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第272話 第一次湖東調査隊

 東門に集う者達が居る。

 第一次湖東調査隊の面々だ。

 どのような発見があるか?

 大樹の森の都、東門。


 さあ、やって参りました。

 第一次湖東(ことう)調査隊の出陣です。

 メンバーは定例会議で決まった通り、僕、後鬼ごき、アヤメ、付喪神つくもがみ雲外鏡うんがいきょう、天狗の太郎坊、雪女のスミレ、雪娘の椿つばき絡新婦じょろうぐも夜霧よぎり夜露よつゆ、大蜘蛛の徹夜てつや、エルフのライデン、鳥人のブラン、蛇人間(ラミア)のナーガ、蜘蛛人間(アラクネ)のフラウローネの総勢14名。

 バリエーションに富んだ構成だ。

 このメンバーなら様々なことに対応出来るだろう。

 そして、最後にもう一人。

 サトリだ。

 彼女は僕からお願いして同行してもらった。


「アヤメ。

何かあった時は貴女の結界術を頼りにしています」

「はい、お義母様。お任せあれにゃ。

でも、にゃんでサトリも入ったのかにゃ?」

『私もよくわからないんですよね。

次郎様から頼まれれば、当然お請けしますけど……何ででしょう?』

「まあ、次郎のいつもの"天命の采配"ってことなのでしょう。

私達は素直に受け止めるだけだわ」

 ん~、僕本人にもよくわからないんだよね。

 何か足りないっていう思いが募ってて、サトリのことを考えたら、「カチッ」とピースが填まる気がしたんだ。


夜霧よぎり姉さん、宜しくお願いします」

「……お、お願いします」

「あなた達、少しは成長してるんでしょうね」

「そ、それはもう……」

「今なら夜霧よぎり姉とだって良い勝負出来るわ!」

「ウフフ、楽しみにしてるわ」

 絡新婦じょろうぐも組も盛り上がってるね。


「良い? フラウローネ。

今日は私達で良いところをお見せするチャンスよ」

「わかってるわ。

新参者の私達もここで活躍すれば、一族のここでの生活もぐっとしやすくなるわ」

「ならば、連携も取らなければな」

 樹海の三種族も連携を取るようだ。良いことだね。


「あ……お爺。

わたしのこと、推薦してくれたって……。

あ、ありがと」

「ん?

まあ、なんだ。

蒙古斑が取れてる証拠を見せよ、ってことだわな」

「だから、わたしに蒙古斑は無いっての!」

「おひょひょひょ~」

「ホント、二人は仲良いわね」

「「良くない!」」

 雪女組と雲外鏡うんがいきょうとチームか。まあ、仲良さそうで何より。


「みんなー。

ちゅもーく!」

 みんなに呼び掛ける。

「これより、大樹の森の湖より東側の調査に向かう。

 知っての通り、湖より東側は未開の地だ。どんな危険があるのかわからない。戦闘になるかも知れない。

そんな時はみんなで助け合うこと。

何かを発見しても、触れずにまずは報告すること。

これを守って欲しい」

 一人一人みんなの顔を眺めながら言う。

「あと、張り切り過ぎないこと。

大樹の森の自然は極力傷つけたくないからね」

 もう一言。

「合言葉は命を大事に、だ」

「「「はい」」」

 威勢の良い返事だ。

「太郎坊」

「はっ」

「転移したら、まず制空権を獲って欲しい」

「了解しました」

「大型の昆虫類が居るらしいから、気をつけて」

「承知」


「出発!」

 掛け声と共に転移を発動する。


◇◆◇


 まずは、湖の最東部に転移した。

 ひい、ふう、みい……よし、全員揃っているな。

 天狗の太郎坊が上空に舞い上がる。

「鈴木次郎様、東南100メートル先にひと、真東200メートル先にふた、大型昆虫を発見」

 上空からの報告だ。

 太郎坊が早速見つけたようだ。

「種類はわかる?」

「あれは……おそらく蝶の一種と思われます」

「わかった。

警戒はしつつ、とりあえずは無視で良い」

 生態はまだ把握してないけど、たぶん草食。

 飛蝗ばったの時と違って、今回の目的は調査だ。襲って来なければむやみに攻撃することも無いだろう。


「よし、まずは真東にまっすぐ進もうか」

 ここから北東南のどちらへ進んでも鬱蒼とした森が続いてるから、東から攻めていこう。


 しばらく歩き続けると、やや下り坂になっていた。

 峡谷でもあるのかな?

 いや、そんな報告は無かったはずだが。

 だんだんと樹木の比率が下がってきた。

 もう、木がまばらにしか生えていない。

 当然、視界が開けている。

 なるほど、池があるんだ。

 中央に小島がある池の出現だ。


 池のほとりに到着してみると、そこには異様な光景が広がっていた。

 中央の小島に大型の蝶がつどっている。

 池の水を飲んでいるようだ。


「綺麗にゃ」

「サイズを無視すればね」

 そう言うスミレの目がキラキラしているような? ほら、ライデンが蝶を無視して、そんなスミレばかりを見つめている。

「とりあえずの危険は無さそうですね」

 夜霧よぎりの声だ。

「ダメよ、夜霧よぎり姉。ここは異世界なんだから」

「そうですよ。警戒はしてないと」

 夜露よつゆ徹夜てつやが嗜める。

「ふふ。

あなた達がそういう性格で助かるわ。

私はイケイケで進んじゃうタイプだから」

 知ってるよ。烏天狗からすてんぐから逸話をいっぱい聞いてる。

「仕方ないにゃ。あやかしは基本的にそんにゃ性格にゃ」

 それも然り。


「蝶ってのは花の蜜以外も吸うんだな」

「ライデンは無学。

蝶々は色々なものを吸う。液体がほとんどだけど」

 椿つばきが言うことが正解。

 蝶の中にはアブラムシの出す蜜を吸うものやアブラムシそのものを食す半肉食のものも居る。

 あ、蝶が蜜以外で摂取するといったら?


