第305話 盟主の戦略
グラナリー平原の戦場。
オーガの集団を相手取り、かなり奥へ進む猛者が居た。
ーーー 三人称です ーーー
ザクッ、ゾブッ、カァン、ズドンッ。
刃の煌めきが舞う。
三体のオーガに囲まれながらも、終始押している猛者がここに。
その者の攻撃の刃が生み出す軌跡は、美しく優雅でさえあった。
「グアッ!」「す、隙が無い!」「回り込め!」
オーガ達はすでに満身創痍の状態だが、上手く致命傷は避けている様子。
オーガ達は三方に分かれ、襲撃者を取り囲む。
一人が剣と盾を装備し、一人が槍を装備。残る一人が両手に鉈を装備して、正面に立つ。
ザッ、ザッ。
左右の剣と盾持ちと槍持ちが同時に動く。
ドンッ。
剣と盾持ちが蹴り出される。
剣の範囲外から蹴りが届いた。かなり脚が長い。
シュルシュル、カァン。
同時に繰り出された反対側の槍突きが、同じく長柄の刃先で巻き上げられ、槍の穂先を頭上高く跳ね上げられてしまう。
襲撃者の持つ長柄の武器をよく見てみれば、それは薙刀であった。
ゾブッ。
その薙刀の刃先が振り下ろされ、槍持ちオーガの肩先に食い込む。
フ…………ブオオオォォッ。
それと同時に、正面のオーガからは鉈の攻撃ではなく、炎のブレスが吐き出される。
それを見て、襲撃者の美しい顔に笑顔が浮かぶ。
「そうかい。
おまえは火遊びがしたいんだね」
襲撃者の綺麗な顔が、笑顔なのに歪んでいく。
カコォン、カ、カ、カ…………ズオオォォッ。
美しき襲撃者の口から同じように、業火が唸りを上げながらオーガのブレスを包んでいく。
いや、オーガのブレスを押し込んで、オーガの身体ごと燃やし尽くしていく。
八本の脚を持ち、その手に薙刀を握りながら、豪炎を吐き出すその横顔は、妖しくも美しかった。
絡新婦の夜霧である。
夜霧の炎は、オーガを燃やし尽くすばかりでなく、その後方に居たこれから参戦しようとしたオーガを三体も呑み込んでいった。
ズドンッ。
夜霧は炎を吐き出し終わりながら、槍持ちオーガへの攻撃は一切弛めておらず、顔を正面に向けたまま、薙刀で何度も斬りつけと突き刺しを行い、とうとうオーガの腹部中心に突きが刺さった。
ギョリッ。ズバァンッ。
下方向に向いていた薙刀の刃をオーガの腹部に刺さったまま無理矢理上方向に持っていき、斬り上げを行う。
オーガの上半身は真っ二つに。
「な、なんてヤツだ……」
蜘蛛脚で蹴り出されたオーガは不幸中の幸いだったのかもしれない。
たった一呼吸の間に、五体ものオーガが殲滅されていたのだ。
夜霧の蹴りが強力だった為、剣と盾持ちのオーガは10メートル以上も蹴り出されており、却って当面の危機は避けられていた。
そのオーガは立ち上がり、夜霧の姿を眺めながら、額に大粒の汗を滲ませている。
そして、クルリと背を向ける。
戦闘を好むオーガらしからぬ行動だ。
オーガの特性よりも生存本能が勝ったようだ。
「おや?
