ようやく最近になって、お屋敷の者達とは仕事の関係上仕方ないと思えてきたところ)
(ボクだって、ユキさんが他の男の人と話をしていると、こう、もやもやっとします)
(リント……)
(ユキさん……)
「二人して甘い空間を作らないで欲しいわ!」
スミレは目付き鋭く、八つ当たりのように氷槍の連射をオーガの集団に解き放つ。
ドドドドドッ。
猛吹雪の中、方向が定まらず、偶然にも氷槍を掻い潜ったオーガが一体、スミレの前までたどり着いた。
「グゥオオッ」
「うるせえ」
ドスッ。ズドドドドッ。
いつの間にか、ライデンがそのオーガの頭頂から剣を突き刺し、超至近距離から七色に輝く弓魔法を浴びせていた。
その威力は凄まじく、オーガの両腕が肩から吹っ飛び、肋骨が剥き出しになるほど上半身がぐずぐずに潰れていた。
スタッ。
「スミレ。
ケガは無いか?」
「もう、遅いじゃない。
でも、来てくれたから許してあげる」
「そりゃ、どうも」
オーガの肩から飛び降りてスミレのもとへ歩み寄るライデン。
そして、それを優しく抱擁するスミレ。
「「ああっ」」
二人を見たユキとリントは、どちらともなく手を繋いでいた。それも恋人繋ぎと言われる指を絡めるスタイルで。
その後方に居た雪女達の呆れたため息が長く続いたと言う。
◇◆◇
グラナリー平原の戦場を奥に突き進む絡新婦の夜霧。
「女ぁ、待てえぃ!」
その夜霧の前に立ち塞がるオーガ。周囲のオーガよりも二回りほど大きい。
下手すると、第一師団長のギレンよりも大きい。
「あら?
大きい男は趣味じゃないの。
そこを退いてくださる?」
「何をっ!」
夜霧の嘲笑めいたセリフに、顔を真っ赤に染めるオーガ。
「オレはこの第一師団の千人長のマッシュ様だ。
これ以上進めると思うな」
「可愛らしいキノコみたいな名前ね。
美味しくなさそうだけど」
夜霧は、絡新婦の姿だと煽る口調が出るようだ。
「とことんふざけた女だ。
珍しい蜘蛛人間のようだが、許さん。
目にモノを見せてくれるわっ」
オーガ千人長のマッシュが力み出すと、キリキリと二本の角が伸び出す。
元の長さが10センチ足らずだったものが、今や30センチに達するほどだ。
変化はそれだけではない。
突き出した拳の先から四本の鋭いモノが生え、肘と膝からも杭のような太く先の尖ったモノが生じていた。
「へえ。
骨の形状変化かぁ。身体強化の一種かしら?
変わったことするのね。
でも、武器を持った状態と変わらないと思うのだけど……」
夜霧は、このオーガが千人長と名乗ったことと目の前の武装変化に違和感を感じていた。
(でもまあ、やることは変わんないか。
このオーガを討伐して、その奥の敵将をやっつける。
それで、烏天狗様にお褒めを貰うの)
ブウゥン、パシッ。
手に持った薙刀を一振して、正眼に構える夜霧。
いざ参る、と言う時に……。
「ストップ、ストーップにゃ。夜霧ちゃん」
「なんとかここまで来やんしたでありんすね」
夜霧の背後から、猫又姿のアヤメと九尾狐姿のタマモがやって来た。
「菖蒲ちゃん!?
それにタマモ様まで」
「ピュピューイ」
タマモの尾に乗ったヒルコも居た。
「ヒルコ様まで……。
いったいどういうこと?」
「ふぅ~。なんとか間に合ったにゃ」
「すまんでありんすね、夜霧。
ヒーちゃんに初陣での戦を体験させるのが目的で、ここまで来たでありんす」
「譲れ、と言うことですか?」
「そうにゃ。
夜霧ちゃんには悪いけど、ここは譲って欲しいにゃ」
「代わりにあちきらから、烏天狗に夜霧のことを言っておくでありんす」
「そうにゃ。
きっと烏天狗も、夜霧ちゃんをヨシヨシしてくれるにゃ」
「ヨ、ヨシヨシを……」
ゴクリと夜霧の喉が鳴る。
「し、仕方ないわね。
お友達の菖蒲ちゃんから頼まれちゃ……。
でも、本当に烏天狗様への報告は忘れないでよ」
「バッチリにゃ」
「アヤメが忘れても、あちきからちゃんと伝えるでありんす。
安心なさいな」
「それなら大丈夫ね」
「ちょっと!
どういうことにゃ、二人共」
「ピュピュピューイ~」
ぷんすかしているアヤメを触手を伸ばしたヒルコが宥めている。
「なんだぁ?
喋る黒豹に狐の魔物だと。
スライムまで。
……ゴドー王国はいつから魔物を従える国になったのだ?」
オーガの千人長マッシュは、未だゴドー王国軍と勘違いしている。
「まあ良い。
亜人だろうが、魔物であろうが、纏めて粉砕してくれるわ」
マッシュが駆け出す。
狙いは夜霧のようだ。
二人の間に、ポーンとヒルコが飛び込んで割り込む。
「ぬっ、スライムか!?」
マッシュは、ヒルコ目掛けて中手骨が飛び出た拳を突き出す。
カァンッ。
ヒルコは、すかさず伸ばした触手で払い除ける。
ズオオォッ。シュ、カァン、シュシュシュ、カンカンカァン。
マッシュは怯むことなく連続で両拳を突きだし、蹴りも繰り出す。その足指からも鋭い爪の如く突き出した骨を強化して。
そして、その攻撃をことごとく払い除けるヒルコ。
「なんと言うことだ!?
たかがスライム如きがここまで戦闘力があるとは……」
マッシュは驚愕に包まれていた。この世界の常識が、音を立てて崩れていく錯覚すら覚えていた。
ヒルコがオーガの千人長と闘います。次話に続きます。
お楽しみに。
前回はお休みを頂きました。
戦闘シーンばかりの作品の作者さんを尊敬致します。
こちらはへろへろですぅ。早う戦闘シーンを終えて、次に行きたいばっかりです。




