第273話 第一次湖東調査隊 その2
早速、トロナ鉱床を発見出来てウキウキな次郎。
さて、次はどんな未知と遭遇するのだろうか?
湖東調査に赴いた僕達。
未開地に入った途端、幸運なことに、トロナ鉱床を発見出来た。
トロナは鉱物として採掘でき、それを薄めた水で小麦粉を捏ねて作られる麺は、弾力が出て、淡く黄色に色づく。
これが中華麺になるんだ。
これで、大樹の森の都にまた新たな食文化を生み出すことが出来る。
夢は膨らむ一方だが、いつまでもここに居る訳にもいかない。
後ろ髪を引かれながら、トロナ鉱床をあとにする。
さらに東へ進むのだ。
「鈴木次郎様、空中を舞う昆虫が増えてきました。
詳細な報告が難しくなります」
上空から天狗の太郎坊からの報告だ。
「オーケー。
太郎坊も地上に降りてきて」
「はっ」
ふぁさっ、って感じで綺麗に舞い降りる太郎坊。
「どんな種類だった?」
「蝶類がほとんどでしたが、蜂も見かけました」
「ミツバチ? スズメバチ?」
「両方居ました」
そっかぁ。
ミツバチは巣に近寄らなければ大丈夫だけど、スズメバチは厄介だな。
スズメバチは様々な生物を補食するハンターだ。気をつけなければならない。
「たまにで良いから、上空から偵察しておいて」
「了解しました」
トロナ鉱床から遠ざかると、周りの植物も生い茂ってきた。
「次郎様、ストップにゃ」
アヤメが僕の前に立ち塞がる。
彼女の感知能力は高い。ここは素直に言うことを聞く。
そして、前方の茂みをじっと見つめている。
ガサッ、ガサガサッ。
葉擦れの音が聞こえる。
みんなも腰を低い姿勢にして、いつでも動ける構え。
前方の茂みから、なにやら棒のようなものがヒョコヒョコと動いているのが見えた。
おそらくは触覚。
"ソイツ"が茂みから顔だけを出した。
アリだ。
これも巨大だ。全長3メートルくらいはありそうだ。
目が合った。
その複眼で僕らを認識しただろう。
「すぐさま殺せ」
僕が命じると、夜霧と夜露が素早く駆け寄り、夜霧が頭部を夜霧が腹部と脚を全て切断した。
「ソイツは探索アリだ。
近くにもう2~3匹居るかもしれない」
僕が言い切る前に、徹夜が木々を三角蹴りの要領で跳び回り、前方の茂みに消えていった。
さほど時を置かず、徹夜が戻ってきた。
「二匹居ましたが討伐しました。
周辺にはもう居ないようです」
徹夜が僕に報告してくれる。
「ちゃんとバラバラにした?」
「もちろん。
夜霧姉さんと同じように切断しましたよ」
「なら良し。よくやったわ」
徹夜は夜霧に褒められて嬉しいようだ。ずっとニコニコしてる。
「ご苦労様。
目撃されたアリを巣に戻してしまうと大変なことになるところだった。
働きアリが餌を発見すると、襲うよりも先に巣に帰還してしまうんだ。
ただし、その道程にフェロモンをつけながら」
「ああ、それで他のアリ達が餌までたどり着く訳にゃのね」
「そう、大量のアリがね」
そのフェロモンをたどってアリが餌までの一本道を作るんだよね。
フェロモンの揮発は早いけど、そこを通るアリ達がまたフェロモンを分泌していくから、目的地から餌が運ばれて無くなるまでは効果は持続する。
このメンバーなら、単独でこの巨大アリを複数討伐出来るだろうけど、一度に数百匹数千匹の巨大アリの集団はさすがにキツイだろう。
巨大アリは群れる前に処理するのが一番良い方法だ。
「鈴木次郎様。
ここはウチの子達の良い餌場になると思います。
一度ご検討をお願いします」
ああ、夜霧が言ってるのは魔蜘蛛達のことだね。
彼らの食事は週に一度くらいのペースだったな。
それくらいなら、大樹さんに転移門を開いてもらえればイケルか。
「前向きに検討しておくよ」
「「「ありがとうございます」」」
夜露や徹夜も同じことを考えてたんだな。
巨大アリと遭遇してからしばらく真東に進んでいたが、また逢った。逢ってしまった。
今度は大量のアリの群れだ。
「盟主様、お下がりください」
「ここは我らが……」
「少しは良いところをお見せしなければなりませんね」
