第285話 姉とお出かけ
アーケード商店街を歩くソフィアとポーラのスイーツ姉妹。
今日は甘味処の疾駆庵ではなく、ランチを召し上がるようです。
ーーー スイーツ嬢の妹の視点です ーーー
今日は、お嬢様……コホン、お姉様の公休日でランチをご一緒させて頂くことになりました。
西地区のアーケード商店街にお出かけです。
お姉様とのお出かけは楽しい。
お姉様はまだお若いのに、いろいろなことをご存知で、私にもいっぱい教えてくれます。
お姉様は行政庁にお勤めでエリートさんなんです。しかも、アルメリア姫様直属でいらっしゃいます。いかに元伯爵令嬢だからと言ってここまでご出世されているのは、お姉様くらいじゃないかしら?
私の自慢のお姉様です。
でも……長年の癖で、ついつい「お嬢様」って呼んでしまうの。だって、生まれた時からずっとそう呼んできたのですもの、仕方ないと思いません?
私は「お嬢様」付きのメイドとして育って来たんですもの。
でも、ここ大樹の森の都に来てから、お姉様から出生の秘密を明かされました。
私は、お姉様の乳母であった母と主の伯爵様との間に出来た庶子。
しかしながら、私もなんとなーく気づいてました。
だって、主である伯爵様はいつも優しく接してくれましたし、お母さんとも距離が非常に近かったんですもの。
これが女の勘ってやつですかね。
お姉様も気づいてたみたい。
そのお姉様が凄いのは、避難民として保護された翌日にはアルメリア姫様やヤクト様と接触して、お仕事をもらって来てました。
私や他の避難民が、保護された安心感と拭えない恐怖が交互に訪れて、落ち着くまでずいぶんと期間が掛かったと言うのに。
本当に尊敬します。
おっと、話が逸れてしまいましたね。
そう、アーケード商店街なんです。
ゲートを潜ってすぐの疾駆庵に目が行ってしまいます。もう習慣です。
だって、私もお姉様も甘いものに目が無いんですもの。
ですが、今日は店前がいつもと違いました。
ガラスのショーケースに甘味そのものが並んでいるのですよ。いつまでも眺めていたくなるではありませんか。
ですが、お姉様からお叱りの声が掛かり、泣く泣く歩を進めることになりました。
今日はお昼ごはんを食べにやって来たのですから、私がいけませんね。
そのまま進み、よく訪れるさぬき屋の前まで来た時、ここにもショーケースが!
お昼ごはんが目的なんですもの、ここはじっくり見ても良いですよね? ね?
「私、おウドンが食べたいですぅ」
お姉様も賛成してくださいましたが、他のおウドン屋さんにしようって。
まだ行ったことの無いおウドン屋さんって、ありましたっけ?
え!? こんな近くに他のおウドン屋さんが?
ああ、ここにも食品サンプルがずらっと並んでいます。
ここはオワリミカワ屋と言って、名物が二つもあるのだそうです。その内、お姉様もまだ食されていないトヨハシカレーうどんに決定しました。
早速、入店致します。
ガラガラ。
「「へい、らっしゃい!」」
威勢の良い声が出迎えてくれます。
「いらっしゃいませ。
2名様ですね。ご案内致します。こちらへどうぞ」
女性店員がお席まで案内してくれます。
お昼前なのに、八割ほど客席が埋まっています。繁盛店なのですね。
席に着いた私達は、メニューを見る前に注文致しました。
「トヨハシカレーうどんをお二つお願い致します」
私が注文します。
「豊橋カレーうどんをお二つですね。
少々お待ちください」
やっぱり、食品サンプルがあると注文がスムーズですね。
あ、でも、入店する前の食品サンプルを眺める時間が長くなるから、どっちもどっちかしら?
お茶を啜りながらお姉様と料理が来るのを待ちます。
「あのおウドンが立ち上がってる姿にはびっくりしました。
あれが偽物だなんて信じられません」
「食品サンプルのあの状態のことを"箸上げ"と言うらしいわ」
やっぱりお姉様は博識です。
「カレーって、やっぱりあのカレーなんですよね?」
「だと思うわ」
最近、食品開発研究所からカレールウが発売され、都で一大流行を巻き起こしています。
カレーは、元々大樹のお屋敷で常食となっていたそうですが、作るのが非常に大変なんだそうです。
それを簡単に作れるようにしてくれたのが食品開発研究所。きっと物凄いエリートさん達がお勤めになっていらっしゃるんでしょうね。
ウチでも、そのカレールウを使ってよく作ります。お姉様の得意料理にもなっています。
……野菜や肉を切って炒めて煮込むだけなんですが。
あ、いえ、お姉様のお料理はとっても美味しいんですよ。本当ですよ。
この間、私が作った時に少しアレンジして作ったら、お姉様がしばらく硬直されて、それから猛烈に掻き込んでいらっしゃいました。なので美味しかったんだと思います。
ニンニクを一欠片刻んで、摺ったリンゴを入れただけなんですが。
「お待たせしました。
豊橋カレーうどんお二つです」
おっと、お料理が参りました。
店員が前掛けを用意してくれました。高級レストランみたい。
ああ、やはりカレーの良い匂いがします。
器にたっぷりのカレーが注がれています。
とっても美味しそう!
