第287話 異世界のテイマー
畜舎勤め兼軍人のケインを呼び出した絡新婦の姉弟。
ーーー 三人称です ーーー
大樹の森の都、北地区にある軍事演習場。
普段、職業軍人達が演習する場であるのだが、狩人や臨時兵達が訓練したりもする。
「と言うことで、ケイン、頼むわね」
「そう言われても、俺は竜隊や戦車隊の隊長なんですが……」
絡新婦の夜露がケインに迫る。
「姉さん、近い、近いよ!
もっと離れて」
弟の大蜘蛛の徹夜が二人を引き剥がす。そして、ケインにだけ聞こえるように耳打ちする。
「変な気は起こすなよ。
もしも姉さんに不用意に近づいたら容赦はしないぞ」
「いやぁ、ヨツユ様ほど綺麗なお人に近寄られたら、男なら普通に惑わされますよ」
「なにぃ、貴様ぁ!」
「ヨツユ様から近寄って来る時は不可抗力ってやつですね」
ケインは意外と太い神経を持っているようだ。
「いやぁね。男二人でこそこそと」
「いや、これは……」
「で、結局のところ、俺に蛇人間達の訓練をして欲しいと」
「そうよ。
貴方なら出来るでしょ?」
「まあ、長所を伸ばすのが良いのか、短所を潰していくのが良いのか、見てみないことにはなんとも言えませんがね」
「結構よ。
貴方の眼鏡に適わないのなら、あの娘達がそれまでの存在だったと言うことよ」
夜露とケインは、徹夜を放っておいて話を進める。
「はぁ~……。
これも大樹の森国、延いては大恩ある盟主様の為になるのなら、喜んで引き受けましょう」
「そうそう、その粋よ」
ニッコリと微笑む夜露を眩しそうに眺めるケイン。
夜露は、樹海の元住民の内、蛇人間族の訓練をケインに依頼したのだった。
残りの鳥人族は天狗が、そして蜘蛛人間族は夜露達が訓練の面倒をみる役割分担となる。
「……んで、それぞれの族長達がここに居るのは何故?」
ケインの前に、鳥人のブラン、蛇人間のナーガ、蜘蛛人間のフラウローネが立ち並んでいた。
「この三人と一緒に湖東調査に行ったんだけれど、連携で戦闘が出来るのよ。
なかなかだったわ。
それをさらに磨いて欲しいの」
「「「よろしくお願いします!」」」
ブラン、ナーガ、フラウローネの三人がケインに頭を下げてくる。
彼らの脳裏には、大妖の玄武にこてんぱんにされた記憶がこびりついていた。
「ふーん。連携ねぇ。
ま、一度どんなもんか見せてもらいましょうか」
「模擬戦でもする?」
夜露がケインに問いただす。
「ええ。
今からやってもらいましょう。
……それで、魔蜘蛛の最初のボス、ヒメをここに呼んでも良いですか?」
「姫?…………ああ、最初のボスの子よね。良いわ。
徹夜、あの子を連れて来なさい」
「はい、姉さん」
「あ、それには及びません。
ヒメ自身に来てもらいましょう」
「「へ?」」
二人揃って首を傾げる様は、姉弟らしくそっくりだ。
そして、ケインは指を咥える。
ピューイ、ピ~~~。
ケインの指笛は、高く低く鳴り響いた。
…………ザ…………ザザッ…………ザザザザザザッ。
しばらくすると、南の方から何者かが駆け寄って来る。
そして、数十メートル手前の位置で高く跳び上がる。その高さは10階建ビルに匹敵する。メートル法に換算すると30メートル近くにもなる。
ドンッ。
そして、ケインの前に着地すると、八つ脚を綺麗に畳み、腹部を地面に付ける。
魔蜘蛛の平伏の姿だ。
「いつの間に、こんなことを……?」
「さすがは異世界のテイマーだ」
いつも魔蜘蛛の面倒を見ている姉弟も驚きを隠せない。
蜘蛛類は耳を持ってはいないが、実は優れた聴覚がある。身体の様々な箇所に聴覚器官があり、全身で空気の振動すら捉えていると言う。
