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第302話 まかない飯 後編

 一朗太家の一員となったコニー。

 さぬき屋の今日のまかないは……。

ーーー うどん店主の視点です ーーー


 まかないを作ろうと、茹で釜を離れた私。


 先に具だくさんのトン汁を作って弱火でことこと煮込んでいく。

 普通のお味噌汁は、お味噌を入れてからはあまり煮込まない方が良い。苦味が出ることがあるから。

 でも、今回は違うの。

 お味噌は赤味噌を使うから。

 それに具だくさんで、具材の旨味をとことん出させて、その旨味を具材に染み込ませるのよ。

 トン汁はこれで良し。


 さあ、挑むぞ。

 お母さん直伝の焼き飯を。


 お母さんの焼き飯は至ってシンプル。

 でも、その美味しさは都中の飲食店が束になって掛かってきても、負けない。

 素材とかじゃなくて、本当に腕だけで美味しさを作り上げる。

 でも、今の私ではまだその領域に達していないから、今日はちょっとアレンジするの。


 まずは、教えてもらった基本通りに焼き飯を作る。

 火力は最大にしておく。

 ジュワァッ。

 この卵が焼ける音が気持ちいい。高温の油に卵が弾ける音。

 おっと、ぼうっとしていられない。全てタイミングが重要なんだから。

 玉子が半焼けの内にごはんを投入。お玉で押しながら、玉子とごはんが均等になるように均していく。

 そして、すぐに煽る。

 シュッ。ジャ、ジャアァッ。カンカン。

 お玉で素早くかき混ぜながら、また煽る。

 この繰り返し。

 私の額に汗粒が浮かんだ頃に、ネギ、塩、コショウを入れる。

 そして、アレンジの素、ダシ粉もほんの少し入れる。

 さらに煽る。

 二、三度煽った後、鍋肌に醤油を回し掛けて、鍋を揺すりながら、お玉で高速でかき混ぜていく。

 仕上げに、少しの溶き卵を垂らして、さらに煽る。煽る。煽る。

 よしっ、出来た。

 出来上がった焼き飯をお皿に盛っていく。

 私の腕じゃ三人前が限界。

 最後にカツオブシを振りかけて完成。

 これは……ええと……。


『和風に仕上げたいなら、焼き魚の身をほぐしたものを入れたりするね。

でも、簡単にするなら、最後にカツオブシを振りかけりゃ良いんだよ。

それで和風焼き飯が出来る』

 そうだ。

 ワフウ焼き飯って、お母さんが言ってた。

 ……ちょっとニュアンスが違う気がする。

 ワフウ……ワ風……和風。

 うん、和風。和風焼き飯の完成♪


「女将さん。

それじゃ、お先に戴きますね」

「どうぞー」

 最初の厨房要員の従業員がお昼休憩に入る。この人がウチの副店長。オープン当初から居る人だ。

 ウチはお昼休憩は30分ずつの交代制。30分しかないから、お昼ごはん食べたらすぐに仕事に戻る。

 ホールの従業員も一人休憩に入るはず。

「女将さん、厨房ももう一人休憩させたら?」

 今日は客足が引くのも早いから、主任の子が言ってる通りで大丈夫だろう。

「それで良いわ。

貴女が指示しておいて」

 焼き飯を炒めながら、主任に任せる。

「ほい、皿洗い。あんたが休憩に入りな」

 一番の新人を指名したようだ。

「ありがとうございます。

もう腹減ってたんです」

 くすっ。

 彼が直前までやっていた行列の整理も結構大変だ。

 一組一組に挨拶してメニューを渡し、順番帳に記名していく。入店前に注文するお客様も居るから、その旨をホール担当者に報告。

 料理の説明を求められることもあるから、きっちり対応する。

 中には、待ち時間の長さにクレームを入れるお客様も居るので、それにも対応しなくちゃいけない。

 まあ、楽な仕事なんて無いものね。


「やったー♪ お先ー」

 ホールの娘(こ)も順番が決まったようね。

 三人が厨房の奥にある席に座って、仲良く食べてる。

 本当は、2階に休憩室があるんだけど、お昼休憩にはあまり使う人が居ない。

 でも、客席で食べることはさせてない。

 だって、私が作るまかないごはんはメニューに載ってないものばかりだから。お客様がそれを見て「アレと同じもの」なんて注文されたら困っちゃうもの。


「このチャーハン、とっても美味しい」

「はい。こんなに美味しいチャーハンは初めてです」

「ありがとう。

お母さん直伝の和風焼き飯なの。

でも、お母さんの味には程遠いんだよなぁ。

もっともっと精進しておくね」

「ふえぇぇ。これ以上美味しいのがあるの?」

「きっと凄いお母さんなんでしょうね」

「俺は会ったことがあるぞ。

ものすごい美人な女性(ひと)だ。

それ以上に料理の腕が凄いお人でもある」

 副店長はオープン時からの古株だから、手伝いに来てたお母さんをよく知ってる。

「そっか。女将さんのお母さんの……ワフウ焼き飯なんだ。美味しいね」

「僕はこのトン汁も好きです」

「そうそう、具がさ……」

 三人の会話が弾んでる。

 やっぱり、美味しい料理は楽しい気持ちになるし、笑顔になるよね。


「主任(しゅにーん)!

