↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

278/319

第277話 第一次湖東調査隊 その6

 変わった姿の植物を見上げる調査隊一行。

 その食虫植物と思われる存在の初動を確認する為、冒険者エルフのライデンが弓矢を構える。

ーーー 三人称です ーーー


 狙い定めるエルフ冒険者。


「フッ!」

 バシュッ。

 一射目は見事に赤いトゲに中った。

 すぐさま二射目を引き絞るライデン。

「今っ」

「フッ」

 バシッ。

 次郎の号令に発射した二射目も赤いトゲに中る。

 ガシンッ!

 すると、開いた手を閉じるが如く、その植物の葉が急速に閉じる。

「思ったより速いな……」

「これ、巨大昆虫よりも速くないか?」

 巨大昆虫を獲物とする為、一度動くとなったら彼らよりも速い。


「でも、動作の条件はハエトリグサと同じだね。

あとはあの壺の部分がどうなってるのか、だが……」

「テレビで観た限りにゃと、アリさんとかが滑って転んで、すってんころりんにゃと思うんにゃけど」

「ん~、っぽいけどなぁ。

ライデン、あの壺状のところを傷つけず、退治出来そう?」

「でも、見た目それが本体そうだけどな」

「冒険者の勘?」

「まあ、そんなところ」

 次郎はそう聞くと、

「よし。無視しよう」

「「「え!?」」」

 皆が驚く。

 次郎があれだけ脳をフル活用して考察したにも関わらず、あっさり無視すると言うのだ。

「良いの?」

 後鬼(ごき)も改めて問いただす。

「君子危うきに近寄らずって言うじゃない?

ライデンの言う通り、あの壺状が本体としたら、あの中には溶解液がたっぷり入ってると思う。

ここから見ても高さ10メートル以上はあるよ。横幅だって5メートルくらいありそうだし。

粉砕なんかしちゃったら、この辺一帯が溶解液だらけになっちゃうよ」

「俺も盟主様の意見に賛成だな。

こちらから手を出さなきゃ安全そうだしな」

『厄介な相手ですね。

本体を叩いたとしても、こちらに被害が及ぶと言う。

まさに、触らぬ神に祟りなし、でしょうね』


 皆の賛同を得て、その植物の魔物を遠巻きに避けて行く一行。

「サトちゃん、ありがとうね」

『いいえ。お褒めいただくこともありません』

「ん?

サトリ、にゃにかした?」

 次郎とサトリの会話に割って入ってくるアヤメ。

「あの植物、さっきからなんかフェロモンみたいなものを醸し出してたんだよね。

それをサトちゃんがカットしてくれてたんだよ」

「ああ、あの甘い匂い」

「妖(君ら)には効かないだろうけど、ここには原住民達も居るから」

 当該の植物系魔物は、動物が好む甘い香りを醸し出しており、あらゆる生物を引き寄せていた。

 それは当然魔力のこもったフェロモンである。


 件(くだん)の植物から離れていった次郎達だが、それは正解だったかもしれない。

 その植物の誘引臭は非常に強く、寄ってくる生物は多い。それは巨大昆虫類に限らず、鳥や熊など木登りが出来る生物全てが獲物と化す。寄ってこないのは、知能が高い猿くらいだ。

