第300話 まかない飯 前編
ところ変わって、またまた大樹の森の都。
賑わいが減った商店街でも、繁盛しているお店があるんです。
ーーー うどん店主の視点です ーーー
「「「いらっしゃいませー」」」
店員達の元気な挨拶でお客様を迎える。
「お待たせ致しました。
三名様ですね。
ご案内致します。こちらへどうぞ」
案内役の店員がお客様をお席まで誘導する。
チラリと厨房内の時計を確認する。
13時30分直前ってところ。
そろそろ客足も落ち着いてくる頃ね。
いつもなら14時過ぎまで客足が途絶えることは無いのだけど、今は引きが早い。
だって、戦争なんだもの。
たくさんの人が出兵しちゃったの。
ここアーケード商店街の店主達のほとんども戦争に行っちゃってる。
そのせいでアーケード商店街のほとんどが臨時閉店してる。
おかげでウチにお客様が集中してるのだけれど、それもランチタイムの間だけ。
まあ、アーケード商店街のお客様の総数が少ないから仕方ないのよね。
「女将さん、店外のお客様は居なくなりました」
店外の行列整理の店員が戻ってきて、報告してくれた。
「ご苦労様。
じゃあ、洗い物をお願いしますね」
「はい」
「それから、主任。
ここをお願い。
まかないを作るから」
「はーい」
それぞれに指示を出して、その場を離れる。
この主任は、私と同じ若い女性だけれど、もうほとんどの仕事が出来るから、任せて安心だ。
私は、従業員達のまかないを作る準備をする。
さて、今日のまかないはもう決めてる。
豚肉の細切れ、大根、人参、玉ねぎ、ゴボウ、ナス、お味噌を調理台に並べていく。
あと、ウチで使ってるお出汁袋と昆布。
網目の入った袋の中には、色々な煮干しを詰めている。
そう、簡単にトン汁を作るつもり。
具だくさんにしたいから、豆腐と油揚げも入れちゃおう。
そして、メインになるのは……。
◇◆◇
「ごめんください」
ガラガラ。
挨拶しながらも、勝手知ったる要領で玄関の扉を開ける。
「はーい。
今、台所に居るから、こっちおいでー」
奥から師匠の声が聞こえる。
「はーい。今行きますー」
旦那さんのイチさんとヌゥちゃんはお出かけしてるみたい。
いつもなら、私が声掛けるとヌゥちゃんが真っ先にお迎えしてくれるの。
そう、ここは私の師匠であるスズランさんのお家だ。
私は定期的に通うようにしてる。月に一度は必ず。
最近は、主任にした子が成長してくれたおかげで、もう少し増えた。
ここに来る日はランチタイムの終了の14時まで勤務して半休を取ることにしてる。その翌日は私の休日だ。
だって、その日はお腹いっぱいで動けなくなるから。そのままお泊まりさせてもらうのがルーティンになってるの。
「スズさん、こんにちは」
「来たね、我が愛弟子よ」
スズさんが、冗談交じりで笑いながら迎えてくれる。
すみません。愛弟子どころか不肖の弟子で。
来る度に、スズさんが高みの存在であることを実感するのだ。
盟主様は、「師匠の壁が高いことは良いことさ」なんて仰ってたけど、その壁がお空の雲よりも遥かに高い位置にあるんですけどぉ!
はぁ~。精進するしかないかぁ……。
スズさんは野菜を切っている。
「あ、お手伝いします」
蛇口を捻って手を洗う。
「そういえば、今日はイチさんとヌゥちゃんはどちらへ?」
「ああ、あの二人なら、魚を獲りに行ってるよ。
今晩のおかずの一品になるね」
「イチさんは釣りも得意なんですね」
「旦那は普通くらいかな?
でも、ぬぅちゃんが一緒だから、釣果は期待出来るね」
「え!?
ヌゥちゃん、釣りが出来るんですか!?」
「ふふ、あの子の場合は釣りっていうか、狩りっていうか。
元が猫又だからね。魚の狩猟は得意みたい」
話によると、ヌゥちゃんも一応釣糸は垂らすみたい。でも、魚がエサに食いつく前に、前足で引っ掛けて魚を獲っちゃうんですって。
代わりに全身びしょ濡れで帰ってくるから、スズさんに叱られながらお風呂に入れられるんだって。
ヌゥちゃんらしいなぁ。
「コニー、こっちをお願い。普通のお味噌汁で良いから」
「はい。
……具だくさんで良いですよね?」
「そうそう」
スズさんと立ち位置を代わる。
ここのお味噌汁は具だくさんで作るのがマストなの。汁物と言うよりも食べるおかずだ。
でも、そのおかげで、色々なお野菜やら具材からエキスが染み出して、凄く美味しいの。
スズさんの方はと言うと……。
ザシュ、ザシュ、ザシュ。
お米を洗ってる。
あれ? もう炊き上がったごはんが大鍋で二つあるんだけど、まだ炊くの?
