第297話 グラナリー領防衛戦
グラナリー平原の戦場では、後鬼の凄まじい土遁の術で地形が大きく変形していた。
そして、その坂を銀狼師団が駆け下りる。
ーーー 三人称です ーーー
グラナリー領の南の平原で、次郎率いる大樹の森国軍とクリムト帝国軍第一師団が衝突した。
銀狼師団が平原に現れた坂を下りおりる。
兵士達はオーガ目掛けてまっすぐ突き進んでいるが、その相棒の眷属狼はやや先行し、牽制なのか蛇行しながら接近していく。
「「「グオオオォォッ」」」
「「「うおおおぉぉっ」」」「「「ガアアァッ」」」
オーガが唸れば、銀狼師団員も負けじと吠える。
オーガも坂を駆け上がっていく。
「なんだ、こやつらは?」
クリムト帝国軍第一師団長ギレンが不思議そうにその様子を眺めている。
「犬?…………いや、狼と人間が組んだ軍隊なぞ、聞いたこともないぞ。
それに鳥人も編成されているようだ。
こやつら、本当にゴドー王国軍か?」
疑問に思いながらも頭を振るい、自身も戦闘体勢に入るギレン。
「見つけたぞ。
アイツが大将だ」
次郎が戦場全体を観察し、一番冷静でこちらを窺っていたオーガを見つけ出した。
「チッ。
こんな時に隠形鬼が居てくれたなら、話は早かっただろうに」
愚痴を溢す次郎。
「隠形鬼達はみんな西砦の方に行っちゃってるにゃ」
「仕方ありんせん。
次郎様自らがそう采配したでありんす」
アヤメとタマモが次郎にもの申す。
「これは僕のミスか。
今ある戦力でも十分なのに望み過ぎたな」
『では、私が幾ばくかのフォローを致しましょう。
しばらく、ここを離れますね』
そう述べた後、サトリの存在感がその場から消失する。
「サトリ……」
次郎の下を離れたサトリは、各部隊長達の脳を駆け巡っていた。
『ここに敵の大将が居るぞ』『こんな姿をしている』『場所はここだ』等々、次郎の見た映像を皆に共有しながら次々と移動していった。
「おお、主殿がすでに見つけられたか」
「むっ。盟主様からの情報か。ありがたい。
しかし、あの位置ではすぐには到達出来ないのが残念だ」
「ナーガ、フラウローネ。
観たか、今のを」
「ええ、しっかりと」
「観たと言うか、観せられたと言うか……。
情報としてはありがたいものだけど、オーガの群れの一番奥に居るのね。
到達するまで時間が掛かりそうね」
バラバラな場所に居るはずの真神、ジーン、鳥人のブラン、蛇人間のナーガ、蜘蛛人間のフラウローネが本陣の方へ顔を向けて呟く。
また、ある夫婦は本陣の方は一瞥しただけで、すぐに戦場の方へ顔を向ける。
「ふん。
せっかくのジロー様からの情報を活かさぬ手は無い」
「妾は旦那様に従うのみ」
獣人のリーダーのハヤテとその妻の鬼女の橋姫夫妻だ。
「おいおい、ハヤテ。
俺達はオニ部隊とここで待機のはずだぞ。
何処へ行く?」
同じ獣人仲間が歩き出したハヤテを咎める。
「悪ぃいな。
獣人達はゴズ様に従ってくれ。
俺様は、俺達はちと野暮用が出来た」
橋姫を連れ添ったハヤテは牛頭にも話し掛ける。
「ゴズ様、すんません。
獣人達のこと、頼んます」
「牛頭、頼みますね」
「……まあ、良い。
オイラ達は、さささ作戦通りに、うう動く。
が、敵部隊を喰い破った時に、おおおおまえ達がマゴマゴしているなら、オイラがもらうぞ」
牛頭がギラリとハヤテを睨む。
「うへぇ。こっちのケツに火が着いちまうなぁ。
良いですよ。こちらも全力で挑みますから」
ハヤテの口調は軽いが、こちらもキッと睨み返す。
「いいい行くなら早く行け。
モタモタしていると、てて転移に巻き込まれるぞ」
牛頭は、フンッと一つ鼻息を漏らすと、手のひらをシッシッと払い、ハヤテ達を追い払う。
「牛頭、ありがとう」
ハヤテは前を向いて進んで行くが、代わりに橋姫が振り向いて頭を下げる。
「鬼隊、獣人隊。
おまえ達の出番だ。
準備は良いか!?」
「「「おおっ!」」」
次郎は、皆に声を掛けながら、その集団から離れていく二人の姿を横目で見ている。
クスッ。次郎の口端が僅かに上がった。
「よし、出動!」
部隊の返事は聞こえず、全員がその場から消え去っていた。
次郎の転移能力だ。
「次郎様。
宜しかったでありんすか?
