第298話 投擲の英傑
剣尖の音だけでなく、数多の衝撃音が鳴り響く平原。
そう、ここは西砦平原の戦場だ。
ーーー 三人称です ーーー
ゴオォッ。ビュウゥッ。ヒュンヒュンッ。ガンガンガンッ。
大量の業火や強風、石礫、雹などが激しく行き交う。
魔法部隊同士の応戦かと思えば、その現象はたった二人が産み出しているものであった。
弁才天と紅葉の二人だ。
そう、ここは西砦平原の戦場だ。
「ひょええ!
相変わらず、ベンテンの姐さんは凄まじいでやんすね」
「これじゃ、フォローしようにもやりようが無いじゃないのさ」
「敵の師団長も凄まじい。
敵さん、オーガじゃなくてアヤカシのオニだと言う話は本当らしいな」
閃光団のカウマン、サラ、ブレイドがオーガを相手しながら会話している。
「しかし、コイツらも普通のオーガよりかなり強いぞ」
ブレイドの言う通り、第七師団のオーガに対し、多数ではあるが連携攻撃で圧倒していた閃光団が、今回はやや押され気味になっている。
第二師団の親衛隊のオーガは、紅葉が直接訓練を施しており、全員が千人長を名乗れる実力を持っている。
1対1で対等に闘っていられるのは天狗だけであった。しかし、その天狗も20名のみ。
それに対し、親衛隊のオーガは千体に上る。
「そろそろヤバいかもしれないっすよ。
拙いながらも連携し始めたやつらも出始めてやす」
カウマンの言う通り、数で勝るオーガの親衛隊は、5名一組で連携攻撃を行う閃光団員達に対し、10体以上で襲いかかるようになり、閃光団を徐々に押し始めた。
ブレイド、カウマンは単独で闘っても圧されることはなかったが、サラの周りには結界に優れたオーガ達が群がるようになり、得意の投擲攻撃が封じられていた。
「もう、嫌んなるね。
投げる隙を作らせてくんないよ、コイツら!」
さらに、サラを狙うオーガ達は積極的に近接戦闘を仕掛けて来ており、なかなか投擲モーションを繰り出せない。
サラも剣を手に取って対応している。閃光団で揉まれているからか、剣の腕もなかなかであるが、有効打を入れられない。
(こんなんじゃ、子供達に顔向け出来やしない。
あの訓練を真面目にしときゃ良かったよぉ)
◇◆◇
1ヶ月ほど前の大樹の森の都の射的場。
「サラ姉ちゃん。
こういうのも覚えておいた方が良いよ」
エルフの子供がナイフを両手に持ち、的の前に立つ。
タンッ、タンッ。
その子は投げる素振りも見せずに標的にナイフが2本刺さっている。
そして、その子の両手からナイフが消失していた。
「えっ!? いつ投げたの?」
「サラお姉ちゃんが気付かなかったってことは、上手くいったんだな」
エルフの子供は、少し得意気に鼻の下を擦る。
「でも、僕だとあんまり遠くからは当てられないんだ」
「いやいや。だって的まで10メートルくらいあるよ」
「大人のエルフだと、20~30メートルを当てるんだよ。
ナターシャ様は、その倍くらいの距離を当てるし」
「はぁ~。
エルフって凄い種族なんだね」
エルフは、幼少の頃から投擲や弓矢を修練し腕を磨き続ける者が多い。狩り暮らしが多いエルフには、森で生活を続ける為に必須事項と言えた。
さらに魔法にも長けている一族だ。
「んで、結局どうやったのさ」
「単純だよ。
手首から先で投げるだけ。
ただし、他の身体は動いちゃダメなんだ。
もう一回やるから見てて」
その言葉に慌ててエルフの子供の真横まで移動して、じっくり観察する態勢を整えるサラ。
対象のエルフの子供はと言うと、相変わらずダランと立っている風に見える。
ヒュヒュッ。
タタンッ。
姿勢は変わらず、ナイフが二本とも的に命中している。
「本当だ!
手首から先しか動いてない!?」
サラが再び驚愕に包まれている。
サラがじっくり観察していた中、エルフの子供の腕も肩も動いておらず、頭すら少しもぶれていなかったのだ。
「ほら、サラお姉ちゃんもやってみようよ」
「あ、あたいに出来るかなぁ?」
「まずはやってみることだよ」
「「「やろう、やろう」」」
周りの子供達も促す。
その声に背中を押されて、的の前に立つサラ。
「まずは、この距離からだね」
手本を示してくれた子供が立った位置は、的から約6メートルほどの距離。
「え?
