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第303話 痛烈な暴力と静かなる旋風

 西砦平原の戦場で妖(あやかし)達が演舞を舞う。

ーーー 三人称です ーーー


 ドッドッドッドッ。

 ヒュン、ヒュン、ズドンッ。

 閃光団を追い越していく数多の影。

 その影は素早い動きでオーガの間をすり抜けていく。ただし、すり抜けざまにオーガが傷ついていく。

「ヘブッ」「グアッ」「ゴボァッ」

 オーガ達が悲鳴を上げる。


「お待たせしたでありますですはい」

 鬼の統率者、馬頭(めず)の登場だ。

「いや、押され気味でしたので、助かりました」

「待っていやした! オニ部隊」

 ブレイドとカウマンが歓迎の意を表す。

「でも、このオーガ共はレベルが高いっすよ。

気をつけてくだせえ」

「ふむ。

いわゆる百人長や千人長クラスと言うところでありますな。

しかし、あっしが引き連れた先行隊は疾風より速く動き、敵の首を狩ることを得意としております。

触れさせなければどうと言うこともありませんですはい」

 鬼部隊を率いてきた馬頭(めず)は、部隊を大きく右へ迂回させ、オーガの親衛隊の真横に来たタイミングで素早さに特化した鬼を抽出し、先行させたのだ。

 そして、先行隊に遅れること数分後。

 ドッドッドッドッ、ドドドドドッ。

 ドガッ。ドカドカドガッ。

 体格の良い鬼の集団が右から集団で体当たりをぶちかます。

 オーガ親衛隊も方円の陣の隊形を維持出来ず、大きく歪む。


「なにっ!」

 鬼部隊の集団体当たりの衝撃に驚く紅葉(もみじ)。左手方面に目を向けてしまう。

「あれはオーガ…………いや、鬼か!?」

「「「ぐおおぉぉっ」」」「「「グオオォォッ」」」

 鬼とオーガの吠え声が較差する。

 バシッ。

「くっ」

「ふふ、よそ見してるからぁ」

 弁才天が発した氷槍の一つが紅葉(もみじ)の頬を傷つける。

「よくも私の顔に傷をつけたな!」

 紅葉(もみじ)の頬から血が流れ落ちる。

「言うほどの顔でもないクセに」

「それはおまえの方だ」

「あら、正義(まさよし)は、この顔が好きだけど?」

「イチイチ腹の立つ女!」


 では、左翼側はと言うと……。

 一人の鬼がオーガを蹂躙していた。

 バキッ。ドカッ。ズブッ。スパンッ。

 たった一人で、しかも身一つの素手で親衛隊のオーガの腕を引き千切り、腹を突き破り、首を跳ねていた。

 まさに地獄絵図だ。

「何故、オーガが敵に居る!?」「ぐわあぁ! 俺の足が、足が……」「何なのだ、こいつは!?」

 オーガ達の怒号が悲鳴に変わっていく。

 ヒュンッ。

 鬼の回し蹴りがオーガの頭部にヒット。

 パアァンッ。

 首の骨が折れたのかと思えば、その頭部が破裂して"首から上が失くなり"、血と脳漿が辺りに撒き散らされる。

 さすがのオーガ達も遠巻きに警戒するのみで動くことが出来ないでいる。

「遠慮しなくて良いぞ」

 鬼が辺りを睥睨しながら、片手をヒョイヒョイと促すように煽る。


「モミジ!

マズい事態が発生した!」

 オーガの親衛隊の一人が紅葉(もみじ)に進言する。

 弁才天と紅葉(もみじ)が形成する聖域(バトルフィールド)に踏み入れることが出来たこのオーガ、胆力が極めて高いようだ。

「今度はなんだ!?」

 視線を弁才天に集中させつつ、声だけで返答をする紅葉(もみじ)。

「北より強力なオーガが現れた。

たった一人なのに、30名以上の仲間が殺られたのだ!」

「くっ。

……急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)……ハッ!」

 紅葉(もみじ)が印を結びながら呪言を唱える。

 すると、紅葉(もみじ)の周りに目に見えない結界が生じる。

 弁才天の氷礫や氷槍がその結界に触れた瞬間、消失していく。

 強力な結界を張った隙に、鬼部隊に押し込みを受けた方向とは反対側、報告のあったオーガの方に顔を受ける。

 そこには多数のオーガに囲まれながら、一人の鬼がゆっくりと歩を進めながら、まるで舞いを舞っているかのようにオーガを蹂躙していた。

(アレも鬼か!?

だが、あれほどの鬼が居るはずが…………。

まさか……まさか……あれは戦鬼なのか!?)


 紅葉(もみじ)に戦鬼と称された鬼が、オーガの集団の奥に目を向けた。

 戦鬼と紅葉(もみじ)の視線が交差する。

(目が合った。合ってしまった!)