二人を放っておいて」
「二人共、嬉しそうに笑いながら行っちゃったにゃ」
タマモとアヤメがハヤテ達の行為を咎めガチに、ため息と共に溢す。
「ハハハ。
ハヤテは強敵を見つけた喜びで、橋姫はそんなハヤテが嬉しそうだから、二人共笑顔だったんだな」
「でも、歴とした軍規違反ですよ」
「戦後にしっかりと叱っておくさ」
後鬼の進言に次郎もしっかりと返答する。が、次郎の顔からニヤつく表情は消えなかった。
◇◆◇
牛頭率いる鬼隊と獣人隊が転移した先は……。
それは、クリムト帝国軍第一師団の最後方のさらに後方だった。
つまり、オーク部隊とリザードマン部隊、コボルト部隊の背後を取った形だ。
「押し込め!」
牛頭の号令が周囲に響く。
ドドドドドッ。
牛頭を先頭に、体格の良い鬼達が体当たりを敢行する。
獣人隊も同じく体格の良い熊獣人や狼獣人達もタックルを仕掛ける。
「ブヒィィッ」「うおっ、おおおぉぉぉ……」「ぐうっ」
不意を突かれ、それも背後からの集団のチャージにオークもリザードマンも次々と崖下へと叩き落とされていく。
辛うじて、身軽なコボルトがいくらか難を逃れていたが……。
「そら、出番だぞ」
「アイアイサー。
よっと」
ドカッ。
くぐもった音の跡には地面が大きく抉れていた。
「ハッ、キィーーーン」
バシンッ。
「あらよっとぉー」
バキンッ。
ところどころ、可愛らしい女の子の声が聞こえては、コボルトがその度に崖下に蹴り出されていた。
「おまえまで落ちるなよ」
シュタッ。
「大丈夫だよぉ。
でも心配してくれてありがとー。
マフ君、大好き」
「戦場でマフ君は止めろって言ってるだろう」
「てへっ」
警察署長のマーリンと副署長のマフティだ。
彼らは獣人隊に編成されていた。
マーリンは兎獣人なので、獣人隊に居るのはわかるが、マフティはドラド族のヒト種である。普通ならここに居ないはず。
ましてや、マフティは副将軍でもある。
「マフ君も心配性なんだから~。
でも、一緒に居てくれて嬉しい♪」
「フンッ」
それでも、事前に次郎から命令されている為、堂々としている。
どうやら、本音はただ単に彼女であるマーリンが心配で付き添っていただけのようだ。
ズガッ、ドゴッ、ドンッ。
マフティもただ見守るだけでなく、土槍をハンマー状に変形させて、コボルトを突き落としている。
「ふぅ。
コボルトは相変わらず厄介な相手だな。
たまに土槍の速度を上回ってくる」
マフティの魔法発動はかなり速い部類に入るのだが、力量の高いコボルトが避けているのだ。
「ほにゃーああ」
バキンッ。
その避けたコボルトをマーリンが正確に蹴り落としていた。
「つっ……。
フォローしてくれるのは嬉しいんだが、その掛け声はなんとかならんのか」
「はえ?
気合い十分っしょ」
「そ、そうなんだな……」
二人の連携もなかなかのようだ。
~~~ 余談 ~~~
数日前の大樹の屋敷の会議室。
「……以上、グラナリー領での編成を終える」
次郎が、グラナリー領防衛戦のメンバーの指揮官達を集めて作戦を述べていた。
「あの……。
私が獣人隊に編成される意図は?」
副将軍のマフティが挙手をしながら発言する。
「今回は僕がグラナリー領防衛戦の指揮を取る。
なので、マフティは指揮官ではなく、一兵士としての力量を期待する。
何せ相手はオークやリザードマンの集団となることが予測されるからな。取りこぼしたくない」
次郎は明確に断言する。
「なお、後方急襲部隊の総指揮は牛頭とする。
良いな、牛頭?」
「はっ、おおおお任せください」
牛頭は、フンッと鼻息荒く返事する。
「ああ、それと……。
マフティ、おてんば娘のコントロールはよろしく」
クスクス、クスクス。
会議室に微笑が漏れる。
「は? え? …………あ、はい」
敵の師団長を見つけた大樹の森国軍。各々の猛者達の模索が渦巻きます。
マフティとマーリンのコンビは久々の登場となりました。相変わらずの仲の良さにほっこりします。
さて、次話は、ある英傑の活躍を眺めてみましょう。
お楽しみに。