 僕は駆け出し、池の水を手のひらで掬ってそれを口にしてみる。

「あ、次郎!

もしも毒だったらどうするの!」

 後鬼ごきのお叱りが飛んできたが、今はそれどころではない。


 池の水を口に含んだだけで、その場に吐き出す。

 やっぱりだ。

 この水にはナトリウムが含まれている。

 辺りをキョロキョロ見渡してみる。

 たぶん間違いない。


「ここ、トロナ鉱床だ」

「「「???」」」

 みんながポカーンとしてる。

「水酸化ナトリウムだよ。

かん水の素!」

「「「!!!」」」

「「「???」」」

 気づいた者と何それって者に分かれた。

「こら、アヤメまでワカランチン組に入ってどうする。

アヤメはラーメン好きじゃないの?」

 アヤメが頭にハテナマークをつけてるのがモロわかりの顔で首を傾けていたが、「ラーメン」という単語で目を大きく開いてた。

「好きにゃ! 大好きにゃ!」


「アヤメちゃん、ちょっと情けない……」

 高校の同級生の夜露よぎりが肩を落としていた。

「鈴木次郎様!

ラーメンが、ラーメンが食べられるのですか?」

 徹夜てつやが迫ってきた。

 顔が近い! もう2~3センチでチューが出来ちゃうぅ!?

「も、申し訳ありません。

愚弟が失礼致しました」

 夜霧よつゆ徹夜てつやをドウドウと抑えている。

 ポカッ。

 あ、頭をはたかれてる。

 いや、徹夜てつやの気持ちもよくわかるよ。

 

 元は中国発祥の拉麺ラーメェン

 それが日本で独自に進化し続け、日本各地でそれぞれ特徴あるご当地ラーメンに発展。

 今や世界中で愛される日本料理として確立されている。


 大樹の森の都でも、パスタやうどんなどの麺類を製造しているが、ラーメンは断念した。

 かん水が無いからだ。

 灰を使った方法もあるが、大量生産に向かないんだ、あれ。非常に手間が掛かり過ぎる。


 だが、神様は僕らを見放してはいなかった。

 管理者様、大樹さん、ありがとうございます。


 これで今回の調査も大成功だな。

 もう帰っちゃおうかな?

 その時、背中に鋭いモノが刺さったような気がした。

 ゆっくりと振り返ると、後鬼ごきママの視線が突き刺さった!

 いや、後鬼ごきはニコニコと笑ってる。一見ね。

 端から見れば、母親が愛息子に慈愛の目で見つめてる風に見えているのかもしれない…………だが、僕は知ってる。

 この視線にさらされた途端、表皮の温度がぐぐっと下がるんだ。まるで、裸で雪山に放り込まれたような錯覚を起こす。


 ちょ、調査を再開しよう。


~~~ 余談 ~~~


「スミレ。

申し訳ないけど、君たちを忙しくさせてしまいそうだ」

「いいえ。

今は食品開発研究所となっていますが、調味料研究所がスタートなんですもの。

むしろやりがいがありますよ。開発すべきラーメンのバリエーションは豊富ですし」

「うん。

基本のスープの仕込みは僕も協力するよ」

「うふふ。

鈴木次郎様がいらっしゃる時は三人娘もくっついて来るから、人手も足りてありがたいですわ」

 微笑むスミレを陶然と眺めている次郎がそこに居た。

「スミレお姉様!

むやみに微笑まないでください!」

 そこに椿つばきが割り込む。

「いやあね。術は使ってないわよ」

 雪女は総じて美女が揃っている。

 普段が無表情で誰しも冷たい印象を抱くが、表情が和らいだだけで魅了されてしまう。いわゆるギャップ萌えに取り憑かれてしまうのだ。

「それでも危険なんですぅ。

ほら、次郎様。こちらへ参りましょう」

 椿つばきが次郎の手を引いて、アヤメの方へ歩き出す。

「あ、ああ。スミレ。

あまり他の男に微笑まないでくれると嬉しいが……」

 そう注意するライデンの頬が赤い。

「うふふ。

ライデン、嬉しいことを言ってくれるのね」

 スミレとライデンは見つめ合う。


「でかしたにゃ、椿つばきちゃん」

椿つばき、よくやりました』

「わたし、ぐっじょぶ、でしたか?」

 サトリとアヤメに褒めそやされる椿つばきだった。

 第一次湖東調査隊がその一歩を踏み始めました。

 そして、その第一歩で次郎が喜ぶ出来事が。

 かん水の素の発見で、大樹の森の都の食文化がまた一段と発展していくでしょう。

 ラーメン屋で有名どころは日本各地にありますよね。そこで、読者の皆さんが名古屋に最寄りの際におすすめを一つ。

 「麺屋はなび」や「味仙」のように全国的メジャーではない地元のラーメンチェーン店に、「ラーメン福」と言うのがあります。店舗数もチェーン理論のぴったり11店舗。(「味仙」は中華料理屋で正確にはラーメン屋ではありませんが)

 ここは、ストレート中細麺で、トッピングされているもやしとほぼ同じ太さ。食感も楽しめます。

 肝心のスープはさっぱりとした背脂醤油。最初、『ふーん、こんなもんか』と思っちゃいましたが、数日すると何故かまた食べたくなる味。

 一度、ご賞味あれ。


 さて、次話以降もしばらくこの調査隊のお話が続きます。

 お楽しみに。

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