 また、永くその場所に君臨していた為、獲物の魔素をふんだんに吸収し、通常の寿命が10~20年であるはずが、魔物と化し、すでに数百年が経過していた。

 この異世界で異常進化した唯一の植物系魔物であった。

 大樹の森では、大樹が覇王として君臨しているが、この植物は言うなれば中ボスという位置付けだろうか。


 実は、次郎達一行で対抗手段はあった。

 それは、スミレと椿(つばき)の雪女。

 彼女達の妖術で一瞬で氷結させれば、植物内の細胞が水分を吸い上げることが出来なくなり、動くことが不可能に。その状態が続けば、いずれ枯れてしまう。

 次郎は、それはわかっていたようだが、東の森はこの魔物込みで自然の営みと捉えることとしたようだった。


◇◆◇


 食虫植物の魔物から遠ざかった次郎達。

 なだらかな丘に差し掛かったようで、傾斜の軽い坂を登っていく。

「盟主様、この丘から少し植生が変わったみたいだぜ」

 経験豊富な冒険者だったライデンは、少しの変化も見逃さない。

「流石はライデン。よく気づいたね」

「未踏地を進む時は当たり前さ。

って言っても、あんたも気づいた顔をしてるぜ?」

 未知のことには興味津々な次郎は、冒険者のそれとは近い存在かもしれない。


 そこは、高さに比べ、細い幹の木が生い茂り、ところどころそれより高く太い幹の木々があった。

「変わった木々ですね。

樹海では見たことがありません」

 鳥人ブランの言葉に蛇人間(ラミア)ナーガと蜘蛛人間(アラクネ)フラウローネも頷いている。

「僕も植物まではよく知らないなぁ」

 次郎には、食べられる植物以外は、という注釈が必要かもしれない。

「ライデン、あなたなら知ってるのでは?」

 スミレがライデンの方を振り返って聞く。

「大陸のあちこち行ってたが、さすがにわからないな。

俺は変化に気づいただけで、植物学者じゃないからな」


 ふと、次郎が立ち止まった。一点を見つめている。

 その視線の先は、細い幹の方の木だ。

「ちょっとごめん」

 そう言った次郎がおもむろにその木に歩み寄る。

 幹に近づいた次郎は、インベントリから手袋を取り出して装着し、その幹の一点を触り出した。そこは、野生動物が傷をつけたのか、少し抉れ、樹液が滲み出て固まった跡であった。

「これは……もしかして……」

 シュッ。

 今度は、腰に差した小刀を引き抜き、幹に刃を当て、滑らせた。

 納刀した後、また幹をしばらくじっと眺めている。

 傷つけられた幹からはやや白い樹液がじわりじわりと流れ出でる。

 次郎は、それを眺めているようだ。


「鈴木次郎様、如何なされた?」

 皆を代表して太郎坊が聞く。

 次郎は、その言葉を無視して白い樹液に手を伸ばし、親指と人差し指で捏ね始めた。

『次郎様、良かったですね。

ドワーフの誰かがここに居たら、喜び勇んだことでしょう』

 次郎の思考を読んだサトリが喜びの声をあげた。

「「「???」」」

 皆が首を傾げたままだ。

「帰ったら、またユキに睨まれちゃうなぁ……」

『うふふ。ドワーフの監視役は雪女の仕事ですものね』

 それを聞いて、スミレと椿(つばき)が顔を見合わせる。

「ああ……また何か技術革新に繋がる何かを発見されたのですね」

 そう溢したスミレだったが、彼女達自身は食品開発研究所に勤めている為、今はドワーフの監視業務は免除されていた。

 だが、それ以前は監視業務に就いていたこともあり、そのつらさ……と言うより、そのアホらしさに辟易していたのである。

 ドワーフは、新技術の発見や技術革新があるとそれに熱中するあまり、寝食を忘れてのめり込む悪癖があるのだ。それこそ身体を壊すまでそれが続く。

 それを阻止するのが雪女の第二のお役目なのだ。

 雪女は妖術を使って、次郎から教えられた睡眠に快適な気温と湿度を作り出し、サトリから学んだ催眠術で強制的に眠らせることが出来る。

 雪女は、"ドワーフ暴走"の対抗手段なのだ。


「これはゴムの木なんだ。

この樹液がゴムの素になる。

ドワーフ達の話だと、この世界では見たことがないらしい」

「変にゃの。

ゴムにゃんて当たり前のものにゃのに」

 アヤメの言う通り、地球ではゴムの木から天然ゴムを採取出来、石油由来のものまでありふれている。

 一方、この異世界では、初期ドワーフのケルビンが魔蜘蛛(デビルスパイダー)の糸を使い、さらに魔石にゴムの特性を情報として書き込み、それを定着させるという独自の技術を駆使してゴムを生産している。

 だが、その技術は特殊過ぎて開発者のケルビンとごく一部の者にしか扱えないし、魔蜘蛛(デビルスパイダー)の生産量も限られている。ゴムは、大樹の森国でも重要な箇所にしか使われていない。


「でも、これでみんなの生活がまた一歩向上する」

 次郎の呟きを聞いて、皆は『この人が盟主で良かった』と感心し、忠誠心も向上したのだった。


「でも、第二次調査隊の編成に頭痛いわね。

このゴムの木以外にもトロナ鉱床もあるでしょう?」

 宰相の後鬼(ごき)が頭を抱える。

「あ~……。

ドワーフの人数は増えたけど、みんなゴムの木(こっち)の方に来ちゃいそうだね」

 次郎と後鬼(ごき)が揃って頭を抱えている。

 だが、実際には次郎の一番弟子と称されるドアン、クーガー、ケルビンの初期ドワーフ三人がトロナ鉱床の調査に立候補することにより、調査を希望するドワーフの人数は、トロナ鉱床調査とゴムの木調査共に綺麗に二分することになるが、それは少し未来のお話。