「ヒメ。ご苦労さん。
ちょっと待っててな」
「シャーァァ」
蜘蛛は発声器官が無いが、前肢を擦り合わせて音を出せるので、このヒメはそれを返事代わりにしているようだ。
「あの子ったら、あんなに喜んで。
私達にも見せない態度よね」
「立つ瀬が無いよね」
絡新婦としては、少し悔しいらしい。
「んじゃ、一気に行こうか」
ケインが再び指笛を鳴らす。
ピッピーー、ピーッ。
ピュオォォ、ピュォ、ピュォー。
遠くから地響きが聞こえるが、それより先に空から舞い降りる者が居た。
「クルルゥオッ、クォ」
四枚羽のラプトルのフライングラプトルだ。
「フライ、さすがに早いな」
フライは、ケインに甘え、頭を擦り付けている。
「ひ、飛竜!」「本当にここで飛竜を飼ってるんだ」
ここには当然、蛇人間達も居る。
ドス、ドス、ドス、ドスンッ。
「グアァオォゥンッ」
やがて、巨大な竜が地響きと共に現れる。
その狂暴な顔つきは、最強の恐竜と言われたティラノサウルス。次郎達からティラノの愛称で呼ばれている。
「今度は地竜!?」「しかも物凄く大きいわ」「ま、丸呑みされそう」
ギャラリー達が騒然となる。
だが、ある光景を目にして、そのざわめきも治まっていった。
「クルル」「グオン、グルゥ」
二頭の竜がケインに頭を擦り付け、甘えた声で懐いているのだ。
「これよ。
これがケインを指導者に選ぶ理由よ」
「いつ見ても壮観だなぁ。流石としか言い様が無い」
先ほどまで歪み合ってた徹夜ですら、感心している。
「さて、族長の三人は、今からこの子達と模擬戦をやってもらう。
俺は指示出しするけど参戦はしない。
だから、3対3のチーム戦だ」
樹海の三人組の喉がゴクリと鳴る。
「ちょ、ちょっと待って。
その子……ヒメは誰とも組んだことが無いわ。
それをいきなりチーム戦だなんて」
夜露がケインを呼び止める。
「大丈夫ですよ。
この子達はみんな素直ですから。
人間の方が自己意識が強すぎて、返って上手く動けなかったりしますね」
絡新婦の姉弟は、『そういうものなのか?』と訝しげに首を捻りながらも、素直に聞いている。
「では、両者は前へ」
ケインがお互いに相対する位置へ向かわせた。
お互いの距離は約10メートルほど。
「お互いに礼!」
樹海の三者が礼をするのはわかるが、進化した魔獣達もきっちり頭を下げるではないか。
ギャラリー達から感嘆の声が漏れる。
「始め!」
開始の号令が下った。
鳥人のブランとフライが同時に空へ舞い上がる。
また同時に、蛇人間のナーガと蜘蛛人間のフラウローネが猛然とダッシュする。
一方、ティラノと魔蜘蛛のヒメは、待ち受けるようだ。
「グオオオォォンッ」
両者の距離が半分に縮まった時、ティラノが声高に鳴いた。
ビリビリッ。
ナーガとフラウローネの二人の身体が小刻みに揺れる。
「何かあるとは思ってたけど、こういうことね」
「ナーガ、これならまだイケルよ」
彼女達は、初見の相手と対する対処法として、身体の周りに結界を張っていたのだ。
ティラノの衝撃波攻撃は、必殺の初見殺しなのだ。たいていの相手は、これで動きを封じられてしまう。
そして、ナーガがティラノの2メートル手前で蛇体で身体を持ち上げ、ティラノの顔へ槍で突く。
槍突きを二撃三撃と連続で行うが、それをティラノは最低限の首振りで躱していく。時折、衝撃波も加えることにより、ナーガの攻撃も途切れガチになってしまう。
そして、ヒメに向かったフラウローネは…………。
「居ない!