私を置いてどこへ行くの?」
オーガの耳元から艶かしい女の声がする。
ギクリとオーガの身体が揺れる。
「私は殿方からの猛烈なアタックを無下にしたりしないわよ。……うふふ」
夜霧が蜘蛛の身体から身を乗りだし、オーガの耳元へ妖しく囁き掛ける。
それだけでオーガは動けない。
オーガの身体が小刻みに震え出すが、それが恐怖からなのか歓喜から来るのか、オーガ本人にもわからない。
ただ、オーガは自覚なく、勃起をしていた。
オーガはゆっくりと横を向く。
女の顔を確かめる為に。
「あらぁ。良い顔になったわね」
オーガの顔中に汗が吹き出し、目から涙をこぼし、鼻水を垂らしながらヨダレまで溢れていた。
「イイ男」
夜霧がオーガの肩にそっと手をやる。
ポーン。
オーガの首が跳んだ。
ドサッ。ビク、ビク。
オーガの首の無い身体が倒れながらも、痙攣している。
死してから射精しているようだ。
「ああ、オーガはなんて汚ならしいんだろう」
妖しさが消え去った夜霧が呟く。
「早く終わらせて、烏天狗様にお逢いして癒されたいわぁ」
呟きながらも、奥へ奥へと進んでいく夜霧。
◇◆◇
グラナリー防衛戦の本陣。
「ホント、こっちまで敵が来にゃいにゃあ」
「仕方ありんせん。
次郎様の戦略が効き過ぎてるでありんすもの」
次郎の側に控えているアヤメとタマモである。
「ピュピュピューイ」
ヒルコも当然だ、とでも言うように次郎の頭の上で身体をプルプル震わせる。
「そう言うならいってらっしゃいな。
ヒルコは初陣だから、少し経験させないとね」
後鬼の意見に二人が一斉に振り向く。
「え!? 良いにゃ?」
「で、でもそれでは……」
「次郎の護衛は私一人居れば十分よ」
二人の口の端が上がりそうなのを無理矢理押さえて、ピクピクと震える。
「はぁ~。仕方ないな。
行っておいで、二人共。
ただし、ヒルコに無理はさせないでね」
次郎もやれやれといった感じで許可を出す。
「ピュ、ピュ…………、ボクは初めてじゃないよ?
草原でオーガやっつけたし」
ヒルコの言を受け、次郎が答える。
「ああ、ダイクン王国の避難民救出作戦の時のことだね。
あれはオーガ殲滅戦でもあったから、ヒルコの存在が漏れることもなかったからね。
でも、これは戦争だ。
殲滅戦と違って撃ち漏らしも出ると思う」
次郎は、極力ヒルコの存在を隠したいようだ。
同盟属国のカザフ王国やヤンバル国にもヒルコの存在は明かしていない。
「ん~、では、殲滅するしかありんせんね」
「にゃ。
殲滅ぅ殲滅ぅ」
「ピューイ。
せんめつーせんめつー♪」
「「「行ってきまーす」」」
三人は、音頭を取りながら、戦場へ向かう。
「なんだかなぁ」
「うふふ。
でも、あの三人が加われば、殲滅も出来るかもしれないわよ。
それに次郎の立てた戦略がそれを可能にしてるわ。
よくもまあ思い付くものね」
「え? 単純なものだけど?」
後鬼が言っているのは、地形変形のことだけでなく、それぞれの敵に対して的確な人員を配置し、効率良く優位に立てる攻撃方法を指示していることだ。
「単純ねぇ……。
あなたの基準はいったいどこにあるのかしら?」
実は、ここだけでなく、西砦平原の戦略を立案したのも次郎であった。
離れた場所の視界を共有出来る八咫烏を西砦平原へ派遣しているが、特に指示は出していない。
サトリは距離に関係なく移動出来る為、ここグラナリー平原と西砦平原を行ったり来たりを繰り返しているが、次郎から作戦の変更や新たな指示も出ることはなかった。
つまり、両戦場共、次郎の予測の範疇にあると言う訳だ。
今は戦場の熱気で目の前のことに集中しているが、戦後に記録を読み返すことで戦く者達が出てくるだろう。軍関係者の上位の者ほど、その思いを顕著に表すに違いない。
絡新婦の夜霧はやはり強かった。もう少しで敵の大将までたどり着く位置まで来ています。
大樹の森国軍が優勢なようです。
そこにアヤメ、タマモ、ヒルコの三人が加わります。
さて、次話は、銀狼師団の水魔術師ヘイズルに視点をあててみます。
お楽しみに。




