第274話 第一次湖東調査隊 その3
エスカルゴ牧場に想いを馳せていた次郎の前に、またも新たな影が!
巨大カタツムリを発見した直後、"ソイツ"が現れたんだ。
「おひょっ、おひょひょひょひょー!」
雲外鏡が上空に逃げていく。
「お爺、空へ行くとまた襲われる!」
椿の制止の声に、急ブレーキを掛けた雲外鏡。すぐにUターンして椿の後ろへ隠れる。
「す、すまん。助かる」
以前の北山調査時に上空で翼竜に襲われた経験から椿が助言したのだろう。
"ソイツ"は全長5メートルくらいありそうだ。
全身淡い緑色をしており、細長い全身に比例しての長い翅を携えている。
一番の特徴はその大きな腕…………鎌であろう。
そう、カマキリだ。
カマキリは、肉食系昆虫で有名。とにかく動くものを全て補食する攻撃性の高い昆虫だ。
その三角形の頭が、時折クルックルッと回り、こちらを窺っている。
獲物を見定めているんだ。
「カマキリは、その高い瞬発力で獲物を捕らえる。そこに気をつけて!」
カマキリの射程範囲外に居ることが大事。
「速さがウリなのね。
じゃあ、私が行こうかな?」
スミレがカマキリに近づく。ゆっくりと一歩一歩踏みしめるように。
すると、いつの間にか巨大カマキリの周りに霞が掛かっていた。
その霞がキラキラと輝く。
雪女だけが起こせる現象、ダイヤモンドダストだ。
スミレがその射程範囲に入っても、巨大カマキリは動かない。
さっきまで動いてた頭部もビクともしない。
「終わりました」
スミレがそう一言言い、そっと巨大カマキリに触れた。
バリバリッ、ガシャン。
巨大カマキリがガラスが弾けるように、脆くも崩れ去ったではないか。
さすが雪女。
瞬時に凍りつかせるとは。
これなら素早さは関係ない。
「さすがはスミレ。
そいつはおそらくメスで、オスよりも強いはずが……。
君に掛かるとオスメス関係ないね」
「アレ、メスにゃの?」
「たぶんね。
綺麗な緑色だったろ?
オスはたいてい茶褐色が掛かるんだ。
まあ、例外も居ないこともないけど」
昆虫談義もしていたい思いもあるが、ここは前に進もう。
◇◆◇
あれから結構進み、太陽も中天に差し掛かっていた。
都合よく、木々が生い茂っていない小さな広場みたいな場所を発見。
「よーし。ここで休憩を取ろう」
ランチタ~イムの訪れだ。
僕が広場の中心点に特大ビニールシートを取り出す。ここなら、いつ巨大昆虫に襲われても対処出来るだろう。
そして、後鬼が、そのビニールシートの上に不思議術でおにぎりを展開。
お茶は水筒を各自で持参しているので出す必要がない。というのも、もし何かあってみんながバラバラに分断してしまっても、水分があれば生き残り易い、という考え方から来てる。
「これは……?」
ああ、そっか。樹海の住民達はまだおにぎりを知らないか。
「これはオニギリと言うんだ。
白米を炊いたごはんの中にそれぞれ違う具が入ってる。それを海藻のノリで巻いてある。
これは親切な作り方がしてあって、中の具がわかるように頂点に同じ具が添えてあるな」
同じ原住民のライデンがわかりやすく解説してくれてる。
「弁当と言ったら、だいたいコレだな。
見慣れないだろうが、安心して食いな。旨いから。
それに、何て言ったら良いのか、回数重ねるほど旨く感じる、ちょっと不思議な食べ物でもある」
ホント、解説上手だな。
「あら、私の作るおにぎりが不親切みたいでごめんなさいね!」
「いや!
……ツバキ、助けてくれ!」
「言葉は適切に使うもの。
自業自得」
ハハハ。スミレもライデンの前では感情豊かになって良いね。
「宿泊所で白米はよくいただいております。
淡い味わいですが、噛んでいるとほんのりと甘く感じられるので好きです」
「本当に不思議なのよね。
最初は『なぁんだ』とか思っちゃったけど、おかずがあるとなぜか食べたくなっちゃうのよね、この白ごはん」
「そうそう、『ミソスープに入れても旨いぞ』って言われて真似したら……ヤミツキになっちゃったわ」
樹海の住民達にも白ごはんが受け入れられて安心した。
「!!!」
突然、鳥人のブランが目を白黒させてる。
「すっっっっぱぁーーーい!」
ハハ、梅干しはちょっと早かったか。
蛇人間のナーガと蜘蛛人間のフラウローネの方は……。
「ブラン、情けないですよ。この程度で」
「酸っぱいけど、それが良いんじゃない。
中の具と白ごはんのマリアージュがとても良いわ」
女性陣は平気と。
さて、みんなの食事も終わったね。
では、再出発と行こうか。
ーーー 鳥人ブランの視点です ーーー
オニギリなる料理も食べ終わり、再び探索が始まった。
あのウメボシとやらには驚いたが。
ウメという植物の身を加工したものだということだが、樹海にあるどの植物よりも酸っぱい。この森の先人達はよく食べようと思ったものだな。
それにしても、大樹の森の住民達は誰しもが強い。
樹海では、蛇人間、蜘蛛人間、オーガが三強と呼ばれていたが、比べ物にならないほど。
未だに、我らの良いところを示すに至らず。
私は、タロウボウ殿と交代で空中偵察を時々行っているが、ナーガとフラウローネが活躍を見せられず、少しイラついているようだ。
二人は、巨大アリや巨大カマキリと遭遇した際、いずれも動こうとしていたが、大樹の森の住民の方が速く動いていた。
タラレバだが、どちらの敵も二人なら単独で狩れると思う。
ただ、大樹の森の住民は、初見のはずの敵に最適な行動を起こしていたのが凄い。
どんな優秀な狩人でも、初見の獲物は一旦様子を窺うものだ。
ジョロウグモと言う種族の方々は、まるで対処がわかっていたかのような動きだった。
ユキオンナと言う種族の方は、盟主様のたった一言で弱点を突いていたようだった。
フェニックス様……ヤタガラス様が仰っていたように、大樹の森の住民は百戦錬磨の猛者の集団であることが十分にわかった。
驚いたことに、タロウボウ殿以外のここに居る全員が軍人ではない、とのことだ。
戦争になれば従軍することもあるそうだが、普段は食品を開発したり、飼育係だったり、とのこと。
驚くことばかりだ。
空中偵察をしていると、何かがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
ブブブブブ。
あ、ハチだ。でかい!