魔蜘蛛が居なくなった!」
ヒメを見失っていた。
その頃、上空に舞い上がったブランは、フライと交戦中。
お互いが高速ですれ違っていく。それが何度も行われていた。
ブランは槍で、フライは自らの爪で攻撃し合っている。
キン、キン、カァン。
シュルシュル、バシッ。
「何っ!」
ブランがバランスを崩して落下していく。
よく見れば、ブランの片翼に白いものが付着していた。
「く、蜘蛛の糸か!?」
それは、魔蜘蛛のヒメから発射された蜘蛛の糸であった。
そのヒメは空中に舞っていたのだ。
いや、注意深く見直せば、ブランとは別方向に一本の糸が伸びている。その到達点にフライが居た。
「飛竜を使って飛んで来たのか!?
蜘蛛のクセに知恵が回る」
ブランも途中で体勢を立て直し、落下を食い止める。
再び空へ上昇しながらナイフを取り出し、絡み付く蜘蛛の糸を切断していく。
ブチブチ、ブツン。
「フラウローネのような頑丈な糸でなくて助かった」
蜘蛛人間は様々な糸を繰り出すが、中には頑丈さがウリの糸もあり、それでオーガですら身動き出来ずに封じ込めるものがあるのだ。
「2対1は不利だな。
しかも、相手は大樹の森の魔獣。
どうしたものか……?」
ブランは体勢を立て直しながら、視野を広げ、横目でナーガとフラウローネの様子を伺う。
ナーガとフラウローネは、ティラノに掛かりっきりで攻めあぐねているようだ。
「コイツ、大きいクセに素早い!」
「あんなに巨大なのに、動きが細かく速い!」
フラウローネが何度目かの粘着糸を発射しているが、ティラノをまともに捉え切れていない。
ティラノの強靭な後ろ脚に加え、巨大な尾を地面に打ち付けて跳ねながら、フラウローネの糸を避けていく。
「ああ!
う、動けない!」
突如、フラウローネが縛り上げられていた。
ヒメの糸だ。
フライにぶら下がっていたはずのヒメが、いつの間にかティラノの傍らに居た。
そのティラノの首筋辺りにキラリと光るものが。
ヒメは、ティラノにも糸を伸ばしており、フライとティラノの間を自由に行き来出来るようにしていたのだ。
「フラウローネ!」
ナーガが助けに向かうが、ティラノに背を向けてしまう。
「グアァァンッ」
ドスンッ。
背後にティラノの衝撃波をまともに喰らってしまい、蛇体を伸ばした状態で倒れ伏してしまうナーガ。そのまま、ティラノの強靭な後ろ脚に踏まれて身動き出来ない。
「あぐっ。お、重い」
「はい、それまで~」
ケインの号令が終わりを告げた。
「まだこれからでしょ!」
「私もまだイケルわ!」
地に伏せているナーガとフラウローネの言葉は威勢が良いが、誰が見ても圧倒的不利な状況である。
「二人とも、素直に負けを認めよう。
この状況を一気に覆す方法が見当たらない」
ブランが地上に舞い降り、負けを宣言した。
「「くっ……」」
ナーガとフラウローネも悔しそうに項垂れる。
~~~ 余談 ~~~
「あの子達、かなり手加減してたわね」
「うん。
ヒメは糸を一種類しか使わなかった。しかも解けやすい種類に限定してたね」
姉弟がこそこそと囁き合っている。
「フライなんか、火炎を封じてたものね」
「火の鳥攻撃は、訓練ではさすがにヤバいか」
「何て言ったって、ティラノよね」
「あの噛みつきは使っちゃダメでしょ。
魔熊ですら一噛みで食い千切ってしまうから」
「うーん。
あの三人なら、もう少しヤれると思ったんだけどなぁ」
「いや、相手が悪すぎでしょ。
大樹の加護付き同士の連携相手に、異世界のテイマーがついてるのだもの」
大樹の森の都の住民である魔獣達は一味違う!
実は、模擬戦中はケインは一切指示を出していません。全て、ヒメやフライ、ティラノの自己判断です。
ケインがしたのは、最初に「連携で行け」とだけ伝えたのみ。
あと、「手加減してやれ」とも。
これが大樹の森クオリティなんですね。
さて、次話は、この続きです。
お楽しみに。




