第281話 第一次湖東調査隊 その10
古の大妖、玄武との交流戦も落ち着いた一行。
次郎は皆の治療に大忙し。
中華の大妖の玄武との模擬戦、と言うか交流戦も一旦は終了。
僕は、対戦したみんなの治療で大忙し。
治療の必要が無かったのは、スミレと雲外鏡だけなんだもん。
あ、ちなみに玄武も治癒を施した。
「おおぉ……。
鈴木次郎様の治癒術は、なんとも心地良いのですな。
うっかりすると微睡みの中に埋もれてしまいそうになる」
「フフ、一人ぐっすりなのも居るにゃ」
玄武の言葉にアヤメが答えながら、眠っている椿の頬をつんつんしてる。
「それにしても、玄武。
中国大陸に居るはずの貴方が何故異世界に?」
後鬼が、みんなが抱いてた疑問を玄武にぶつける。
「いや、私も何故かまではわからない。
気づいた時にはもうここに居たのだ。
すぐにここが異界であることに気づいたがな」
玄武は誰かに召還された訳では無いらしい。
では、突発的な転移事故に巻き込まれた?
いや、正義だって、例の女神から強制的に転移させられたんだし、玄武も似たケースで異世界に引っ張られた可能性は否定できない。
ただ、玄武は、大樹の森よりもっと南で転移してきたらしく、人目を避け、徐々に北上を続けて大樹の森にたどり着いたんだって。
途中で人間の街を見つけ、人化術で紛れ込もうとしたこともあるらしいが、現地の言葉が一切わからず、断念。
「でも、今は雲外鏡が居てサトリが中継してくれるから意思の疎通が取れるけど、都に行ったらそうもいかにゃくにゃい?」
『さすがに私も四六時中となると、困りますね』
アヤメとサトリの心配もわかる。
「たぶんだけど、大丈夫だと思う。
ちょっと待っててね…………」
僕らは最初っから異世界の原住民達と言葉が通じていた。
僕らと別経由で異世界転移してきた正義も最初からコミュニケーションに苦労していない。
正義含めた僕らと玄武の違いは?
それはおそらく"加護"。
僕らは管理者様の、そして正義は例の女神からの加護によって、言語理解が付与されたんじゃないかな?
(よく思考するものだな)
!!!
管理者様からお声が掛かるとは!? 初めてのことじゃ無かろうか?
(そうだったか。それは済まなかったな)
いえいえ、管理者様もお忙しい身でしょうに。お声掛け、ありがとうございます。
(さて、何か私に頼み事があるのだろう?)
はい。
実は、管理者様の管轄外で異世界に転移してしまった者が居りまして、言葉が通じなくて困っています。出来ましたら、僕らと同様に言語理解が出来るようにして頂ければ幸いです。
(その者は君の助けになるのか?)
それは……まだわかりません。
これから一緒に生活していって徐々にわかるものと思います。
(……良いだろう。
それで君の生活がより良くなるのであれば)
ありがとうございます。
管理者様に感謝を捧げます。
管理者様も健やかにお過ごしください。
(フフフ。嬉しいことを)
おおっと、現実世界に帰って来れた。
いつもそうなんだよね。
管理者様と会話する時って、最初にお会いした空間に居る感覚になっちゃうんだ。あの立ってるのか、座ってるのか、寝っ転がってるのかわかんない空間。
居心地は悪くないんだけど、現実感が一切無くてふわふわしてる感じ。
で、玄武の方は、実際どうなんだろう?
「サトリ。
中継を解除してみて」
『あ、はい。ただいま』
サトリが不思議そうな口調ながら、返事をしてくれた。
「玄武。
僕の言っている言葉がわかるかい?」
「? はい、わかりますが?」
こっちも玄武の言葉がわかる。
『え!? 私は何も中継していませんが!』
どうやら上手くいったみたいだね。
「これで玄武との会話も問題なく出来るね」
「さすがはご主人様。
その権能もお見事です」
後鬼のご主人様呼びも久しぶりだなぁ。いつも通りで良いのに。
後鬼ってば、わざわざ跪いて頭まで垂れてる。
ああ、ほら、みんなそれに影響されて跪いていってる。
「止めてよ。
僕の力でも何でも無いから」
僕じゃなくて管理者様のお力だと説明してるのに、「その管理者様と会話し、交渉する術を持っているのはご主人様のみですから」って。
「と、とにかく、ご主人様呼びはもう止めて。
いつも通り、次郎で良いから!」
居たたまれないじゃん。
「うふふ。
次郎がそう言うなら」
ここでやっと後鬼ママが立ち上がってくれた。
後鬼もTPOを考えて行動してるんだろうけど、後鬼はもう僕の母さんと言うのが定着しちゃってるんだよ。僕の中でね。
「なるほどな。
この異界でそんなことが……」
玄武が雲外鏡から簡単にこちらの事情を聞いている。
「であれば、この玄武もお役に立てることがありますな。
今は戦の真っ最中とのこと。しかも、異界では戦国時代の様相。
鈴木次郎様の御為、この玄武の武を持ってお力添え致しましょうぞ」
「あ~、玄武。
君のその気概はありがたいけど、こちらから積極的に戦争を仕掛ける訳じゃ無いから、そこのところ理解してね」
「なんと!