こちらも空中で羽ばたきながら、槍を構える。
「巨大なハチが接近中。
注意されたし」
地上の仲間達に警告しておく。
「彼我の距離は、約300メートルほど」
加えて、盟主様への報告も忘れない。
盟主様は知略に優れている方と見た。そういうタイプは情報はあればあるほど良いと思う。
うん?
ハチが丸みを帯びている。
ミツバチだろう。
「すみません。ミツバチでした」
ミツバチは、こちらから仕掛けなければ攻撃性は低い。樹海でもミツバチの蜜はよく獲ったものだ。
「一応警戒してやり過ごそう。
ブランも降りてきて」
「はい」
と返事をしてる間に、状況が一変した。
巨大ミツバチの後方から近づく者が居た。ミツバチよりも速い。
そいつは、空中でミツバチを捕まえ、あっという間に肉だんごに変えていた。
非常に厄介な相手、スズメバチだ。
おいおい。
肉だんごを抱えたままこっちに来る気か?
餌はそれで十分だろうに。
そのスズメバチも大きい。
ミツバチは体長1メートルほどもあったが、スズメバチはその3~4倍ほどもある。
「緊急事態です!
巨大スズメバチが巨大ミツバチを攻撃。一瞬で討伐してしまいました。
その巨大スズメバチは、こちらを認識した模様」
やむを得まい。
「ここで迎え撃ちます」
私も樹海の住民。その力量をお見せする。
「わかった。
決して無理はするな。
ブランも知ってると思うけど、スズメバチの顎と毒針に気をつけて。
その毒針は、ミツバチと違って何度も刺すことが出来るから」
ハハ、盟主様はスズメバチの生態にもお詳しいようだ。
毒針には気をつけたいが、あの顎が要注意と見た。
空中でミツバチを捕まえる俊敏さと、あの一瞬で肉だんごに変えてしまう強力な顎の力を持っている。
身体能力だけでは不安が残るが……なあに、私には種族特性がある。
「大地を覆う大いなる風よ。我に集い新たなる風を産み出せ。我のマナを食い、煌めきを増せ。
今こそ発現せん。
ウィンドカッター!」
得意の風魔法で巨大スズメバチを攻撃する。
ヒュンッ。
私が発動したウィンドカッターが目標に向かって飛ぶ。
ガキィン、バキッ。
狙いが正確過ぎて、ウィンドカッターが顎に当たって噛み砕かれてしまった。
ふむ、相当頑丈らしい。
だが、ウィンドカッターは単発ではない。同時に複数発動させている。
バシッ、バシュッ、シュシュシュン。
それらが巨大スズメバチの翅を、身体を、手足を切り裂いていく。
よし、全弾命中した。巨大スズメバチが落下していく。
そのままでは、地上に居る仲間達が危険かもしれない。高速で目標に近づく。
バサッ、ヒューンッ。
ガシッ、ザクッ、ブツン。
何っ、ナーガか!
「ダメよ、ブラン。頭も斬り離さなきゃ。
ヨギリ様達もやってたでしょう?」
私が目標に届く寸前、ナーガが蛇の身体を伸ばし、空中で槍で巨大スズメバチの頭部と腹部を切断していた。
いや、今やろうとしていたのだがな。
まあ、君も良いところを示せて良かった。愛しい人よ。
「いや、すまなかった。
君が居てくれて良かったよ」
「うふふ。
貴方の足りないところはいつでも私が埋めるわ」
「きーっ。
私は良いところをお見せ出来ないじゃない!」
あ、フラウローネ。フォローしてあげたいが、君は身体能力的に今のは難しいんじゃないか?
そして、再び新たな影が空からやって来た。
今度は、フラウローネにもチャンスがあると良いが。
「ブラン!
ソイツとは空中戦は決してするな!」
盟主様の警告が飛んだ。
やっぱり出ましたね、巨大カマキリ。巨大昆虫ワールドの世界観には登場させない訳には参りません。……雪女のスミレが呆気なく退治しちゃいましたけど。
巨大スズメバチも元樹海の住民達があっさり。
だって、仕方がないんですよ。
今回のパーティー編成がバランス良すぎて、こうなっちゃうんですよ。……やるな、週間定例会議よ。
さて、次話は、次郎が強い警告を発する相手との遭遇のお話です。
お楽しみに。