「鈴木様、それは後程考えれば宜しいかと。

ほれ、もう少しでこの丘の頂上ですじゃ。

そこで休憩でも致しましょうぞ」

 雲外鏡(うんがいきょう)が次郎の前にふわふわと進み、進言する。

「あ、そうだね。そうしよう。

みんな、丘の上で休憩するから、もう少し頑張って」

 次郎の言に従って皆が歩み出す。

「お爺もたまには良いことを言う。

椿(つばき)も休憩したいと思ってた」

「ふふん。

我らはまだ良いが、樹海から来たと言うあの三人はそろそろ休憩させた方が良かろうて。

本人達は疲れたなどと、決して口にはせんだろうがな」

 椿(つばき)と雲外鏡(うんがいきょう)は、樹海出身の三人組を眺めながら囁き合う。

 当の三人は、出発当初はワイワイガヤガヤと話し合っていた姿をよく見掛けられたが、今は会話も無く、ただ前を見据えて進むのみ。

「いや、よく付いてきている方さ。

連戦続きだったものな」

 ライデンが三人を褒める。

「そう言うオヌシは平気そうじゃな。オヌシも原住民だろうに」

 横から口出してきたライデンに雲外鏡(うんがいきょう)はやや感心したように話す。

「経験値が違うのさ。

調査依頼を承ける冒険者ってのは、移動や戦闘に全力を尽くすもんじゃない。残りの体力を常に考えながら行動するんだ。

そうじゃなきゃ生き残れない」

 ライデンは、冒険者仲間から二つ名を冠されるほどの実力者だ。調査依頼の実績も相当あるのだろう。

「さっきの大ムカデもライデン独りで倒してた。

結構魔法も使ってたけど、魔力も残ってる?」

 椿(つばき)も突っ込む。

「ああ。雷魔法も使ったが、あれは派手に見えるが魔力はさほど使わない。

魔力は……残り7割ってとこだろう」


 次郎が節足動物も巨大化していると言っていたが、当然ムカデも巨大化していた。

 一行がゴムの木を発見する直前に、全長8メートルほどの巨大ムカデに襲われた。

 シュッ。カァン。

 ライデンが素早く矢を射るが、巨大ムカデの甲殻に弾かれた音が響いた。

「チッ。

やっぱり弾かれるか。

なら、魔法はどうだ?」

 ヒュッ、ヒュヒュヒュヒュヒュッ。

 ライデンが、無詠唱で風魔法のウィンドカッターを複数射出する。

 チッ。サクッサクッ、シュパッ。

 動きが素早い巨大ムカデの関節部分に正確にウィンドカッターを当てていくライデン。

「関節なら多少は効くか!?

と言っても、バラバラにしても元気に動き回りそうだな、コイツ」

 巨大ムカデは攻撃者を正確に認識しているのか、素早くライデンの下へたどり着き、その狂暴な口を開けて襲い掛かる。

「そうは行くか!

よっと」

 ジャンプしてそのまま飛翔魔法で宙を自在に舞うライデン。

「そういや、大樹新聞に魔蠍(デビルスコーピオン)は雷撃に弱いって載ってたな。

おまえはなんとなくだが、蠍に近い種に見える、ぜっ!」

 ライデンは、飛翔しながらこれも無詠唱で雷魔法を放つ。

 ピシャアァンッ。

 グラ…………ドドンッ。

 その雷撃は見事命中し、巨大ムカデはその巨体を大地に沈める。

「お見事」「うむ、見事であった」「ヒュー、なかなかやるにゃ」

 皆がライデンを誉めちぎる中、当の本人は首を傾げていた。

「いや、様子見でかなり弱めの雷撃だったんだが……コイツ、雷に弱すぎだろ!?」

 それでも、大樹の森の都で発行されている新聞に、烏天狗(からすてんぐ)が魔蠍(デビルスコーピオン)を退治した記事が掲載されていたが、それを覚えていたライデンが優秀な証拠でもある。


 そして、一行が丘の頂上にたどり着いた時、ソレと遭遇してしまった。

 見つけちゃいましたね、ゴムの木。

 ドワーフ達が歓声を上げること間違いありません。

 そのゴムの木の丘を登りきった場所に、何かが居るようです。


 さて、次話は、第一次湖東調査隊のお話の大詰めです。

 お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。