第288話 模擬戦の反省会
模擬戦を終え、ボロボロの樹海の族長の三人。
ケインが口を開く。
ーーー 三人称です ーーー
模擬戦を終えたケイン達。
「はい、はーい。
三人の族長達は診療所へ行って、治療してもらってくださいね。
その後、この場で反省会です」
ケインがパンパンとかしわ手を打ち、とりあえず三人を軍事演習場に併設された診療所へ向かわせる。
「いえ、大丈夫です!」
「ナーガさん。
あんた、ティラノの巨体に乗っかられたんだから、素直に治療受けなさい。
その前の衝撃波で倒れ込んでる時に、打ち身をしてるはずだから」
「ナーガ、良いから来るんだ」
鳥人のブランが蛇人間の腕を掴んで連れていく。
族長の三人全員、肩を落として診療所に向かった。
「優しいのね」
「甘いとお思いですか?
……確かに、多少甘いのは自覚してますよ。
でもね、健全な精神は健全なる身体にこそ、宿ると思うんですよ」
絡新婦の夜露に言葉を返すケイン。
「それに、優しさで言ったら、盟主様の右に出る者は居ませんよ。
ただし、一番恐ろしいお人でもありますけどね」
「うふふ。鈴木次郎様は切り替えが出来る方なのよ」
「玄武に対しても消滅させるおつもりだったしな。
その時の横顔を見てしまったが、さすがのボクも背筋が凍ったよ」
玄武と対戦した時の次郎は無表情だったのだが、妖にはそれが返って恐ろしく感じたのであろう。淡々と作業しているかのように思えて。
しばらくして樹海の三族長達が戻ってきた。
「ただいま、治療を終えて戻って参りました」
代表でブランがケインに報告する。
「お帰り。
では、総評を述べるね。
まず、ブランさん。
貴方は制空権を獲ろうと真っ先に空中へ飛び上がったね。
これは正しい判断だ。
それに、ナーガさんとフラウローネさんも視界に入れるべく、舞い上がりながらやや後方に位置した。とても良い。
空に舞い上がることが出来る者が視界を広く取ることは、団体戦では重要だ。
だが、フライとの交戦中、二人から目を切ったね」
「そ、それはフライ殿が思った以上に難敵だったので仕方なく……」
「それでヒメが空中に移動した事実を見逃した」
「うっ」
「蜘蛛類はね、たいてい目が悪い。
でも、中には逆に物凄く目が良い種が居る」
通常の蜘蛛は、せいぜい明暗がわかる程度の視力しか持っていない。目が悪いのだ。だから、代わりにわずかな振動を感知出来る能力を持っている。
逆に目が大変良い蜘蛛も居る。身近な存在としてハエトリグモがその例だ。家の中でピョンピョン跳ねている小さな蜘蛛が居たら、それはたいていハエトリグモだ。
ハエトリグモの視界は約300度もあり、複眼のピンボケ具合で獲物までの距離も正確に測れると言う。
ヒメは、飛行中のブランの目線を正確に捉え、自分がブランの視界から外れた瞬間を狙って移動していたのだ。
「三人で連携を取る場合は、ブランさんの役目は重要だ。
視野を広く取り、仲間と敵の動向を的確に把握しておかなければならない。
必要なら、仲間のピンチにいち早く駆けつけなけれならない。
だが、今のスピードではまだ不安がある。
どうだろう?
一度、ここを離れて、テングの下で修行されては?
彼らの中には音速を突き破る者達も居る。
その壁を突き破ることが出来たら、連携の修練に入ると言うのは?」
「ご指摘、ありがたく。
早速、カラステング様のところへ参ります」
ブランは、ケインに一礼すると、ナーガとフラウローネをしばらく見つめると、「行ってくる」と一言述べ、その場を去っていった。
(姉さん、音速を突き破れってかなり過酷なんじゃ……)
(甘いという発言と矛盾してるわね。私の認識の方が甘かったわ)
姉弟はこそこそと囁き合っていた。
「フラウローネさん」
「ひゃ、ひゃい!」
「貴女の脚力は素晴らしい。
瞬発力もあるし、何度かティラノの頭上も跳び跳ねていたね。
何メートルくらい跳べる?」
「測ったことはないけど、20メートルくらいは跳べると思うわ。
今からやってみようか?」
「うん、頼む」
それを聞いて、フラウローネが姿勢を取る。
身体全体がやや沈んだ、と思った瞬間にフラウローネが宙を舞う。
ザッ。
ドン。
「なるほど。確かに20メートル近くは行ってたね」
ケインはそう答えながら、フラウローネの着地点をしげしげと見ていた。
「これくらいは出来て当然よ」
「そっか……。
ヨツユ様、貴女は?」
ケインが突然に夜露の方へ話し掛ける。
「え? 私?
