第282話 第一次湖東調査隊の報告会
無事に大樹の森の都に帰ってきた第一次湖東調査隊。
次回もスムーズに出発したい次郎。次回のメンバーはどうする?
湖東調査の初日を終え、大樹の森の都に帰ってきた僕達。
大樹の屋敷でとりあえずの報告会を開いたんだけど……。
「だから、あちきが行くって言ってるでありんす!」
「残念にゃねー。
タマモはメンバーに入ってにゃいにゃ。
代わりにあたしが活躍してくるから、土産話を楽しみにしてるにゃ」
「何をっ」「何よっ」といつものやり取りしてるアヤメとタマモの二人同様、次回の派遣メンバーの編成に揉めに揉めてる。
僕が初回メンバーで十分だと言ったら、メンバーから外れていた出席者達からブーイングが殺到。
こういう時、一喝するはずの前鬼が腕を組んで押し黙ったままだ。よく見ると、組んだ腕に人差し指でトントンとリズムを刻んでいる。
ああ、前鬼パパも行きたいんだね。でも、立場上そう言えないから、口をへの字にして結んでる。
冷静で居られたのは、初回メンバーと行政庁のメンバーのみ。あと、正義やジーンの軍関係者だ。
正義がスッと手を上げてくれた。
「はい、正義」
正義に発言を促すべく、ちょっと大袈裟に正義に右腕を伸ばす。
シンッ。
みんなが一斉に黙った。
そう、これが正義ならではの効果だ。
戦闘能力では大妖達に及ばないし、行政能力も行政庁メンバーには劣るだろう。
しかし、指揮能力が高く軍人達からの信頼も厚い。また、コミュニケーション能力も高く、妖だけでなく、原住民とも上手くやれている。
そして、僕と同じく、地球の現代知識と常識を持ち合わせている為、僕が最も信頼する同郷人だ。
「はい、ありがとうございます。
では、発言させていただきます。
まず、今回の調査で判明したことを整理しますね。
湖東には巨大昆虫類が生息していること。
かん水の素と言われているトロナ鉱床の発見。
巨大カタツムリの発見。
ゴムの木の発見。
玄武様の発見及び参入。
と言ったところでしょうか」
うん、そうだね。
「トロナ鉱床とゴムの木の山林には、第二次と第三次調査隊を送ることになるでしょう。
巨大カタツムリの方は……。鈴木様はエスカルゴ牧場の創設を考えていらっしゃるのでしょうか?」
さすがは正義。鋭いね。
みんなに初期の対処法を開示していく。
「えー!
あんにゃにぬめってしてて、うにょーっとしてるのにぃ。
本当に食べるにゃ?」
「アヤメ。
カタツムリは昔から食されている立派な食材ですよ。
今では多少廃れたのかもしれませんが、一部の愛好家も居るほどよ」
後鬼って、ホント食材の知識は豊富だね。
「カタツムリは古代から食べられているものですが、今ではそんなに珍しくなってしまったのでしょうか?」
玄武は旧い存在だから知ってるんだね。
「大丈夫。
高い栄養価も然ることながら、ダイエット食としての人気も高いから、そうそう簡単に廃れるものではないよ」
この発言に、目をギラリとさせた者が数名。全員、女性だったけど……あの大人しいアルメリアまで僕を鋭く睨んでる。
確か、宗教的修行で肉食を避ける期間でも、カタツムリはOKだったはずだ。まあ、貝類だしね。
「わかりました。
では、エスカルゴ牧場の創設も検討する必要がありますね。
これには、スライム達の統率者であるヒルコ様に陣頭指揮を取って頂くのが上策でしょう」
初期の寄生虫排除の雪女の選定は、ユキに任せることになった。
「次に問題なのは、第一次調査隊が戦闘を避けた食肉植物の魔物なんですが……」
「発言宜しいか?」
お? 玄武が手を上げている。
正義が僕を見ていたので、頷き返す。
「玄武様、どうぞ」
正義に許可をもらい、玄武が立ち上がってホワイトボードまで歩む。
キュキュキュッ。
ホワイトボードに、例の食肉植物の魔物の姿を見事に描き出した。
玄武も絵が上手いね。
「鈴木次郎様が仰っているのは、この魔物のことでしょうか?」
「何だ? ハエトリグサのことか?」
「ウツボカズラに似ているが?」
少しザワザワとみんなが話す。
みんなが好きに話してる間に、玄武がさらに描き足している。
