↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

287/319

第286話 飯屋とパン屋と甘味処

 今日の大樹の森の都は平和が訪れている。

 そして、西地区のアーケード商店街は今日も賑わっているようだ。

ーーー 西地区へ引っ越した男の視点 ーーー


 今日は公休日だ。

 よって、いつもの如く、アーケード商店街でランチさ。


 今日は休日なので、ランチタイムの混雑を避け、昼前に入店して食べ終わったところ。

 いやぁ、しょうが焼き定食は良かった。

 豚のロース肉を使っているはずが生姜でさっぱり食べられるんだものな。

 また、ソースが絶妙なんだ。甘辛に仕上げられてて、白ごはんが進む進む。当然、ごはんのお代わりをしたぜ。満足満足。


 ガラガラ。

「「「ありがとうございました♪」」」

 店員達の明るい声に押されて退店すると、そこに見慣れた人がアーケード商店街を歩いてた。

「あれ? ソフィア嬢じゃないか」

「あら? これはエフェクト参与。ごきげんよう」

 丁寧なお辞儀と共に挨拶をしてくれるソフィア嬢。さすがは元伯爵令嬢。様に成ってる。

「エフェクト参与もランチですか?」

「ああ、今ちょうど終わって出てきたところさ」

「ポーラ。

この方は行政庁のお偉方、カイ・エフェクト参与よ。

ご挨拶なさい」

「はい、お姉様。

ただいまご紹介に預かりましたポーラ・ピース・レイヤーでございます。以後、お見知りおきくださいませ、エフェクト様」

 ソフィア嬢の傍らに居た少女が見事なカーテシー(貴族令嬢のお辞儀)を披露してくれた。

「ピース・レイヤー家と言うと……」

「ええ、私(わたくし)の妹でございますわ」

「道理でよく似ていらっしゃる」

「まあ……」

 恥ずかしそうに頬を両手で押さえて悶えている姿も初々しい。

 ポーラ嬢は未成年なのだろう。

 ソフィア嬢は行政庁内でも有名な美女だが、ポーラ嬢も美少女だ。あと数年もすれば姉と肩を並べるくらいの美人になるだろう。


「ソフィア嬢達はこれから?」

「はい。

食材をいろいろ購入して行こうかと」

 ふむ。ここは八百屋から精肉店、鮮魚店が揃っているからな。

「料理出来る人が羨ましいよ。

俺は専ら、ここに食べに来るか、出前だからな」

「まあ。

それではお身体に良くありませんわ。

お料理もバランス良く摂らないと」

 いや、まあ、そうなんだけれどもなぁ。

「一軒家をご購入されたと伺っております。

それならば、メイドや家政婦などを雇えば宜しいのに」

 よく知ってるな。家を買ったなんて、職場で誰にも話したことないのに。

 ソフィア嬢の凄いのは、こういうところなんだ。一見、無価値と思える情報をストックして、他の情報とリンクさせるんだよな。

 そして、それがいつも真実に近い。

 行政庁職員として非常に高い分析力を持ってるんだ。

「いやぁ、料理がアーケード商店街(ここ)の味と比較してしまう気がしてさ。どうにも踏み切れないんだ」

「うふふ。

エフェクト参与は美食家ですからね」

「ソフィア嬢ほどじゃないさ」

「それでは、お買い物をしなければならないのでこれで失礼しますわ。

ごきげんよう」

 去り際も艶やか。姉妹揃ってお辞儀をしたかと思うと、颯爽と歩き出す。貴族令嬢の見本みたいな姉妹だな。


 さあて、俺はどうしようかな?

