第283話 妹とお出かけ
今日の大樹の森の都は、平常運転。
竜車バスを降車した人物が二人。
ーーー ある甘味好きな娘の視点です ーーー
今日は公休日。
ですので、今は西地区のアーケード商店街に参りましたの。当然、妹のポーラも一緒。
アーケード商店街の門を潜ってすぐにポーラの視線が疾駆庵2号店に向いたまま動かない。
「ポーラ、前を向いて歩きなさいな。
人とぶつかってしまいますわよ」
「は!? も、申し訳ございません」
ポーラったら、疾駆庵の店前にある食品サンプルに釘付けなんだから。
まあ、わからなくもありませんが。
ええ、ええ。その出来映えと言ったら! 本物と瓜二つなんですもの。
特に疾駆庵特製アラモード!!
今にも溶けてこぼれ落ちそうな気がして、目が離せなくなってしまいます。
ゴクリッ。
はっ。いけませんわ。淑女は常に清楚でなければ。
今の喉の音が聞かれてないか、しばらく周囲を見渡しましたが、どうやらセーフですわ。
これもドワーフの匠のクーガー様の技術が高過ぎるせいですわ。
◇◆◇
西地区のアーケード商店街の新規出店候補の店舗一覧表を持参して、ドワーフ工房を訪ねた時のことです。
「ごめんくださいませ」
「おおぅ、行政庁のソフィアさんじゃな。
ようこそ、ドワーフ工房へ」
ドワーフの族長のドアン様に迎えて頂きました。
「今日はどうした?」
「はい。
アーケード商店街の新規出店候補の件で、クーガー様にご相談申し上げたくて参りましたの」
今も出店希望が殺到しておりますが、審査が厳しく、なかなか許可を下ろさないのが現状です。
特にアルメリア姫様が厳しいのです。
姫様が仰るには、「盟主様からの直々のお仕事なのです。決して手を抜けません!」とのこと。
そのおかげか、アーケード商店街の店舗はいずれも成功しております。
問題は、その審査が厳し過ぎて、未だに空き店舗が残っている状態、と言うところでしょうか。
新規店舗はその空き店舗に出店頂くことになるのですが、その店舗の業種や運営コンセプトによって、また周辺の既存店とのバランスを考慮してだいたいの配置をこちら側で決めるのです。
ですが、「建築の観点から問題は無いのか、最終的にはクーガーの判断を仰げ」との盟主様のご命令。
そう、クーガー様に持ち込む前の私達の段階でほぼ決まりなのですが、極々たまになのですが、クーガー様のご指摘により、店舗位置がずれることがあるのです。
つい先日にもこんなことがございました。
「ほおぉ?
ヤキトリ屋は審査をよくパスしたなあ」
「はい。
盟主様も試食なさって合格なされたのです」
「へえぇ、本家もお認めになったか……」
「あ、あの……。
盟主様が本家と言うのは?」
「ああ、そうか。
ソフィアさんは知らないんだったか。
あの伝説のヤキトリ屋を」
クーガー様がややため息混じりに仰います。
「以前にな、この都がクリムト帝国のコボルト部隊に包囲されたことがあってな……」
なんと、私達元ダイクン王国民が保護される以前に、そんなことがあったとは。帰ったら、この国の記録書に目を通さないとなりません。行政庁職員足るもの、無知ではいけませんもの。
「当時は人員も少なく、怪我人も多く出ちまったが、盟主様の陣頭指揮のおかげで無事勝利出来たんだ。
その戦勝を祝って宴が開かれたんだが、何を思ったのか、盟主様がヤキトリ屋に成って、皆に振る舞ってくれたんだよ」
盟主様のヤキトリ屋! 是非ご賞味に預かりたいですわ。
「それはもう絶品でな。特に塩。
あの後鬼様も唸るほどよ」
でございましょうよ。
「その後は立て続けに避難民の受け入れやら何やらがあって、二度と味わえなくなっちまった」
ああ、幻のヤキトリ……。
「本当に初期の国民しか味わえなかったのですね。羨ましい限りですわ」
「ソフィアさんは元ダイクン王国民だったな。
それは残念だった。
……あ、でも、元ダイクン王国民が一人だけその味を知ってるぜ」
「え!? どなたですの?」
「カイだよ。カイ・エフェクト。
あいつ、なんか、ダイクン王国の上役と揉めたかなんかで、国を出奔しただろ?
