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第293話 西砦の紛争

 ゴドー王国の最西の上空を一羽の鳥が舞う。

ーーー 三人称です ーーー


 ゴドー王国の最西。

 クリムト帝国に占領されてしまった西砦。


 バサ、バサッ。

 クルル、ポゥ。

 西砦に伝書鳥が留まる。

「来たわね。

……ふむふむ。予定より2日早く会敵したか。

では、こちらも出陣するとしようか」

 それはとても美しい女性、クリムト帝国軍第二師団長、紅葉(もみじ)である。

「モミジ、出陣か?」

「ええ。

目の前の部隊を駆逐するわ」

「第一師団の援護射撃と言うのは気に食わんが、戦(いくさ)は我らの喜び。

蹂躙してくれよう」

「「「おおうっ!」」」

 取り巻きの親衛隊が喚声を上げる。

 間もなく、西砦からクリムト帝国軍第二師団が出陣した。



 西砦を見張っていたゴドー王国軍第6師団。

 兵数は1万に上る。

「た、隊長!

オーガが……クリムト帝国軍が、西砦から出てきています!」

 見張りの兵の声が裏返っている。


 その知らせは本陣にすぐさま届けられた。

「規模はどれほどだ?」

「非常に多いです。

数万に上る大部隊です」

 西砦の監視業務に就いていた第6師団長に、若手の師団長付士官が返答する。

「西砦に詰める敵部隊は多いと聞いていたが、数万とは……。

我が第6師団だけでは食い留めきれぬ。

王宮に救援要請を出せ。今すぐに!」

「はっ。

伝書鳥を至急放ちます」

(とはいえ、応援部隊が到着するまで数日掛かる。果たして、何日持ちこたえられるか……)

 第6師団長の眉間には深い皺が刻まれるばかり。



「ほう?

ゴドー王国のヤツラにしては、展開が早いな」

 先鋒部隊を任されたクリムト帝国軍の千人長のオーガだ。

 この千人隊、通常のクリムト帝国軍の編成なら3千~4千のはずが、倍以上の1万体は居る。確かにオーガは千体ほど居るが、その他の種族が多く居るのだ。

「よし、鋒矢(ほうし)の陣を敷く。

敵の真ん中をぶち抜くぞ!」

「「「おおっ!」」」

 オーガらしからぬ陣形を整えての突撃である。

 彼もまた、第二師団長の紅葉(もみじ)の特長を受け継ぐ指揮官であるようだ。

 ただし、鋒矢(ほうし)の陣は通常、安全な最後尾に大将を配置するはずが、彼自身が最前部に位置していた。この様は、第七師団長のドズルと全く同じであった。

 最も過酷で危険な位置に己を置き、最も戦闘を味わおうというオーガらしい考えでもあった。

 それが却って、オーガ以外の種族の兵達に安心感を与えていた。彼らは恐怖で支配されているが、こうしてオーガ自身が最前線に率先して向かうことで、戦争においてはカリスマに近い統率力を発揮していた。


「くっ、密集陣形を敷け!」

 ゴドー王国軍の第1大隊長が慌てて号令を発する。前面中央部を厚くする指示だ。

 盾持ちが前面に集まってくる。いわゆるファランクスに似ている。

 ドッ、ドッ、ドッドドドドッ。

 だが、クリムト帝国軍の先鋒部隊の足が速い。

 ゴドー王国軍の前衛が二重に配置する直前にオーガの千人長がたどり着いた。

「ゴオオォッ!」

 ドカ、ドカンッ。

 千人長がゴドー王国の兵を数人弾き飛ばす。

 そのまま中央を走り抜けて行く。

 矢印型の前面に居るオーガ達も遅れること無く、突き進む。

「ぐわっ!」「ぐぎゃあっ!」「うぐっ、お、重い」

 さらに多くのゴドー王国の兵が薙ぎ倒されていく。


「ふしゅるるるぅ……。

最後尾に着いた。これより横陣(おうじん)に移る。

移動はゆっくりで良いぞ」

 ゴドー王国軍の最後尾まで突き抜けた千人長は、一度呼吸を整えた後、自部隊を振り返させる。

 ヒュン、ヒュン、ヒュン。

 だが、整列する前にゴドー王国軍から弓矢の嵐が撃ち出される。

 オーガ達は打ち払うことに成功するが、他種族の何人かは弓矢の餌食になって倒れ臥す者もいた。

「両サイドからの射撃か。

この敵の指揮官はなかなかやる。

だが、次の手が読めるか?」


「敵部隊は最後方まで到達。

反転して再度突き抜けるかと思われましたが、その場に留まっております」

「前衛部隊の被害は甚大。

しかしながら、最後方まで到達した敵部隊に弓矢を照射。敵を削ることに成功しました」

 ゴドー王国本陣に次々と報告が舞い降りる。

「真ん中の道は開けろ。こちらの兵を両端に寄せるのだ。最後部に位置する敵部隊を通過させれば良い」

(さあ、どちらに向かう?

北か? それとも南か?

