第278話 第一次湖東調査隊 その7
ゴムの木が生い茂った丘の頂上に待ち受ける者が。
ーーー 菖蒲の視点です ーーー
ゴムの木がある丘の頂上に着いたあたし達の前にソイツが現れた。
ん? 元から居たところにあたし達が踏み入れたのかな?
その姿を見たみんながザワザワしてる。
「にゃんだぁ、あれ?
大きな亀さん?」
「亀も巨大化するのね」
後鬼お母様も呆れてる。
「ライデン、あれは何?」
「亀は亀だが……ウミガメで大きいのは居るが、リクガメでは初めて見る」
スミレとライデンの会話から察するに、この異世界でも珍しい生物らしい。
そう。見た目はおっきな亀さん。
全長は10メートルくらいはあるんじゃないかな?
異世界ならではの大きい亀。
う~ん……昔の地球には居たのかもしれないけど、あたしは知らない。
亀にはあるまじき牙も生え揃っている。
なんか昔の特撮映画の怪獣みたい。
空飛ぶ亀の怪獣居たよね? ほら、手足引っ込めて、火を吹いて回転しながら空飛ぶやつ。次郎様なら知ってそう。
その亀さんの首がにょにょにょーんって伸びた。ろくろっ首みたい。その首が10メートル以上伸びた。
「ゴオォォォァァン」
鳴き声までまさに特撮怪獣。
やるか!? やるんか!?
やるんなら、あたしが相手するぞ!
ファイティングポーズを取って、シュッシュッとエアジャブを打つ。
「アヤメ。
やる気のところを悪いんだけど、僕に譲ってくれないか?」
あや? 次郎様が珍しいね。
「次郎様にゃら仕方にゃいにゃ。お譲りするにゃ」
あたしは一歩下がる。
「うん、ありがとう」
次郎様はにっこり微笑んでくれた。
そして、特に身構えること無く、スタスタと亀さんに歩み寄って行く。
「あ~、そこの亀さん。
僕は鈴木次郎と申します。
こちらには敵対意思は無いけど…………言葉、通じるかな?」
巨大化亀の手前数メートルで立ち止まった次郎様は、その亀さんに話し掛けた。
大丈夫かなぁ?
その亀さん、進化の証の角が生えてないけど、会話なんて……。
「…………」
あり? なんか呟いてるようにも見えるけど、よく聞こえない。
すると、突然、亀さんが襲ってきた!
亀さんが伸ばした首を次郎様に突っ込んで噛みついてきた。
次郎様は、それを軽々と後方に避け、跳び退る。
それが二度三度続く。
こんのぉぉ、亀さん許すまじ。
あたしが妖力を練っている脇で、みんなも妖気を立ち上らせている。原住民達も魔力を高めているようだ。
バサバサ、ザザザザザッ。
その煽りで周辺の木々が揺らいでいる。
次郎様があたし達が居る後ろをちらりと振り返ってから、亀さんを睨み付ける。
そして…………次郎様の姿が消えた。
ドカッ。
あ、亀さんの足下まで移動してた。
縮地だ。
その勢いで素手で亀さんの首元を殴ってた。
ズザザッ。
その衝撃で亀さんが数メートルほど吹っ飛んで行っちゃった。
あいや~。
次郎様のアレ、ものすっごい威力あるんだよね。
なんせ、あたしの結界術でも意味無いの。
以前に、実験で次郎様があたしの結界を殴ってみたら、障壁が凹んだのよ。
割れたりヒビが入るとかじゃなくて凹んだの。
一緒に立ち合った大妖達も首を傾げてた。
「ど、どういうことでありんす?
アヤメの結界が凹むなんて!?
あちきの鬼火ですら、傷一つ付けられないのに」
「ホント、非常識な子……」
タマモが叫んでる隣で後鬼お母様が呆れていた。
『さすがです、次郎様』
「主殿だからな」
「あるじ、すごーい!」
「然り然り。自分ではとうてい真似出来ぬ」
「ピュピュピューイ♪」
「すすす鈴木次郎様に対する時は、せせせ接近戦は避けるべきだと思う」
「いやはや。
たとえその場から逃走しても、転移で目の前に送られたら終わり、でありますですはい」
「どうにも出来んな」「そもそも敵対する方がバカなのよ」「ミャオン」
「今代の現人神は桁が違うのね。敵対する者達を同情するわ」「どちらでも一緒。私は崇め奉るのみ」「キュオオ」
「まあ、一心同体のワシからすれば、これ程安心することも無いわな」
大妖達がそれぞれ感嘆してたけど、前鬼パパが冷や汗をかきながら呟いてた。
「あれは……あの衝撃は、外に逃げず、中に浸透するものだ!」
その時はよくわかんなかったけど、今、亀さんが証明してくれた。
ブハァッ。ボタボタボタ。
口から盛大に血を吐き出し、悶え苦しんでる。
「ゴアッ、グオォォォォ……」
ん? 次郎様が叫んでる。
「だから、中国語なんてわからないよ!
僕は第二外国語はドイツ語を選んだんだから。
そもそも理系なんだよ、僕は」
へ? 何? 中国語?
あ、亀さんの首がヒュルヒュルって縮んでいく。
ああ、亀さんも泣くんだね。目に涙がいっぱい溜まってる。
おっと、今度は亀さんの妖気が高まっていく。
カコォン、コォンクォン……ドバァァァッ。
亀さんが炎のブレスを吐き出した。
相当な威力がありそうだったけど…………次郎様まで到達しない?