俺達と合流した時は、ドラド族の避難民に紛れ込んでた。
まあ、ダイクン王国とドラド族は懇意の仲だったらしいから、よくある話なんじゃないかな」
まあ。エフェクト参事……今は参与に昇進されていましたね。エフェクト参与も変わった過去をお持ちのようですね。
「ああ、それでエフェクト参与が渋い顔をされていたのですね」
ヤキトリ屋審査の試食会にはエフェクト参与もご出席なされて、味にかなり厳しい論評を繰り広げておりました。
「盟主様のヤキトリと比べてしまったのだろうな。
だが、それは受験者が可哀想ってもんだ。
アレは、あの味は盟主様にしか出せない。
って、あの赤提灯のタイショーがそう言ってたぜ」
まあ。シンノジョウ様がそう仰るのなら、そうなんでしょう。
「おっと、話が逸れてしまったな。
……で、そのヤキトリ屋なんだが、この場所は不味いな」
「え? でも、アーケード商店街の南口に近い位置で、バス停にも近くて便利だと思いますが……」
「でも、この店は持ち帰り出来るように専用窓口も設けるんだろ?」
「ええ。
ヤキトリの焼かれる香りが購買意欲を高めると想定しています」
ヤキトリを焼く炭火の良い香りが漂って、とても堪らなくなります。
「それがダメなんだ」
え!? 何故? どうして?
「この二軒先に衣料品店がある。
ソフィアさん。あんた、ヤキトリの良い匂いのした服を買いたいって思うかい?」
それはイヤですね。
「さらにその奥に薬局がある。
ここは店内で調剤もやってるから、店主が猛烈に苦情を入れるぜ」
ああ、盲点でした。
ヤキトリ屋は酔客が多いだろうし、帰りのバス停が近い方が便利だろうと。また、ヤキトリが焼かれる香りが外に漂って、それに釣られた人々がアーケード商店街に入場するのも見越した良策だと思ったのですが……。
私共、行政庁のミスですね。
アーケード商店街全体のことをよく考えて提案しなければなりませんね。反省。
「それで場所なんだが、赤提灯の店の向かいはどうだい?
お互い酒を提供する店なんだし」
「でも、それだとシンノジョウ様のお店の独り勝ちになりません?」
シンノジョウ様のお店は居酒屋と名乗っていますが、お酒を飲まない客達からも絶大な人気を誇るマルチな飲食店。
そこのお料理がどれも絶品なんですって。
そこは、プレオープンを一切しなかったので、試食会も無かったのです。残念。
「う~ん、そこは勝負してもらうしかないな。
ただ、その場所の屋根に空調設備を設置してあるから都合が良いんだ」
クーガー様のお話によると、アーケード商店街全体を覆う屋根があって、自然な風が通りにくい構造だと。
それを懸念されたクーガー様は、屋根のあちらこちらに空調設備を設けられたとのこと。
今まで全然気がつきませんでしたわ。ファンが回るような音も一切しませんでしたし。
「バス通りの一般人を誘致するってのは出来なくなるが、一番無難だと思うがな」
「貴重なご意見を拝聴させて頂きましたわ。ありがとうございます。
帰って早速、再検討に入ります」
「おう、またな」
「では、ごきげんよう」
色々な情報が脳内を駆け巡りましたが、庁舎に戻ってすぐにアルメリア姫様に報告。新規出店のヤキトリ屋の位置をシンノジョウ様のお店「シン」の真向かいに変更が決定致しました。
と、まあ、こんなことがございましたの。
そしてその翌日、私は再度ドワーフ工房を訪れることになるのです。
クーガー様に、ヤキトリ屋の配置を「シン」の真向かいに決定したことをご報告する為です。
また、クーガー様を私共の会議にご出席頂くようお誘いするのが裏の主目的でございます。
クーガー様をより早い段階で会議にお招きし、ご相談に乗って頂ければよりスムーズに事が運び易くなると踏んでのことです。
またまた登場しましたね、ソフィアさん。
行政庁職員としてバリバリ働くキャリアウーマンですが、今日はお休みのようです。
アーケード商店街に着いたものの、まだお店に入る前の回想シーンで終わってしまいました。
さて、次話は、この続きのお話です。
お楽しみに。