1.5メートルじゃないのかい?」
エルフの投擲訓練では、最初に大人が両手を広げた距離、だいたい1.5メートルほどの距離から始め、両手の投擲が当たればさらに1.5メートル後ろに下がっていく。それを繰り返し、記録更新を目指していくのだ。
サラはこの訓練では、50メートルを超える距離をクリアしている。ただし、通常の投擲ならば、と言う注釈が入るが。
「この不動投擲は、あんまり近すぎると的に当てにくいから」
サラも素直に言われた通りにする。
「「「がんばれー」」」
子供達の声援を受け、サラは両手のナイフを握り締める。
(おっとっと……。
力んじゃいけないね。逆に力は抜かなきゃ)
さすがは"投擲の英傑"。投擲の極意は掴んでいるようだ。
「フッ」
シュシュ。
トン、トン。
「おお、イケルじゃん」「両方とも的に当たってるよ」「さすが、サラお姉ちゃん」
子供達がやんややんやと誉めそやす。
一方、当のサラの表情が優れない。
そして、そのまま2回目の投擲を行う。
「フッ」
シュシュ。
トン、トン。
(やっぱり……。
コレ、威力が出ないね)
2回目も命中したにもかかわらず、サラは不満そうだ。
その後、サラは不動投擲の訓練を辞めてしまうのだった。
ドワーフ工房にて。
「ほらよ」
ドワーフのクーガーがサラに特製ナイフを渡す。
「コレ、コレ。コレが良いんだよお。
このずっしり来る重量感があたいに安心感を与えてくれるのさ」
「ああ、それとな、今回は対オーガ戦と聞いてたから魔石回路をケルビンに依頼しておいた。
同じ魔石でも、2~3割は威力が向上してると思う」
「良いねぇ。
バージョンアップかい!」
喜びに包まれるサラ。
「それと、ケルビンからコレも預かってる」
クーガーがテーブルに並べたモノを確認してみると、特製ナイフと変わらぬナイフが置いてあった。
ただし、特製ナイフより二回りは小型のナイフである。
「えぇー。
小っちぇえな」
サラは小型と言うが、投擲ナイフとしては標準的なサイズだ。それだけ、クーガー作の特製ナイフが大きい。
「文句言うな。
あいつは学者肌だが、引きこもらないヤツだ。
素直に受け取っておけ」
古代ギリシャの哲学者アリストテレスとその弟子たちは「歩き回る学者(逍遙学派 )」と呼ばれていた。
ケルビンもそれと似ているのかもしれない。
ケルビンは、現代風に言い換えるならば、フィールドワークを行う学者とでも言うのであろうか。
また、ケルビンは戦士ではないが、初期ドワーフの一人でもある為、工兵として戦場の空気を知っている。
「ん……、わかった。
そのケルビンってのはよく知らないけど、あんたのことは信頼してる。
これらも戦場に持ってくよ」
「そうしろ」
◇◆◇
「女ぁ、なかなかやるな。
だが、おまえは本来は中距離が得意なのだろう?
さっきから見ていればよくわかる」
「それによく見ればイイ女じゃないか。
後で愉しませてもらおうか。
……生き残っておればな」
オーガ達の目に闘争以外の淫靡な灯が点く。
「ふんっ。誰がおまえ達なんかと!」
サラは、剣と腕部装着盾でオーガの剣を弾いて致命傷を避けるので精一杯の様子。
「グオォォッ!」
ガキィィンッ。
オーガの強打に、サラは思わずつばぜり合いをしてしまう。
「女にしては力もある方だな。
だが、これで動けまい」
サラとつばぜり合いをしているオーガがニヤリと嗤う。
そして、周りのオーガ達も動き出す。
ヒュッ。………………………ザク。
「だ、だんだと
…………ブハッ、…………ゴボボ」
そのオーガの喉に一本のナイフが突き刺さっていた。
ドカンッ。
そして、そのナイフが爆発した。
ヒュヒュヒュッ。
ザク、ザク、ザク…………ドカッ、ドカッ、ドカンッ。
サラに最も接近していたオーガ達が、最初のオーガと同じく小型爆裂ナイフの餌食となっていた。
そのオーガ達は全員、喉に大穴が空いており、向こう側まで見通せる状態になっていた。
「ふうっ……。
頑丈なオーガでも喉元なら刺さってくれるか」
サラは、剣を両手で支えていたが、目の前のオーガが仲間のオーガ達を横目で確認した一瞬の隙に、左手でナイフを投擲していたのだ。
それも不動投擲で。
そして、それは周りのオーガ達へも投擲されていた。腕部装着盾の内側に仕込んでおいたケルビン特製の小型爆裂ナイフを使って。
ペロリ。
「なんだい。
接近戦でも使えるじゃないか」
小型爆裂ナイフの破片の煽りを受け、細かな破片で傷ついた顔から流れる己の血を舐めとりながら笑うサラ。
(こりゃ、帰ったらエルフの子供達に土下座してでも、訓練の続きを頼み込まなきゃね)
「アッハッハ」
「うげっ!
またサラのヤツ、高笑いしてるでやんすよ。
どんな神経してるんだか」
「ほっとけ。
いつものこ…………と!?」
カウマンの指摘を聞いて、横目でサラを確認したブレイドが固まる。
「?
……どうしたでやんすか、団長?」
ブレイドの様子から何かを感じ取り、カウマンもサラの方を注視する。
「ギャーッ。
サラが悪魔になってる!?」
顔中から血を流しながら高笑いするサラ。
高身長ながら、普通にしてたら金髪美人で通るサラが、戦場の高ぶった意識で鋭い目付きのまま、笑っているのだ。
周りのオーガ達も動けずに居た。もしかすると、オーガも気後れしているのかもしれない。
ここにまた、戦場の華が咲いた。鮮烈な紅い華が。
血の滴る良い女、と言う言葉はありませんが、閃光団のサラの有り様は、戦場に花咲く鋭い一輪の華と言っても過言ではないでしょう。
サラは、逞しいアマゾネスのイメージがあります。
さて、次話は、樹海の三種族の様子も見てみましょう。
お楽しみに。