……現人神にしては珍しい」
「ほらな、ワシの言った通りじゃろ?」
「次郎様は平和主義者ではにゃいけど、降り掛かる火の粉は払うお方にゃ」
失礼な!
僕ほど平和を愛する人は居ないよ。ラブ&ピースね。
『次郎様。
平和主義者は格闘技を好みませんよ』
そ、それは……趣味! そう、趣味だから別口なの。
「そうか。
人体を効率的に破壊するのが趣味なのか。
道理で強い訳だ」
ライデン! 言い方ぁ!
キッとライデンを睨んだら、スミレが代わりにポカッて頭を叩いてくれた。
「一言多い」
◇◆◇
とまあ、なんだかんだと時間を過ごしてしまったので、一旦都に帰ることにした。
都に戻った僕達は、大樹の屋敷の会議室に移動した。
ああ、大きなサイズの玄武には人化してもらったから大丈夫。
そこに、大妖達や国の重鎮達にも出席してもらって、第一回の報告会を開催した。
「そんなことになっていたとはな」
「そんなに面白そうなら、あちきも行くべきであったでありんす」
「なに、次の派遣メンバーになれば良いこと。
次は我も行くぞ」
「待て待て。自分だって行く」
「え~、ボクはどうしようかな?」
「ピュピュピューイ」
「キュオ」
「私はどうでも良かったけど、その食肉植物は少し興味があるかな」
「あら、ユキがそんなこと言うなんて珍しいわね」
「そう言う弁天は興味ないの?」
「正直言って行きたい気持ちはあるけど、外洋船が完成間近なのよね。タイミングが悪いわ」
「ワシは腹が減るだけだから行かない」
「あんたが行かないなら、あたいも残るわ」
「ミャオウ」
大妖達が好きにほざいてる。
「ライデンも活躍出来たようで安心しました」
うん、ライデンは冒険者の経験値が高くて、色々助かった。
「なんだよぉ。そんなに面白れえことなら、俺様が行きゃあ良かったぜ」
おまえには疾駆庵という店があるから無理だろうに。
「そうか!
ついにゴムの木が見つかったか!?
これは忙しくなるぞい」
いやいや、ドワーフ達にはトロナ鉱床にも興味を示して欲しいんだが。
「私はどちらでも良いんですがぁ~、お怪我が多いようなのでぇ、やはり治療魔法の使い手は必須ですねぇ~」
うん。それは必要だね。
「第二次湖東調査隊を派遣するには
、まだ時期尚早かな。
湖東の未踏地が多すぎる」
今回は、まっすぐ東に進んだだけだもんね。未踏地の方が多いくらいだ。
未踏地は湖東だけじゃない。
西の港を囲む北と南の半島もそうだし、北山のさらに北も未だ踏み入れていない。
未踏地じゃないのは南の草原だけ。
ホント、大樹の森は広大だ。
人類がほぼ踏み入れない地域だから、未開拓地ばかり。原住民からの情報も皆無。
だが、湖東調査は続けるつもり。もう手を付けちゃったからね。ちゃんとやり遂げよう。
それが、大樹の森の都の安全に繋がるはず。
「第一次湖東調査隊は継続するけど、玄武はメンバー入りして欲しいと思ってる」
湖東に多少は慣れている玄武が居ると心強い。
「はい。
新参者ではありますが、鈴木次郎様の御為、力の限り尽くします」
人化した玄武は、僕だけでなくみんなに頭を下げている。
驚いたことに、玄武の人化した姿……それは美女。目元がややつり上がったキツそうな印象の美人さんだ。
妖の姿だと男性か女性かわからなかったけど、こうして人の姿になると一目瞭然。都中の男性の注目を浴びること間違いないね。
さて、ここからが頭痛いところだ。
転移能力を持っている僕と雲外鏡は確定してるけど、他のメンバーがなぁ。
揉めに揉めそうだ。
調査隊のメンバーから外れていた者達のブーイングが殺到。
次郎は、どう治めるのか!?
さて、次話は、この続きです。佐藤正義君が挙手をします。
お楽しみに。




