第275話 第一次湖東調査隊 その4
ホッとする間も無く、次々に襲われる。連戦に巻き込まれる調査隊一行。
今度の敵は!
ーーー 蛇人間ナーガの視点です ーーー
「ブラン!
ソイツとは空中戦は決してするな!」
盟主様が叫ぶ。
せっかくブランに良いところを見せたばかりなのに、もう敵襲?
虫共に文句言っても仕方ないか。彼らは本能で行動してるだけだものね。
さて、次はどんな虫かしら?
盟主様の警告から飛行するタイプよね。私の蛇体が届く範囲に来てくれれば良いけど。
ブ…………ン。
微かな羽音が聞こえる。
見えた。
なんだ、トンボか。
トンボも巨大化してる。全長5メートルくらいか。
そのトンボがまっすぐブランに向かってる。
「ソイツは高速飛行出来るだけでなく、方向転換も静止もバックも一瞬でこなす、昆虫類最強のオニヤンマだ!」
盟主様が激しく警告している。
トンボって……そのオニヤンマって、そんなに強いの? 今まで気にしたことが無いわ。
「うおっ、回り込まれた!」
目で確認した時は結構距離があったのに、もうブランに接近してる。
このままだと、ブランが危ない!
再度、蛇体を伸ばし、槍で巨大オニヤンマを突く。
ヒュンッ。
避けた!?
回り込んで正面からブランを襲ってたから、ヤツの背後から槍で突いたのに、後退飛行に転じてる。
後ろに目があるの?
「オニヤンマは目が非常に良い昆虫だ。
前後左右だけでなく、上下もほぼ360度を見渡せる視界を持っている。
さらに厄介なことに、動体検知能力が異常に高い。
生物界最高の視力の持ち主だ」
知らなかった。
トンボってそんなに凄いのね。
さっきから、ブランと私で槍で何度も突き刺してるのに、カスリもしない。
くっ!
避けられるどころか、トンボが私の目の前に。
その巨大な顎が私の顔に迫ってくる!
「ナーガ!」
ブランの声がゆっくりと聞こえる。
貴方とまだまだ過ごしたいわ。赤ちゃん産んで一緒に暮らすのよ。きっと楽しいわ。
愛しているわ、ブラン。
ビッ。
私とトンボのわずかな隙間に白い何かが通過する。
白い……糸?
はっ!? フラウローネ!?
「まったくぅ、何やってるのよ!
二人で避ける方向を限定させてよね」
フラウローネが蜘蛛の糸を飛ばしてくれたのね。
トンボには当たらなかったけど、おかげで助かった。
「わ、わかった。
ナーガ、イケルな?」
「当然よ」
よし、仕切り直しよ。
ーーー 蜘蛛人間フラウローネの視点です ーーー
もう、危なっかしいんだから、ナーガ。
ブランに良いところを見せようと無理し過ぎなのよ。
あなたはブランと違って、蛇体の範囲しか動けないんだから、フォローに回るべきよ。
とりあえずの窮地は救ってあげたけど、その後の動きはどうかしら?
ふむふむ。
ブランが上半分を、ナーガが下半分を受け持つ感じで攻防してるわね。
ただ、横方向に移動されるのはどうしようもないってところか。
「大地に潜む魔力の素よ。揺れよ、震えよ、鳴動せよ。
我のマナと大地と共に起き上がれ。天を突く大地と化せ。
グランドニードル」
呪文を紡ぎ、得意の土魔法を発動する。
狙いはトンボの鼻先三寸。
土の槍が数本突き上がり、トンボの真ん前に牢の如く立ち塞がる。
私は十本の足に力を込め、飛び上がる。
ザッ。ヒューンッ。
トンボの背後に来た。
クルッ。
巨大トンボが私に向き直る。私を捕らえようと、脚を広げて待ち構えている。
そうよね。あなた、後ろにも目が行くのよね。盟主様の言う通りね。
でも、私の空中での姿勢まで気を使えてないわよね。
私は飛び上がる時、人体の足に一番力を入れて姿勢を制御したの。
そう、射出口がトンボに向くように。
「くらえっ」
ビビッ、シャーァァァ。
私の蜘蛛の糸が放射状に巨大トンボに絡み付く。
ブブブッブブッ。
踠いても無駄。
私達はいくつもの種類の糸を使い分けるのよ。その糸は粘着して獲物を捕らえる糸なの。たとえ、オーガでも剥がすことは無理。
案の定、巨大トンボは全身に糸が絡まって地上に落下していく。
「三人はお疲れさんにゃ。
あとはこっちでやっておくにゃ」
あ、えーと、アヤメ様っていう人がトンボの落下地点で待ち構えている。
ドサッ。
「とうっ」
ブツンッ。
そのアヤメ様が引っ掻くように片手を振ると、巨大トンボの頭部や腹部、脚等が分断されていく。
…………私の糸ごと斬るのは良いけど、その手に私の糸が粘着しちゃわない?