「スズさん、ちょっと多くないですか?」
「良いの、良いの。
今日は消費が激しくなるから」
へぇ。それは楽しみだなぁ。
洗い終わったお米に水を注ぎ、40分ほど放置してから炊き始める。
その間に、スズさんは生卵を小型の寸胴にいくつも割り入れて溶き卵に。
熱した大きな中華鍋に油を入れ、そこにお玉で溶き卵を。
ジュワ。
卵が焼かれて踊っている。
卵が半生の状態のところで、すでに炊き上がったごはんを投下。お玉の背で叩くように伸ばしてから、煽る。
はぁ~。いつ見てもスズさんの技は凄い。
あんなごはんの量を普通の人に煽ることが出来やしない。少なくとも五人前はあると思う。
玉子とごはんがある程度混ざったら、細かく刻んだネギを入れて、塩コショウ。何度か煽ったらショウユを鍋肌に回し入れる。
ジュワアァ。ジャ、ジャ、ジャ。
お醤油の焦げる匂いが鼻腔をくすぐる。良い匂い。
そう思ってたら、すぐに火を止めたスズさん。空いたお鍋に出来上がったソレを移し替えてる。
はやっ。
「ざっとこんなもんよ。
コニーもやりな」
「はい。
……コレ、チャーハンですよね?
それにしては具が少ないような……?」
私も他のお店で食べたことがあるけど、そこには玉子やネギ以外の色々な具が入ってたはず。
「そんな上等なもんでもないさ。
でも、鈴木次郎様が仰るには、これが基本らしいよ」
何でも、盟主様に頼み込まれて、お屋敷でも作ったことがあるらしい。
「あの時は腕が千切れるかと思ったよ」
それはそうだろう。
タイヨウの皆様の分をお作りしたんだろうし。
その時は、盟主様と宰相様が手伝ったらしいけど、盟主様も息も絶え絶えに左腕を抱えていらしたとのこと。
「後鬼様だけけろっとしてたのよ。
あたしゃ、後鬼様を尊敬するね」
ううっ……大樹のお屋敷に招かれる栄誉は欲しいけど、ちょっと怖い。……まあ、今のままでは当分無理だけど。
気を取り直して、コンロに向かう。
私はスズさんのようには出来ないので、一人前くらいの量に抑えてチャーハンを作ることにした。
やってみて、よくわかった。
コレ、ものすごく大変だ。
それぞれの材料を入れるタイミング、素早い鍋振りとお玉のかき混ぜ具合。どれもが気を抜けない。
当然、1回目のチャーハンは……。
「ううーん……。
悪かないんだけどね」
私も一口食べてみたけど、スズさんのと食べ比べると違いがよくわかる。
ちょっとボソボソだし、わずかにべっちゃりしてる。
先にスズさんのを味見させてもらってるから、違いがはっきりわかる。
「まず火力が弱い。
煽りとお玉の動きが遅い。
ネギの投入が早すぎる。
良かったのは、塩コショウと醤油の入れ方だけだね」
スズさんは、こうやって細かく指導してくれる。大変ありがたい師匠だ。
「もう一回やらせてください」
「あいよー。
失敗したのは私の腹ん中に収めておくから、気にせずじゃんじゃんやりな」
スズさんも大食いだ。その点は安心して失敗出来る。大事な食材を無駄にしなくて良い。
ハッ! そんな気構えじゃダメ。
次こそ、成功させるぞ。
…………結局、五人前はスズさんのお腹の中に行ってしまった。
私もギリギリ及第点をもらってから、スズさんと交代交代で中華鍋を振るった。
イチさんとヌゥちゃんが帰ってくる頃には、両腕がパンパン状態になってた。
「おう、帰ったぞ」
「ミャアン」
二人のご帰宅だ。
「ぬぅちゃん!
またびしょびしょじゃないか」
本当に濡れ鼠……濡れ猫?なんだ。
「お邪魔してまーす」
「おう、いらっしゃい」
「ミャミャオン♪」
「これ、ぬぅちゃん。濡れたままコニーに頭こすり付けるんじゃないよ。
ああもう。
コニー、悪いけどぬぅちゃんをお風呂に入れてくんないかい。ついでにあんたも一緒に入ってきな」
「はーい」「ミャオン」
ってことで、ヌゥちゃんとお風呂に直行。
凝り固まった腕を解そう。その後にお夕飯ね。
第300話記念にグルメ話を差し込みました。(実は301話目になるんですけどね)
いやもう、戦争シーンばかり続くと心の疲弊が募っちゃいますもん。一服入れないと。
今回は、さぬき屋のコニーちゃんのお話です。努力家なんです。立派ですね。
さて、次話は、この続き、中編となります。
お楽しみに。