 酒屋に寄って、酒とつまみになる物でも買って帰るか。

 あ、朝飯のパンも買わなきゃ。

 最近発売されたパンが旨いんだ。惣菜パンと言うジャンルらしい。

 パンの中や上に色々な具があって、バリエーションが豊富。その全てが白パンと来た。ここ大樹の森の都では、貴族でもないのに白パンが食べられる。価格も庶民的だ。

 店主はやっぱりニホンジン。

 盟主様達ニホンジンの文化は、我々より数段優れている。

 ドワーフ達に言わせれば科学技術が、軍人達に言わせれば戦闘能力が、我々の常軌を逸してると言っているが、俺から言わせてもらえれば食文化の豊富さの方が凄いよ。

 未だに未知の美食がどんどん出てくるものな。


 よし、目当てのパン屋に着いた。

 ガヤガヤ。

 ああ、やっぱり混んでるな。

 仕方ないな。ここのパンは旨いからな。

 奥にイートインコーナーがあるが、そっちはほぼ満席のようだ。

 早速トレーとトングを掴んでパンの陳列棚に向かう。こっちも客が多い。

 が、導線が上手く作られてるからか、流れはスムーズだ。

 ただし、狙いを定めておかないと、流れに押されて取り逃がしてしまうのが昼時の難点だな。

 しかも、酒と肴を買った袋を持参しているので、ちょっと不利な状況でもある。

 よし、ツナマヨパン、ゲットー!

 コイツははずせない。

 あとは…………あ、あった。塩パン。

 コレは何か具が入ってる訳でもないが、口に入れた瞬間、小麦とバターの香りがフワッと鼻腔をくすぐりつつ、絶妙な塩加減が堪らないんだ。

 塩パンにトングを伸ばす……が、少し届かない状態で他の客達に押されて掴めなかった!

 よく見回すと、俺は主婦層に囲まれていた。

 これが俗に言う「おばちゃんパワー」か。

 主婦層は買い物のプロだ。俺ではとうてい敵うまい。

 ここは大人しく、もう一周するかぁ。

「ほれ、あんた。

塩パン欲しかったんだろ?」

 真後ろに居たおば……ご婦人が塩パンを俺のトレーに入れてくれた。

「あ、良いんですか?」

「良いも何も、あんたどんくさいからね。もっと素早く取らなきゃ、ここで生きてけないよ」

 そうか。ここは主婦達の戦場か。

「ありがとうございます。助かりました」

 歴戦の戦士の言葉だ。素直に聞いておこう。


「「ありがとうございました♪」」

 なんか、どっと疲れたな。

 こういう時は甘い物が欲しくなるな。

 甘いパンも買っておくべきだったか。

かと言って、またあの戦場でもみくちゃにされる勇気は無い。

 いや、甘い物はパン屋だけでもない。

 久しぶりに疾駆(はやがけ)庵にでも行くか。

 あそこにもイートインコーナーがある。最近、増築されて席数も多いしな。

 あそこのソフトクリームは旨かったものな。

 そうだ、そうしよう。


「あら?」

「おや?」

 疾駆(はやがけ)庵の店前で再びソフィア嬢達とばったり会ってしまった。

「エフェクト参与もスイーツ目当てですか?」

「ああ、慣れない買い物でちょっと疲れたから、甘い物でもと……。

妹さん、動かないね」

 ポーラ嬢がスイーツが並んだ食品サンプルのショーケースの前に陣取ってる。いや、目線は激しく動いてるから、硬直してる訳じゃなさそうだ。

「いつもの奥様のハシヒメ様が描かれた絵のメニューも素敵ですが、色鮮やかな食品サンプルの出来が素晴らしく、感動してしまっているようで……」

 いや、わかる。ここのメニューが色鮮やかだからな。俺も惹き付けられてしまう。

「ポーラ、まだ決まらないの?」

「はうぅ……もうちょっと……」

 食品サンプルの出来が良すぎて決められないんだろう。

「ソフィアさん、ポーラさん。

今の季節は春イチゴの出来が良いそうですよ。

イチゴパフェなんて如何だろうか?

よかったら、奢りますよ」

「「イチゴパフェ!?」」

 おやぁ? 悩んでいたポーラ嬢だけでなく、姉のソフィア嬢まで俺の方を振り返って見つめてくる。そうまで美人姉妹に見つめられると、さすがに少し照れ臭い。

「お姉様、お姉様。

新作ですよね?」

「ええ、このパフェシリーズは全て新作ね。

たぶん、果物の収穫期に合わせて色々変化していくのね」

 姉妹の顔がキラキラと輝いている。

「んじゃ、中に入ろうぜ」


「「いらっしゃいませ♪」」

「いらっしゃいませ。

あら?