私は飛翔することが出来るけど、跳ねる高さってことよね?」
「ええ、それでお願いします」
「私も測ったことないから、今から実践してあげるわ」
「あ、それならば、本来のお姿でお願いしたい」
「ええ、いいわ」
そう返事をすると、夜露は絡新婦の姿へと変化する。
「「「ほおぉぉ~」」」
そこに居る全員から感嘆の声が漏れる。
上半身は人のまま、下半身が蜘蛛の妖怪絡新婦本来の姿だ。
そして、それが誰よりも妖しく美しい。
「じゃ、いくわね」
バッ。
一言告げた夜露が空高く舞い上がる。
いや、ただ跳ねただけ。
だが、地上から見上げる者達からすると、"跳ねた"のではなく、"飛んだ"ようにしか見えなかった。
そして、滞空時間も長い。
ドンッ。
夜露は、出発地点から寸分の違いもなく、同じ位置に着地した。
「どう?」
「いや、もう少しで見失うところでした。
ありがとうございます。
さすがですね、ヨツユ様。
……100メートルは行っていましたね」
日本の高層ビル30階に相当する高さだ。
「ヨツユ様とフラウローネさんを単純に比較する訳にはいかないけど、フラウローネさんの脚力は凄いレベルだと思う。
体格からしてせいぜい10メートル跳ねれば良いもんだと思ってた。
ただ、姿勢がね……」
ケインは腕を組んでしばらく考え込んでいる。
「ヨツユ様。
これは貴女にお願いしたい。
フラウローネさんの到達点を25メートルに設定して訓練して欲しいです。
その後に連携の訓練に入りましょう」
ケインはそう述べた後、夜露と徹夜と共に訓練方針を定めていく。
「まあ、元々蜘蛛人間の連中の訓練をするつもりだったから構わないけど、要は瞬発力の強化ってことね」
「ええ。
持久力の方は、訓練を連続で続ければ自然と高まっていくでしょう」
「連続って……。
瞬発力は全身の筋力を一気に解放するから、かなり疲れるんだぞ」
「鬼ね」
「いやぁ、それほどでも」
「「褒めてない!」」
ケインにとっては、妖の鬼と例えられることは誉れと捉えたようだ。
「最後にナーガさん。
貴女は全身がしなやかで、ある程度は筋力もある。
ただ、もう少し重くならないかな?」
「乙女になんて仰りようをするのですか!?」
「ひどい!」「ちょっとイイオトコって思ってたのに、幻滅ぅ」
ナーガを始め蛇人間達と蜘蛛人間達が一斉に憤慨している。
「はぁ~。
女の子に向かってそれはないわ」
「デリカシーが無いね」
夜露と徹夜が揃って額に手を宛て、頭を振っている。
「ハハハ、この口調は生まれつきなもんで、直せません。
ところで、貴女は何か得意な魔法とかスキルとかあったりしませんか?」
「魔力は身体強化に注ぎ込んでいるから、魔法攻撃と言うことなら、あまり得意じゃありません。
…………スキルは、一応、種族特性として持ってるけど、凄く疲れるから、めったに使いませんね」
「ほう? 種族特性のスキルね」
「知りたい?」
「出来れば教えて頂けると、訓練方針の参考になるかと」
「…………」
ナーガは少し考え込んでいたが、意を決した顔でケインを見つめた。
「邪眼よ」
この異世界には、邪眼と呼ばれるスキルが存在するが、使い手はごく限られた者しか居ないと言う。
また、その効果は、呪いの類いと認識されている。
「邪眼。
良いですね。めったに見られない代物だ。
それを私に掛けてみてください」
「「「え!?」」」
ケインがなんとも恐ろしいことを言うものだから、ギャラリー全員が驚く。けろっとしているのは、夜露と徹夜、そして張本人のケインだ。
「ちょ、ちょっと。
邪眼なのよ、邪眼。
この世界の住民なのに知らないの?
呪いを受けるわよ」
ナーガがやや慌て気味に言う。
「噂は伝え聞いてますが、レアなスキルですからね。
呪いの効果も知りたいですし」
「ふーん。呪うことが出来るのね」
「はい。
ですが、魔力とは別の何か……精神力みたいなものを使うので、使った後はフラフラになってしまいます」
夜露の発言に答えるナーガ。
「ま、こっちも準備はします」
ケインはそう言うと、また指笛を鳴らす。
ピピピ、ピーピーピー、ピピピ。
ピピピ、ピーピーピー、ピピピ。
一定のリズムが刻まれる。
タッタッタッタタッ。
さほど待つこともなく、回復スライムを乗せた鎌鼬が現れる。その鎌鼬のサイズが二回りほど大きいのが気になるところだが……。
「あ、あれ?
なんでキキ様が来るの?」
その鎌鼬がキキであることに大いに驚くケイン。
「待ってぇ~。
ちょっと待ってくださいよぉ~」
やや遅れて、別の鎌鼬に乗ったエリシャンテも現れた。
「もぉ~。
キキ副院長ったら、速すぎですぅ!」
鎌鼬から降りたエリシャンテは、キキに迫る。
「キュオォォ。キュキュオン……」
「すまんすまんじゃありません。
ついてこいって一言だけで説明無しで。それで置いてけぼりですもの。ひどいですぅ」
エリシャンテは、キキに御冠のようだ。それに対し、キキは謝り続けている様子。
「あの娘、キキ様と会話が出来るのか!?」
「その特異能力で、あの娘の方が病院ではキキ様よりも上役になっているのね」
徹夜と夜露の会話だ。
「お疲れ様です。キキ様、エリシャンテさん。
でも、俺、鎌鼬を呼んだはずなんですが……」
ケインが二人に挨拶を交わす。
「キュキュオ。キュオン、キュキュ、キュオ」
(樹海の族長達が担ぎ込まれたじゃないか。
これは何かあると思ったのさ)
「いやぁ、ちょっと検証したいことがありまして。
今から呪いを受けるんで、その解呪をお願いしたいんですよ」
「キュオ?」「呪いですか!?」
「ケイン、あいつもキキ様の言葉がわかるのか!?」
「落ち着いて考えてみれば、なるほど、そうかも?って思えるけど。
鈴木次郎様だって、たまにしか会話出来ないのに。原住民の二人が揃って出来るとは。
異世界、侮りがたし、ね」
姉弟揃って感嘆している。
ケインは甘いようで、結構厳しい指導者のようです。
でも、能力を把握する為に自ら邪眼を浴びるって、思いきったことをしますね。
それだけ医療班を信頼しているんでしょうが。
さて、次話は、邪眼の秘密に迫ります。
お楽しみに。