樹海の三種族の族長達だ。
「いや、ちょっと待って」
構えてたみんなを抑える。
大量のアリが居るんだが、彼らは綺麗に一本道を作っている。
どうやら餌を目指しているようだ。
「フェロモンに惹き付けられているようだ。
ここは無視しよう」
巨大アリの行列が行く道を塞いでいるが、横幅は一匹分の幅しかない。これくらいなら、ジャンプすれば問題ないだろう。
後鬼が最初に跳んで、列の向こう側から手を振って安全だと伝達してくれた。
続いて次々とみんなで巨大アリを跳んで跨いでいく。
「彼らは複眼でわたし達を認識してるでしょうに、こちらには一切来ませんね」
椿の言う通り、彼らも僕達を認識はしてると思う。
けど、それ以上に仲間が出したフェロモンの方に強く惹き付けられているのだろう。アリの本能が強く出ている証拠だ。
「次郎様は、本当に博識ですね。
竜だけでなく虫にもお詳しいとは。素敵です」
椿は褒めてくれるけど、男子ってのは子供の頃に、恐竜と昆虫に興味を持つものなんだ。
日本男児では当たり前なんだ。
『次郎様は、本当に変なところに詳しいですよね』
「変わり者にゃ」
何、君たち。馬鹿にしないでくれる?
健康優良児なだけなんだけど。
「このアリ共は、バッタの死骸に群がっている様子でした」
太郎坊が確認してくれたようだ。
「そのバッタは……」
「大丈夫です。
通常色をしていました。相変異は起こしていません」
良かった。
前みたいな事件(第47話)はコリゴリだ。
前に進もう。
しばらく歩いていたが、遭遇するのはダンゴムシなどの無害なばかりで良かった。
あ、ちなみにダンゴムシは草食という訳ではない。草木も食べるが、死骸も食べる雑食性だ。
ただ、肉食オンリー系昆虫とは違って攻撃性が低い。
ここの昆虫類は皆巨大だ。
原住民のライデンにも聞いてみたが、これ程巨大な昆虫は他では見ない、とのこと。
まれに魔蜘蛛や魔蠍のように、魔物化したものは居るが、ここの昆虫類のように魔物化しないで巨大化したのは見たことも聞いたこともないそうだ。
「その割には落ち着いてるよね。
ライデンも初めての遭遇なんでしょ?」
「大樹の森だから、こういうこともあるんだろうなって思ってるだけですよ。
まあ、俺も大樹の森の住民になったってことなんでしょう」
ライデンは冒険者として有名人だから、色々な場所に行って様々な経験を積んできたのだろう。
落ち着きがある。彼を調査隊に入れて良かった。
途中、森の木々に貼り付いてるカタツムリも見かけた。
彼らも巨大化しちゃってるんだぁ。
カタツムリは昆虫じゃなくて貝類の一種なんだけどね。
「…………」
「どうしました?
何かありました?」
椿が心配そうに僕を窺う。
『心配ないですよ。
次郎様のことだから、あのカタツムリが食べられるかどうか考えてるだけでしょう』
サトちゃん、鋭い。
「やっぱりにゃあ。
次郎様の頭の8割は食べ物で占められてるもんにゃ」
サトリ、後鬼、アヤメが笑ってる。
生前の日本全国に展開してるレストランチェーン店で食べられたんだよね。エスカルゴ。
あれは安くて旨かった。
エスカルゴって、高タンパク、低脂肪、低炭水化物であり、鉄分やマグネシウムなどのミネラルが豊富なんだ。
大樹の森の都にエスカルゴ牧場を作るのも悪くない考えだと思う。
野生のカタツムリは、病原菌や寄生虫に気をつけなければいけないけど、養殖すれば安全になる。
最初のカタツムリは、雪女に凍らせて寄生虫を排除し、スライム達に這わせれば細菌類も退治出来ると思う。
よし、今回の調査隊の二つ目の発見だ。
順調♪順調♪っと思ってた矢先、"ソイツ"が現れた。
大型昆虫との初戦闘はアリでした。
アリが巨大化してると怖いですよね。群体として認識しなければなりませんものね。
そうこうしてる内に、新たな食材を発見。
次郎の思考がそっちに向いてるから、こうなります(笑)。
そして、また新たな影が!
さて、次話は、その影との遭遇のお話です。
お楽しみに。