ソフィアさんとポーラさんにカイさんもご一緒なんて、珍しい組み合わせね」

 タイヨウのハシヒメ様だ。

「またお邪魔致しますわ」「お邪魔致します」

 姉妹は常連客のようだな。

「ハシヒメ様、イチゴパフェを三つお願いします。

ここで食べて行きます」

「かしこまりました。ご案内しますね」

 ハシヒメ様自ら案内してくれる。

 ハシヒメ様は、四人掛けテーブルに案内してくれると、お茶を提供してくれつつ、話し掛けてくれた。

「こちらのパフェにはトッピングサービスがあるの。パフェと一緒に持ってきますね」

 パフェにトッピング? なんだろう?


 さほど待たされることなくイチゴパフェが届けられた。

「こちらもお好みでどうぞ」

 イチゴパフェの隣に小さな容器を二つずつ皆の下にサーブしてくれた。

 これは……。

「お姉様、お姉様。

アンコですよ、アンコ」

「アンコもそうですけれど、隣のチョコソースも嬉しい限りですね」

 元々和菓子屋だからアンコが来るのは見た目でもわかりやすいが、チョコレートのソースもトッピングで出すのか。

 なかなかやるな、店主のハヤテ様も。

「いつまでも眺めてる訳にもいくまい。

さあ、食べようぜ」

「「「いただきます」」」

 俺もそうだが、この姉妹も食前の儀式にきっちりと手を合わせてる。しっかりした姉妹だ。


「はあぁぁ~……」

 姉妹揃って、一口頬張って陶然としている。

 こんな美人な二人のそんな姿に目のやり場に困る。

 イチゴパフェに集中しよう。

 カットされたイチゴを生クリームとアイスクリームごとロングスプーンで掬い、一口。

 うーん。イチゴの甘味と酸味がバランス良く感じられ、生クリームがミルキーさとまろやかさを演出し、アイスクリームが舌を冷たく刺激する。

 これは確かに、天井を仰いでしばらく茫然としてしまいそうだ。

 しかし、スプーンを持つ手が止まらない。

 ん? スプーンの先に違った感触がある。

 容器を持ち上げ、透き通ったガラスを見通すと……ああ、カットされたスポンジケーキが入ってるんだ。

 そのスポンジケーキを掬い出し、頬張ってみる。

 うむ。イチゴと生クリーム、アイスクリームで慣れていた舌に違った感触が味わえ、変化があって大変宜しい。

 その下にまたアイスクリームがあって、そのまた下にフレークが……と、変化が富んで良い仕上がりだ。

 一番下のフレークなんて、アイスクリームが溶け出し、柔らかい部分とまだパリパリの食感が醸し出す絶妙なハーモニー。

 うん?

 思わず一息に食べてしまったようだ。


「アハッ……うふふ。

エフェクト参与ったら」

「お姉様。笑ったら失礼ですよ!」

「ふふ……だってぇ……」

「エフェクト様、エフェクト様。

お鼻の先にクリームが付いてますよ」

 へ?

 鼻先を指でこすってみる。

 あ、指先に生クリームが。

「これは失礼」

 指を舐め、おしぼりで鼻先を拭く。

「うふふ……失礼しました。

こういうエフェクト参与も可愛らしくて良いと思いますわ」

「私もエフェクト様は可愛らしいと思います」

 女性の目線ではそう映るのかぁ? ちょっと恥ずかしいけどな。


「「「ごちそうさまでした」」」

 三人揃って食後の儀式に手を合わせる。

 ふぅ。堪能した。


「それではエフェクト参与。庁舎でまたお会いしましょう。

ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 美しい姉妹は一礼して去っていく。

 うーん。今日も良い休日だった。

 …………。

 今度、パン屋での購入方法は本格的に作戦を立てて挑まないとな。

 今日みたいに優しいおばちゃ……ご婦人が居るとは限らないからな。

 さあて、帰るか。

 家で酒でも舐めながら、のんびり過ごすとしよう。

 あ、しまった。晩飯どうしよう?

 まあ、いっか。

 いつものように出前でも取れば。

 アーケード商店街の飲食店が出前サービスしてくれるとありがたいんだがなぁ。

 ここは忙しすぎて、そこまで出来ないものな。

 帰り道にある定食屋に頼んでいくとしよう。

 スイーツ姉妹と食の探求者がばったり遭遇。

 カイは甘いものもイケルんですね。


 さて、次話は、畜舎勤務兼軍人のケインが登場します。……と言うことは?

 お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。