よく見てみれば、次郎様が片手で手のひらを翳して防いでる。
あ、違う。
亀さんのブレスを転移させて、どっかやっちゃってるんだ。
わかってたけど、次郎様強い。
大妖の誰よりも…………ううん、大妖達が束になって掛かっても、決して勝てはしないだろう。
「まさか、あれは玄武か!?
いや、玄武が炎を吐くなんて。炎は朱雀の権能のはず……」
後鬼お母様がなんか言ってる。
「それは我らの勝手な心象かも知れませんぞ、後鬼様。
なにぶん、海を越えた大陸でのことですからな」
太郎坊が後鬼お母様に話し掛ける。
「そうね。
人間のイメージが私達にも浸透してしまってるものね。
それに、四神の玄武が異世界に居るはずも無いわよね」
「あ~、奥方。
アレは紛れもなく玄武じゃよ。
なんで異世界に居るのかは知らんが」
後鬼お母様と太郎坊の会話に雲外鏡が参入してきた。
「「「え!?」」」
「ああそうか。お爺は大陸から来たから、中国語がわかるんだ」
皆が驚く中、椿ちゃんが相槌を打つ。
「ホッホッホ、尊敬せいよ。
ワシは、あ~……なんじゃったか?
ばい、ばい……ばいせくしゃる、つうやつかや」
「お爺、それを言うなら、ばいぶれえしょん、じゃない?」
「バイリンガルにゃ!」
雲外鏡も椿ちゃんもバイしか合ってない~。二人ともとんちんかんなところがそっくり。
「とにかく、ワシが前に出るしか無かろうの」
「お爺、わたしも一緒についていくから安心して」
そう言って、雲外鏡と椿ちゃんが次郎様の下へ進んでいった。
「椿ちゃん、雲外鏡。
危ないから下がってて!」
次郎様が背後まで接近した二人に警告する。
「鈴木様、ワシが話をしてみましょうぞ」
「次郎様、お爺が中国語を話せるの。任せてみませんか?」
『なら、好都合ですね。
私が皆への仲介を致しましょう』
ここで、サトリも加わったみたい。
サトリが雲外鏡の意識に取り憑いて、皆へのフィードバックをしてくれるって寸法ね。
「サトちゃんまで……。
じゃあ、任せるよ」
次郎様も了承したみたい。
「玄武よ。久しいのぉ。
元気にしておったか?」
「この妖気は……。
ほう? 雲外鏡か?
懐かしい者が居たものだ。
幾年ぶりだろうか」
「そうさなぁ……千年は軽く経ったのぅ」
亀さんと雲外鏡の会話がサトリを通して聞こえてくる。
「オヌシはまだそんなことをしておるのじゃな。
『強き者よ、我に挑め』じゃったか?」
「ふふん。
今も昔も変わらぬよ。
これが我の唯一の楽しみだからな」
「ならば感謝せえよ。
ワシが止めに入らねば、オヌシ消滅してたかも知れんぞ」
「む、この男のことか?
何なのだ、コヤツは?」
「ならば紹介しようぞ。
我が主にして、異界の原住民共に崇められ、我ら妖の棟梁であり、今代の現人神、鈴木次郎様じゃ」
雲外鏡のやつ、すっごい誇らしげ。まあ、わかるけど。
「何っ!?
貴様、現人神に仕えておるのか?
以前に痛い目に遭うたと言うのに」
「いや~、それがな。
この方はちと違うんじゃ。
集う者達に分け隔てなく愛情を注いでくれる。
それがたとえ妖怪であろうと魔物であろうともな。
従来の現人神とは一線を画すお方なのじゃよ」
タマモから、他の現人神達の話を聞いたことがある。
人間からは英雄だのなんだのって祭り上げられたけど、実際は傲慢でワガママだったらしいの。それに非常に好戦的って言ってた。
次郎様と真逆の存在だよね。
「……現人神か…………。
その強さは肌で感じてよくわかった。
ならば、己の仕来たりに則り、拝謁致そう」
亀さんが次郎様の前まで進み、頭を低くした?
本当に拝謁の儀みたい。
「現人神たる鈴木次郎様に畏れ多くも拝謁致しまする。
これなるは、玄武と申します。
元は小さき小亀が武を志した者でございます。
先程の尋常なる勝負を承けていただき、感謝に絶えませぬ。
我が負けた暁には、かの者に仕えることを信条としておりました。
何卒、配下の末席に加えて頂きたく、お願い申し上げまする」
亀さんが滔々と、次郎様に奉ってる。
どうするの、次郎様?
次郎様から存分に覇気が醸し出される。
「玄武よ。
その方の力、見せてもらった。
喜んで受け入れよう。
ようこそ、大樹の森の都へ」
まあ、そうなるよね。
新たな妖の参入かぁ。
次郎様と一緒に居ると、ホント退屈しないなぁ。
うふふ。異世界に来て良かったぁ♪
四神の玄武が登場しました。
玄武はその名が示す通り、武を誇る妖です。
妖召還のスキル外で次郎の配下となりました。
ただし、コミュニケーション問題がありますが。
さて、その玄武さん、暴れ足りないようです。次話は、玄武との模擬戦の模様をお届けします。
お楽しみに。