私の順番はまだぁ?」

 ホールの娘(こ)がお腹空いちゃったようね。

「まだだよ。

あと10人のお客様がお帰りになるまで我慢しな」

「はぁーい」

 今日は、私以外に厨房に4人、ホールに3人、行列整理に1人のシフトを組んでいる。

 回転の早いうどん屋で客足が引くのも早いなら、休憩を取らせてあげたいけど、ホール担当者は無理ね。

 今居るお客様達のお会計とお片付け(バッシング)は、どうしても2人必要。

 まだ30人ほどのお客様が滞在してる。


 まかないを全員分作り終えた。

 お代わりする人も居るかもしれないので、多めに作っておいた。

 私の方が先にお昼休憩取れちゃう。ごめんね。

「主任。

悪いけど、お昼休憩頂くね」

「あいよ。お任せあれ」

 色好い返事がもらえたので、自分の分のまかないを持って、いそいそと席に着く。

「あー!

女将さんがお昼ごはん食べてるぅ」

「うるさいね、あんたは。

ほら、さっさと片付けてきな。

あっちとそっちもまだじゃないか」

 主任がホールの娘(こ)をシッシと追い払ってる。

 あれから帰ったお客様は9人。

 主任が言った10人に1人足りない。

 ウチはオープンキッチンで、茹で釜の位置は客席を一望出来る位置にある。

 主任は、お客様の動向をチェックしてて、わざと10人という数字を出したんだな。先に9人のお客様がお帰りになる予測を立てて。

 人の動かし方も上手い。

 彼女のこういうところも加味して主任に引き上げたんだ。


 さあ、私も食べよう。

「いただきます」

 まずは、和風焼き飯を一口。

 パクリ。

 モグモグ。

 うん。ちゃんとしっとりパラパラに出来た。

 熱気で踊っているカツオブシごと掬って、もう一口。

「お代わりを頂きました。

これ、旨いですね。

パラパラ具合としっとりのバランスが良い。

やっぱり火加減ですか?」

 副店長が褒めてくれた。

「うーん。

本来はその通りなんだけど、お母さんと違ってそこまで上手く出来ないんだ。

私は裏技を使ってごまかしてるの」

「ほう、裏技?」「え!? 料理に裏技なんてあるの?」「そうかぁ、裏技あるんだ」

 そうなの。

 何度やっても、お母さんみたいなしっとりとパラパラが上手く混在しないから、知恵を絞ってみた。

「なるほど、卵ですか」

 三人に説明したけど、理解出来たのは副店長ただ一人。


 裏技と言えど、結構、試行錯誤した。

 魚の風味を出すのに、ダシ粉を使うのは良い発想だった。お店のまかないでイチイチ焼き魚を作る暇なんて無いから。

 でも、やってみると、余計にパサパサ感が出て気になってしまった。

 ダシ粉は乾物だから、水分を吸っちゃうのね。

 かといって、うどんのおつゆを入れると、逆にベッチャリしちゃうし。

 そこで、溶き卵の投入を分割することを思い付いた。

 最後にほんの少しの溶き卵を仕上げに使うのが良かった。

 それでも、何度も何度も失敗した。

 なんとか納得出来るものが出来た時、お母さんに出してみたの。


「ふぅん。

乾物の削り粉を使ったか。

……及第点をあげるわ」

 お母さんの基準は高い。もっと精進しろってことね。

 でも、一応の合格はもらえた。

 一人前のごはんに対し約1.5個分の溶き卵、仕上げに入れる分は約0.5個分が私が導きだした比率。

 お父さんも横から入ってきて、私の作った和風焼き飯を食べながら一言。

「うどん屋の店主なのに、色々やるもんだなぁ」

 いいの! お料理が好きなんだから。

「この娘(こ)は、他人(ひと)に美味しいって言ってもらうことが好きなんだろうさ」

 お母さん、よくわかってる。

「この娘(こ)を嫁に貰おうって人はいっぱい居るだろうさね」

 ま、まだ、結婚なんてしないよ。

「なにっ!

百年は嫁に行かんで良い!」

 お、お父さん。それじゃお婆ちゃんになっちゃうどころか生きてないよぉ。


 その後、お父さんとお母さんの言い合いが続いたけど、私はぬぅちゃんと居間でまったりと過ごした。

「ミャミャアン」

 ホント、やれやれ、だよね。

 このお話でわかる通り、異世界人でも妖(あやかし)達と親密となることで、言葉のニュアンスもだんだんと正確になっていきます。

 コニーちゃんの嫁入りなんてあったら、また一騒動ありそうですね。


 さて、次話は、グラナリー防衛戦に戻ります。

 お楽しみに。

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