あれ? おっかしいなぁ?
精巧な剣や槍でも粘着するはずなのに。
ま、いいや。討伐出来たし。
ーーー 三人称です ーーー
「ふぎゃー!
気持ち悪いにゃ」
アヤメが叫んでいるが、その視線の先は各部がバラバラに切断された巨大オニヤンマが蠢いてる。
頭部、翅と脚部が一体化した胸部、尾と一体化している長い腹部は半ばから切断されている。が、各部が未だ動いているのだ。
脚は何かを掴もうとワシャワシャと蠢き、二つになった腹部も時折ピクピクと動く。頭部などはギチギチと顎を噛み合わせている。
「ハハハ。
アヤメにも苦手なものがあったんだね。
昆虫は脳が身体の各部に分散していて、それぞれの部位の細胞が死ぬまで動いちゃうからね。
それが嫌なら、次は縦に切断するのをオススメするよ」
次郎が脳と言っているのは神経節のことで、昆虫類は概ね縦にそれが走っている。縦に切断されると神経節に大ダメージなので、蠢くことが少なくなる。
「つ、次は絶対そうするにゃ」
アヤメは次郎にすがりついているが、後鬼も次郎の腕を掴んでいる。
大妖と言えど、女性は昆虫のこういった姿は苦手らしい。
「でも、トンボは本来は益虫なんだけどね」
「ええー。
コイツ、今までの虫の中で一番厄介なやつだったにゃ」
「それはサイズの問題かな。
普通サイズなら、とってもありがたい昆虫だよ。特に僕らにとって」
「そうですよ、アヤメ様。
アヤメ様も白米はお好きでしょう?」
次郎とアヤメの会話に天狗の太郎坊が参入してきた。
「大好きにゃ。
……それとどう関係があるにゃ?」
「トンボは稲の害虫を食べてくれる益虫なんですよ。
さらに、田んぼの水で産卵しますが、幼体のヤゴは蚊の幼虫であるボウフラも食べてくれます」
太郎坊はトンボの生態に詳しいようだ。
「それは……」「それは知らなかった!」
アヤメの返事にライデンが被せてきた。
「夏のあの蚊の鬱陶しさったら無いものな。
旨い白米を守って、俺達を吸血から守ってくれてたのかぁ。
トンボは偉大だな」
ライデンはニコニコと笑ってる。
「貴方は調子良いんだから」
スミレがため息をついている。
◇◆◇
それから一行は、さらに東へ進んで行った。
道中、やはり巨大肉食系昆虫に幾度も遭遇し、次郎の指示で出来るだけやり過ごす選択をするのだが、戦闘を避けることが出来ないパターンもしばしばあった。
「本当に厄介な存在だな、昆虫ってやつは。
大樹の森の動物達よりたちが悪いな」
ライデンの言葉に椿も反応する。
「それには同意。
強さは魔熊や魔猪ほどじゃないけど……とにかく気持ち悪い」
椿も昆虫は苦手のようだ。
「うう~ん。
ここの巨大生物は、昆虫類ってより節足動物が軒並み巨大化してる感じかな」
次郎の言う通り、昆虫類の他にもムカデ等も巨大化していたのだ。
「そう言えば、西の海辺のシャコも巨大化してたな。
……もしかして、海老や蟹も巨大化してるのも居るのかもね?」
「それは朗報にゃ。
帰ったら、早速弁天に伝えにゃいと」
ゴクリッ。
次郎達の喉が一斉に鳴る。
「それはそうと、気を抜いてはいけませんよ。
巨大昆虫の中にも魔物化したものが居るかもしれません」
後鬼が一同の気を引き締める。
「そうですね。
東の森がこれだけ巨大昆虫の楽園と化していたら、中には魔物に変化するものも居そうです」
夜霧が後鬼の言葉を引き継ぐ。
「夜霧姉。
さっきから気になってたんだけど、アレってさぁ……」
「よく気付いたわね。
夜露、偉いわ」
夜霧が笑顔で夜霧の頭を撫でている。
「や、やめてよ。子供じゃないんだから」
そう言いつつ、夜露は撫でられるに任せている。頬を赤く染めながら。
その夜露が指差す先に目をやると……。
オニヤンマは昆虫類最強と吟われています。空中を飛行出来るのが大半の昆虫の中で、最高の飛行能力と視力の持ち主ですもんね。
でも、作者はあの複眼の視覚情報を処理出来る運動脳が凄いなって思います。
さて、次話は、絡新婦の夜露ちゃんが何かを見つけたようです。
お楽しみに。




