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第290話 邪眼のからくり

 突然に現れた次郎。サトリも一緒のようだ。

 これから、次郎が邪眼の謎に踏み込む。

ーーー 三人称です ーーー


 ケイン達の下に次郎がサトリを伴って転移によって現れた。


「……で、ナーガが邪眼を使えると。

それで、ケインが邪眼を浴びてみた訳だ」

 ケインの未知の現象を自ら体験して検証する姿は、次郎のそれと近い思考かもしれない。

「ええ。

なんとなくですが、伝え聞いてた呪いと違うような気がして……。

どこがどうとかは説明出来ませんが」

 ケインは答えながらも、やや歯切れの悪い言い方になってしまっている。

「ふーん。

それで、キキの見解は?」

 キキは腕を組んで押し黙ったままだ。

「良いから、思ったことを口にしてくれれば良いよ。

ここにはサトリも居るから」

 キキは、次郎の顔を見つめながら、背木を伐ったように一気に話し始める。

「キキキ、キュオキキ。キュオキュオ、キキュオ。キキキ……」

(私が思うに、蛇人間(ラミア)の邪眼とは呪いを付与するものとは違うように思えた。

ケインが味わったのは、気分が悪くなり、平衡感覚が崩れたこと。そして、発熱と悪寒が交互に襲ったこと。

あとは、思考が纏まらなかったこと。

確かに、言葉を並べてみると、呪いの症状とも見受けられるが……)

「キキの診断はそれと異なる訳だ」

「キュオ」

(そうだ)

「では、キキの診断を聞かせてもらおう」

「キッキ、キュオオ。

キュオキュオ、キキキ。キュオ、キキュオ、キュオオキュオン……」

(私見で良ければ。

ケインの所感はさておき、実際に彼の身体で起こった症状だが……。

まず、細胞の分裂が停止していた。活動が停止した訳ではない。呼吸はしていたし、血流も流れていただろう)

「それって、テロメアが減少した訳ではないのか?」

「キュキュ……キュオン。

キュオ、キキュオキキ、キュオオ……」

(それは……違うと思う。

今は正常に戻っているし、寿命も縮まっていないと思う。

大変だったんだぞ。細胞一つ一つに人工呼吸するような手間だったのだから。

エリシャンテの治癒術と回復スライムのおかげで患者の気力も意識も保っていられたからな)

「それは凄いな。

キキが居てくれて本当に良かったよ。

……ああ、これを説明出来なくて困ってたんだね」

「キュオ」


「なんか、鈴木次郎様とキキ様の会話が一気に難しいものになってる」

「神格を持った者同士の会話だから、私達では理解不能よ」

 徹夜(てつや)と夜露(よつゆ)の姉弟がこそこそと囁きあっている。


(邪眼ねえ……。

その効果は呪いと似た現象を起こす、か。

キキが詳しく説明をしてくれたが、ここに居る者達に果たして理解出来るものかどうか……。

それに、本来の呪いってこう、もっとおどろおどろしいものだと思うんだけど。人の怨み辛みが折り重なったような。

……あれ?

人の……と言うか、生物の細胞が呪詛を受信すると呪いが発現するのか?

いや、待て。

土地も呪われるって聞くな。

生物無生物関係なく影響されるのが呪い?

じゃあ、呪いは分子や原子に作用するもの?

そして、それとは違うナーガの邪眼は生物の細胞に影響を及ぼす?

ケインとナーガは非接触状態だったらしいから、邪眼は思念波を飛ばすのか?

…………。

わからないことが多すぎるな。

これはキキが困るのもよくわかるな)