「では、頂きましょう」
お姉様と一緒に手を合わせます。
「「いただきます」」
食前のお祈りは大事です。
まずはスープを一口。
ああ、カレーの独特の味わいと刺激が私を襲います。
美味しい。
この強烈な香りと味が堪りません。
あと、何か普通のカレーと違う味わいもあります。何だろう?
よくわかりませんが、麺に挑みます。
あの食品サンプルと同じように箸上げしてパクリ。
ああ、おウドンがカレーの刺激を受け止め、柔らかいものに昇華してくれます。お口の中がとっても幸せですぅ。
ふと、お姉様の様子を伺うと、麺を啜っておいでです。その所作がとても綺麗でした。
おウドンは啜って食すのがマナーなんですが、お姉様は音も立てず綺麗に食べておいでになっています。着けている前掛けも真っ白なまま。
自分の前掛けを見れば、あちらこちらに跳ねたカレーの跡が……。
同じ姉妹のはずなのに、どうしてこうも違うのですか。神様の意地悪。
「とっても美味しいわね。
まさか、カレーにネギやおアゲが合うなんて。
カレーって、懐が深いのね」
ホント、カレーの中で泳ぐおネギがこんなに甘く感じるなんて。
それにおアゲを噛み締める時に、中からジュワァってカレースープが出てくるのが堪りません。
「た、たぶんですけど……このカレースープ、中におダシが入ってるんだと思います」
「おダシって、あのカツオブシとか?」
「は、はい。
カツオブシかどうかまではわかりませんが、何かお魚系のおダシが入ってるような気がします」
「ああ、それでネギやおアゲにもよく合っているのね。
ポーラ、あなた凄いわ。その味覚の優秀さはいずれ何かの役に立つでしょう」
お姉様にお褒め頂きましたぁ。もう気分はルンルンですぅ♪
ん?
器の底を突く前にお箸が止まりました。
トントンとお箸で突っつきますが、やはり途中で止まってしまいます。
「お姉様、お姉様。
器の底に何か隠れてます」
「あら、本当ね」
お姉様は箸からレンゲと呼ばれるスプーンに持ち替え、底を掬い上げます。
「まあ、白ごはんが隠れていたのね」
お姉様が掬ったそれは、馴染みのあるカレーライスのようでした。
なんてサプライズ。
カレーと白ごはんが合わない訳無いじゃ無いですか!
私もお姉様と同じようにレンゲに持ち替えて、底にある白ごはんを掬い上げます。
パクッ。
ああ、カレーと白ごはんのマリアージュ。幸福度がさらに上昇します。
おや? これも普通のカレーライスとちょっと違います。
カレーが違うのはわかっていましたが、白ごはんの味わいが違うのです。
お姉様もそれを味わいながら、首を傾げています。
「ポーラ、これは何?
なんだか柔らかいイメージを掻き立てられるわ」
お姉様も気づいたようでした。
でも、これは……?
舌の記憶を遡ります。
頭の中にいろいろな食材が現れては消え、現れては消えていきます。
あ! 一つだけ合致したものがありました。
「コレ……山芋です。山芋を摩ったものが白ごはんの上に掛かっています」
「山芋?
……言われてみれば、確かにその通りですわ。
さすがポーラね」
お姉様がニコニコと微笑んでくださいました。
お姉様の笑顔で胸がいっぱいです。
……お腹は満腹にはまだ遠いのですが。
「ごちそうさまでした」
お姉様が食べ終わってしまわれました。私も急いで掻き込みます。
ハグハグ。
「ポーラ、慌てなくて良いですよ。お料理は逃げたりしませんわ」
お姉様の笑顔が眩しい!
言われた通り、ゆっくり味わいます。
ほおぉぉ~。
最後の一口まで堪能しました。とっても美味しかったです。
「「「ありがとうございました♪」」」
お会計を済ませてお店をあとにします。
「ねえ、ポーラ。
まだお腹に空きはある?」
このパターンは!?
「は、はい。
まだまだ入ります!」
けぷっ。
いやぁ~! こんな時にゲップさん出ないでよぉ。
「うふふ。
北門まで歩くとちょうど良いかしら?」
北門の近くと言ったら、アレですよね!? アレ!
待っててください。
今、参りますよ。スイーツ姉妹の出陣です!
なんだかんだと、初登場の尾張三河屋。
誕生秘話をご存知の読者様、大変長らくお待たせしました。
味噌煮込みうどんは、以前に次郎が披露しているので、今回は豊橋カレーうどん。
豊橋にお寄りの際は是非ご賞味あれ。
ただし、こだまとひかりは停まりますが、のぞみは豊橋駅に停まりません。悪しからず。
さて、次話は、視点がガラリと変わりつつも、このお話の続きとなります。
お楽しみに。




