044_蛙ちゃんの食べ過ぎに対する御用心。
「無限に増える食糧ということではないでしょうか?」
首のある姿で嬉しそうに小首を傾げながら笑う蛙姫こと、ナダ姫でございます。
「いやちょっとこの状況から食欲につなげるのは、
乙女としてどうなのでしょうか?」
冷静に、突っ込みを入れるのは、
顔に傷のある色眼鏡侍女さんです、いつもの。
分散して無数に分かれた、
黒っぽいなめくじが、
姫様を取り囲んでいます。
正確には逃げきれないので、蛙姫様に向かっているのですが、
黒なめくじの外側には、無数の、げこげこなく、
蛙の集団がその退路を塞いでいるのです。
怪異の気配を感じた姫様、
学校帰りの黄昏時、
おそらく何か後ろ暗いことをしようとしている、
なめくじ一党の、雑兵というか、
援軍というか、
別働隊か本隊かは、知りませんが、
こちらと行き合ったのは、
「幸運ですね、神様はちゃんと私を観ているようです」
綺羅綺羅とした光る目で、舌なめずりをするという、
それで良いのか、結構いいとこのお嬢さんですよね、
ああ、それで良いのか、結構いいとこのお嬢さんだから、
恥とか感じるような神経がそもそもないのか、
と納得してしまっている、侍女さんです。
「不幸ですね、こう、逃げられない災厄とは」
侍女さん、迫り来るなめくじを、
丁寧に、払い清めながら、ため息ひとつ、
持っているのは、箒でありまして、普段のお掃除に使用している、
一品です、返り血でちょっと暗めに装飾されている種類のそれです、
切れ味鋭い箒って、どういうものなのでしょうか?
「適度にまとめてくださると、
食べやすいので良いです」
じゅるりというよだれの音を隠さなくらい、
素直に食欲に忠実な、姫様です。
「いいんですか?
食べちゃって?
なめくじ一党を刺激しませんか?」
忠告をするけれども忠臣ではない侍女さんです、
「大丈夫でしょう、どうもどこかで後ろ暗い案件を抱えているようですし、
面と向かって非難する筋が見えませんわよ、
さらにいうと、うまくこちらに取り込んだので、
本体とのつながりが切れているようですし、
何が起こったのか、起こっているのか、
わからないまま、ことが進みそうですわ」
ぐるりんと、目を動かして、変身術を解いて重ねて掛ける姫様です、
そこには、ちょっとした家くらいの大きさの、
綺麗な緑色をした、雨蛙が、姫様の場所と取って代わって、
現れます。
「あー、いつもながら、でっか可愛いですね」
ひょいっとその大雨蛙の後ろへと退避しながら、
容姿を誉める侍女です。
げこげこと嬉しそうに、それに応えながら、
いやまあ、美味しくて、さらに、滋養になる、
神としての格が多少なりとも上がる、
食事が楽しくて、
げこげこ と
笑いながら喰らう、
蛙姫様でございました。
同時刻に襲撃?襲撃ではあるのか?
にあっていた、蛇くんへの、
増援を、
気せずして潰して、
姫様ご機嫌に、ぱくぱくした、のでありました、
とさ。
かえるちゃんの食べ過ぎに対する用心としては、運動必須というお話でした。