 紅葉(もみじ)の全身に悪寒が走る。

「そこに居たか。今行くぞ」

 距離があるはずなのに、紅葉(もみじ)にはその呟きがよく聞き取れた。

 紅葉(もみじ)はゴクリと唾を飲み込み、

「撤退…………!?」

 紅葉(もみじ)自身が自分の呟きに驚いた様子を見せる。

「くっ。

撤退……撤退だ。

皆の者、撤退せよ!」

 紅葉(もみじ)の声は戦場一帯に轟き渡る。


◇◆◇


 ゴドー王国軍第6師団の撤退路を塞いだクリムト帝国軍第二師団の先遣隊。

 往路を突撃体制で突っ込んだ後、横一線に隊列を変更し、その場を維持していた。

 南北に部隊を分けたゴドー王国軍は、幾度か攻撃を仕掛けたものの、クリムト帝国軍の本隊が南北の部隊それぞれに突撃を受けた為、それどころではなくなってしまった。


「こちらへの攻撃が緩んできたな。

まあ、本隊のチャージを食らってそれどころじゃないだろうしな」

 第二師団先遣隊の千人長だ。

「むっ!?」

 シュンッ。

 千人長が大げさに飛び込み前回りで、""何か

を避ける。

 ハラリ。

 いや、千人長の髪の毛が何本か宙を舞っていた。

「なんだ!?

いったい何処からの攻撃だ?」

 油断なく周囲を見渡す千人長。

「ほう?

今のを躱すか」

 千人長の背後から声がする。

 素早く振り返った千人長の視線の先には、何も無かった。

 いや、わずかな空気の揺らぎがあっただけだった。

「"何か"居るな」

 千人長は本能で"何か"がその場に居ることは感じられたが、どう目を凝らして見ても何も見つけられない。

 それでも、千人長は素早く両腿に備え付けた小剣を抜き放ち、油断なく構える。

 ヒュ。

 ザッ。

 半身になって"何か"を躱す千人長。

(また躱された!?)

(落ち着け、鈴蘭(すずらん)。

コイツは勘だけで避けてるようだ)

(ハヤテと同じタイプね。やりにくいなぁ。

でも……)

 隠形鬼夫婦の以心伝心だ。

 ガブッ。  ブシュゥ。

「グアァッ!」

 右ふくらはぎに鋭い痛みを感知した千人長が、とっさに足下に小剣を振りまくっている。

 ピッ、ピッ、ピュゥン。ザク、ザク、ザクッ。

 その隙に幾度も打ち込む鈴蘭(すずらん)。

 千人長は、なんとか皮一枚で躱し続けるが、打ち込まれる度に鋭く傷が深くなっていく。

「よくもまあ、それだけ避け続けられるものだ。ワシには到底出来ん芸当よ。

ふんっ!」

 一朗太はわざと声を発し、己に注意を向けさせているようだ。

 ガシィン!

 一朗太の正面から大上段で振り下ろした大刀を、両手の小剣で受け止めた千人長。

 その瞬間、何も無かったはずの目の前に、おぼろ気ながら巨軀が浮かび上がってくる。

「な、なんだ!? オーガなのか!?」

「我が主の前でそんなこと言うなよ。

烈火の如くお怒りになるぞ。

くっくっく」

 そして、千人長の身体に変化が起こった。

 千人長の身体が浮き出したのだ。負傷した右足から徐々に。

「今度はなんだ!?」

 驚きに包まれる千人長だったが、とっさにブレスを吐こうと魔力を喉元に集約する。

 カッ…………ドス、ブシュゥゥゥゥッ。

 ブレスを吐く寸前、小刀が千人長の喉に突き刺さっていた。

 火炎を吐き出そうとしていたのか、小刀の傷口から炎が漏れ出す。

 隠形術に雲隠れの術を重ねていたぬぅの仕業だ。

 器用にも、自身の尾先で小刀を掴んでいたのだ。

(上出来だよ、ぬぅちゃん。

あとは任せな)

 ヒュン。

 ドン…………ドン、ドン。

 千人長の首が飛んだ。


(よし。

これでこの部隊の指揮官の首は獲った)

(ぬぅちゃんもよくやったよ)

(ああ。ぬぅは最高だ。

あとは……)

(ミャオン)

 そして、仲間の隠形鬼から以心伝心で戦果が報告される。

 オーガの百人長を仕留めた報告を受け取る一朗太達。

(では、撤退するぞ)

(((おう)))

 各所で一陣の風が吹いた。

 オーガの死体の傍らで。

 前鬼(ぜんき)はたった一人で大部隊に匹敵する戦闘力があるようですね。

 妖(あやかし)界隈では戦鬼としてもメジャーなようです。

 また、隠形鬼一家の連携も垣間見れました。

 一朗太が力技と囮役、鵺(ぬえ)のぬぅが遊撃で、隠形鬼最強と吟われる鈴蘭(すずらん)が攻撃とトドメ役。


 さて、次話は、グラナリー防衛戦に飛びます。

 いよいよ第一師団長の元へたどり着いた者が居ます。

 お楽しみに。

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