 長々と思考していた次郎が動き出す。


「とりあえず、わかったことだけ伝える」

 次郎が皆の方を振り返って話し始める。

「まず、邪眼だが、その効果とは呪いを与えるものとは違う。

ただし、生物全てに影響を与えるものだ。

その効果は、あらゆる生物の成長や回復を阻害するものなんだ。邪眼を浴びた者はいずれ死に至る。

だから、仮に邪眼を浴びてしまった者が居たら、すぐにキキもしくはエリシャンテに報告すること」

 次郎が蛇人間(ラミア)達を中心に話していく。

「また、邪眼は、おそらく対象者を見つめなくとも発動すると思われる。

その辺は……ナーガ、どうだ?」

「はっ……いつもは邪眼を使う時、対象とするものを見つめておりましたので、なんとも言えません」

「ふむ。

また個別で検証してくれ」

「はっ」

 頭を下げるナーガ。


「また、呪いと言うのは、生物に限らず、あらゆるもの、万物に影響を与えることを言う。

だから、特定の場所に行くと『何かおかしい』と感じる場合は、その場所から退避するのが望ましい」

 次郎自身も『我ながら説明が下手くそだなぁ』と考えながらも説明していく。

「なので、邪眼は忌み嫌うものでもなんでもない。

むしろ、君たち蛇人間(ラミア)達のみに使える強力な武器と思えば良い」

「「「おおっ♪」」」

 蛇人間(ラミア)達が嬉しげな歓声を上げる。

「ただし、仲間内では絶対に使うなよ。

使うと非常に疲れるって言うから、あまり発動することも無いんだろうけど」

「使いません」「そもそも凄く疲れるし……」「狩りでも、よほどの大物を弱らせるのに使う程度ですし……」

 蛇人間(ラミア)達が一斉に口を開く。

「なるほど。

狩りには有効なんだね」

 狩りで獲物を弱らせるのに毒を使う方法もあるが、邪眼なら狩った獲物の解毒も必要なく、安全に口に出来るだろう。


(邪眼には魔力以外の精神力を消費するのかな?

僕が表示出来るステータスにSPって項目があったよな。たぶん、それを消費する感じかな)

『次郎様。

もうその辺で宜しいのでは?』

 また思考の渦に沈みそうな次郎をサトリが引き揚げる。

「はっ…………。

そうだね。まだ執務室でやらなきゃいけないことが山積みだったぁ」

 サトリに促され、正気に戻った次郎が皆に告げる。

「じゃあ、僕はこれで引き揚げるね。

ケイン。

蛇人間(ラミア)達のこと。宜しく頼むよ」

「はっ。

しっかり訓練していきます」

 ザザザッ。

 皆が一斉に次郎に頭(こうべ)を垂れる。

 次郎とサトリは、転移でその場から消えていった。


「盟主様の登場で思わぬ展開になったなぁ」

「ケイン。

その邪眼の訓練をするの?

蛇人間(ラミア)達自身が使うのを憚らないかしら?」

 夜露(よつゆ)がケインに話し掛ける。

「ええと、最終的にはそれに繋がるとは思うんですが、邪眼うんぬんよりも先にやることがあります」

「何をするんだ?」

 徹夜(てつや)も入ってくる。

「身体強化ですよ。魔力を使わない、ね」

「ああ、それは良いな。

体力向上は、訓練の基本と言って良いものな」

 徹夜(てつや)も素直に感心している。

「んじゃ、早速取り掛かりますか」

 ケインは、二人から離れ、蛇人間(ラミア)達の方へと歩み寄っていく。


「はぁー……」

「どうしたの、姉さん?」

「ケインは、『最終的に邪眼の訓練に繋がる』って言ったのよ。

単なる肉体強化とは思えないわ」

「ん~……。邪眼には精神力が必要なんだよね?

精神力を鍛える為に肉体を強化……?

あ、そういうことか!?」

「そうよ。

せっかくだから、私達も見学していきましょう。

異世界のテイマーが施す訓練とやらを」


 夜露(よつゆ)と徹夜(てつや)の姉弟が、ケインが蛇人間(ラミア)達に施す訓練をしばらく見学していたが、徹夜(てつや)が一言呟く。

「鬼か悪魔か!?」


 蛇人間(ラミア)達の訓練にあたり、ケインはラプトル達を呼び出した。

「クルルッ」「クオックオッ」「クルルルル」

「今度は地竜よ」「でも、あの地竜よりは小さいわ」「バカ言わないでよ。私達よりも小さいってだけで立派な竜なのよ」

 ケインの指笛により呼び出されたラプトルたちが、蛇人間(ラミア)達の前に整列していく。

 このラプトル達はデイノニクスの仲間と思われ、全長が3.5メートルに達し、体高も2メートルを超える。

 全長は、蛇体を含めた蛇人間(ラミア)に劣るが、体高は彼女達を超え、その顎は人の頭を一呑みするほど大きい。

「彼らはラプトル。

彼らも大樹の森の都の住民だ。

仲良くしてやってくれ」

 ケインがラプトル達を紹介していく。

「今から彼らが君たちを追いかける。

捕まらないように逃げてくれ」

「「「え!?」」」

「彼らに捕まると噛みつかれるから十分に気をつけてくれたまえ」

 ラプトル達はわざと口を開け、鋭い牙が並んだ歯並びを見せる。

「安心したまえ。

知っての通り、ここには優秀な治療師が揃ってる」

 ケインがニヤリと口角を上げる。


「これは……他の者達も呼んだ方が良いのかしらぁ?」

 ケインの発言に呆れながらも、エリシャンテの問いにキキは頷くしかなかった。

 次郎は、邪眼を表面的に解説することに留めました。

 結局、邪眼を理解したのは、次郎とキキのみ。これは致し方ないですよね。

 それにしても、ケインって鬼教官だったんですね。本人は自覚ありませんが。


 さて、次話は、次郎とリントが厨房に忍び込みます。そう、いつものアレです。

 お楽しみに。

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