どちらに向かおうとも弾き返してみせるぞ)

 第6師団長の采配で、クリムト帝国軍の先鋒部隊は両サイドからの弓矢射撃で削られていく。

「だが、勝利は我らのものだ。

俺達の目的は、貴様らを二分割すること。

モミジよ。

俺達はちゃんと仕事をしたぞ」

 千人長が数多の弓矢を弾きながら叫ぶ。


「敵部隊が南北に別れたぞ、モミジ」

「先鋒はしっかり仕事をしてくれた。

あとは我らの仕事。

殲滅するぞ!」

「「「おおっ!」」」

 クリムト帝国軍第二師団長の紅葉(もみじ)が号令を発した。

「左右共に魚鱗の陣。

行け!」

 残された部隊を二つに分ける紅葉(もみじ)。

 分かたれたとはいえ、それぞれが1万以上の大部隊だ。その兵達が△の形で突き進む。

 そして、その後方に親衛隊のオーガが千体、方円の陣で大将の紅葉(もみじ)を守っている。

 また、その後方に他種族が横一列に行軍していく。

 図で表せば、

  △ △

   ●

ーーーーーーーー

という陣形だろうか。

 どうやら、紅葉(もみじ)は残らず駆逐する構えのようだ。


 そして、その部隊が激突していく。

「ぐわああっ」「おのれぇ、負けんぞぉ」「行け、行け。潰せ」「腕が、俺の腕がぁ!」「殺せ、殺せ」

 まさに阿鼻叫喚の図である。

 さらに、ゴドー王国軍にとって最悪だったのは、先鋒部隊の千人隊が王都方向への退却路を塞いでいたことであった。

「しまった!

あの先鋒部隊は我らの退路を塞ぐ蓋が役目だったのか」

 ゴドー王国軍第6師団長が後悔の念に苛まれていたが、少しずつ兵が削られてしまっている。


 ヒュ、ヒュ、ヒュヒュヒュン。

 ザク、ザク、ザクザクザクッ。

「ぐぎゃっ」「な、なんだ!」「ぐぼっ」「うわぁ!」

 突然、クリムト帝国軍の最後方の部隊の背後から矢の嵐が突き立つ。

 エルフの集団が飛翔しながら、クリムト帝国軍の最後方部隊に弓矢の一斉射撃を放つ。

 最後方部隊は背中から矢を受けて、次々と倒れていく。

 突然の襲撃に被害は甚大だ。


「モミジ、後方が攻撃されているぞ!」

「「「なにっ」」」

 紅葉(もみじ)だけでなく、取り巻きの親衛隊も驚愕の声をあげる。

「何故、背後に敵が居る!?」「ついさっきまで誰も居なかったぞ!」

 親衛隊は、驚きながらも方円の陣を形成したまま背後を振り返る。

「エルフだ!」「エルフの集団が空から襲撃している」「100以上居るぞ!」

 後方部隊の皆が盾を翳して防御するが、狙いが正確なのか、盾の隙間を縫って肩や足先に中っていく。

 足に矢が突き刺さった者はその痛みに盾を下げてしまい、頭部に数本の矢が突き立つ。

 ドスドスドスッ。

 この射手達は矢継ぎ早に矢を放ちながらも、精密射撃も得意なようだった。かなりの猛者集団だ。


「どこから現れたのだ!?」「ここは平原だぞ。隠れる場所など無いはず」

 親衛隊が焦った声を出す傍らで、紅葉(もみじ)の眉間の皺が深くなる。

「まさか……空間をねじ曲げた?

しかし、そんなことが出来るのは……」


「あれを見ろ!」

 オーガの一人が上空のエルフではない地平の先を指差していた。

 ザ、ザ、ザ、ザ。

「リザードマンか?」「全身を装甲で固めているぞ」「装甲兵か?」

 紅葉(もみじ)の表情が驚愕に包まれる。

「あ、あれは…………河童、なのか?」


 後方から現れた集団は、横一列に整列しながら、こちらへ迫ってくる。

 その中央には、魔雄牛(デビルブル)が牽く戦車が数台並んでいる。

 ガラガラガラ。

「よしよし。

まだだぞ。まだ唸らなくて良い。

もっと近づいてからな」

 戦車隊の隊長ケインは、戦車に乗りながら、魔雄牛(デビルブル)達の興奮を抑えている。

 ケインは、興奮による体力の消耗を極力制限しようと画策しているようだ。

「さあて、前衛の役目を発揮するとしようか!」

 クリムト帝国軍の最後方部隊に数十メートルまで接近した頃、ケインが大きく息を吸い込む。

「突撃ぃ!」

 ケインから号令が下る。

 大樹の森国軍がクリムト帝国軍第二師団の背後を急襲。

 大樹の森国軍は、八咫烏(やたがらす)の超高空からの先行調査により、クリムト帝国軍とゴドー王国軍の部隊の展開を把握しております。

 その場に最初に登場したのはエルフ隊。

 続くのは河童隊と戦車隊。

 これから、大樹の森国軍とクリムト帝国軍第二師団が激突します。


 さて、次話は、少しだけ時間を遡り、この二面作戦の編成のお話になります。

 お楽しみに。

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