その絵をよく見てみると、食肉植物の魔物が歩き出す様子が描かれていた。
「なんと! 植物が歩くのか!?」
「ほら、ヤンバル国からの献上品の植物魔物も歩いてたじゃない」
「この異世界は不思議なことばかりだな」
いやいや、この異世界でも、君たち妖は、もっと不思議な存在に見えるんだと思うよ。
「この魔物は、私がこの森にたどり着いた時には既に存在していた。
おそらく、数百年の齢を重ねていると思われる」
玄武が語るには、その食欲は旺盛で、捕虫葉で十数匹の巨大昆虫を捕獲しながら、本体らしきウツボが激しく揺れていたとのこと。中に何か大物が入ってしまって暴れていたらしい。
玄武は以前に、体長十メートル近い熊(おそらく魔熊と思われる)がウツボに吸い込まれていったのを目撃したことがあるらしい。
熊も甘い物には目が無いからね。
おそらく、食肉植物の魔物が醸し出すフェロモンに惹き寄せられたんだろう。
「いや、あの時は本当に危なかった」
玄武も食肉植物の魔物と初めて邂逅した時、フェロモンに惹き寄せられたらしい。
辺りを覆う甘い香りに包まれ、頭に霞が懸かった状態。
そのウツボの蓋が開いていて、中を覗き込んだ時、ガシンッという音が連続で響き渡り、正気を取り戻したみたい。
ふと周りを見渡すと、いくつもの捕虫葉に数匹の巨大昆虫が捕らわれており、玄武は即刻その場から退散。二度と近寄らないと心に刻んだんだって。
古の大妖を食べようとする魔物。あなおそろしや~。
「この魔物は非常に危険です。
一昼夜で三~四里は進みます」
(一里は約3.93km)
やっぱり移動出来るんだぁ。
「玄武様、ありがとうございました。
その食肉植物の魔物と遭遇する際は、サトリ様が居ないと話しにならない、と言うことですね。
その食肉植物の魔物の件は、鈴木様に一旦お預けしたいと思います」
「え!? 僕?」
正義が僕に剛速球を投げてきた!
いや、サトちゃんと組んで対処すれば、やってやれないことも無いかもしれないけど……あんまり自信無いなぁ。
「はい。
鈴木様には、その魔物の件を大樹様とご相談をして頂きたいと思います」
なるほど。
この森は大樹さんの領域でもあるもんな。この会議が終わったら、早速相談してみよう。
「第二次と第三次調査隊には軍を編成するので、弁天と八咫烏様、烏天狗様、それとジーンとケインは、この会議後にそのまま会議室に残って欲しいです。
あと、前鬼総司令もお願いします」
「え~っ、私も必要?」
「おまえは水軍長だろうが。もう少し自覚を持て」
「は~い」
弁天が正義に窘められてる。
普段から、弁天は正義に甘えてるのがよくわかるやり取りだ。
「それから、未開地がまだ残っている為、第一次調査隊は続行と言うことで宜しいでしょうか?」
うん、そうなんだけれど、その編成に揉めてるじゃん。
「第一次調査隊のメンバーは基本的に継続で宜しいのでは?
先ほどの報告を聞く限りではバランスも取れているようですし、この件を戦略的に捉えるならば、最善と思えます」
おうおう、第一次メンバーではない連中から睨まれてるけど、涼しい顔をしている正義。ずいぶんと成長したなあ。
でも、その正義の発言に誰も文句が言えない。激しく睨むことが精一杯のようだ。
と言うことで、第一次調査隊メンバーはそのまま継続で落ち着いた。
また、第一次調査隊の再出発は一週間後となった。
その間に僕ら第一次メンバーから、遭遇した巨大昆虫類等の生態や動き等を詳細にヒアリングして、第二次と第三次調査隊のメンバーを選出する目安にする為だ。
ああもうお腹空いたよぉ。
ねえ、今日はもう会議はよくない?
明日にしようよぉ。
ストライキ起こしちゃうぞ。
あ…………大樹さんところ、行かなきゃだったぁ~。
あの娘、お稲荷さん好きだから、作って持って行かなきゃ。
お夕飯は、もう少し先かぁ…。
もうお腹がペコペコな次郎。ストライキは我慢してね。君はやらなきゃいけないことがいっぱいあるんだから。
それでも、大樹さんにお稲荷さんも作っちゃう次郎は人が良いですね。
さて、次話は、場所も視点も変わってグルメ話です。誰が登場する?
お楽しみに。




