八十九話
黒塗りの車は鈴ヶ森学園からやや離れたところに止まった。
「ご苦労だった、堀之内」
「ありがとう、堀之内さん……って、ええっ!」
「なんだ、うるさいぞ」
「堀之内って、つまり、ホリーのおじいさん?」
老紳士はレイジに丁重な礼をする。
「孫から話は聞いております。大変世話になっていると、大層な喜びようでした。これからもよろしく願いしますぞ。では、スミカ様。私はこれで」
「うむ」
レイジがぽかんとしている間にするりと運転席に乗り込むと、老紳士の操る黒塗りは走り去ってしまった。
スミカは早くも学園に向けて歩き始めている。レイジはそれに追いつくと、納得したようにうなずいた。
「なるほど、それでホリーはスミカと一緒にいるんだ」
「レイジ、勘違いをしているな。父の話では堀之内は代々鶴来に仕えてきた家系だそうだが、堀之内マンサクが学園で私と一緒にいるのは別の理由だ」
「別?」
「堀之内は自身のスキルを磨くために一等級学園に入学したのだ。そのために、学園内でこの人はと思える人物を見つけそれに仕えなさいと、祖父から言われていたらしい。私のところに来たのはたまたまの偶然……いや、堀之内の見る目があったということだな」
自分で言っていて恥ずかしくないのだろうか。凡人には言えない台詞だ。だが、それを違和感なく言ってのける。これがスミカだ。
「だから、堀之内は私が鶴来だというのを知らない。むやみに伝えるんじゃないぞ」
「わかったよ」
学園に到着するとちょうど昼休みの時間だった。食堂やそれぞれの昼食スポットに向かう生徒たちで学園内は入り乱れていた。
「みんなはどこかな?」
「おそらく食堂だろうが、入れ違いになるとよくない。部室を覗いてから向かうぞ」
物置同然の部室には誰もいなかった。
スミカと最初の出会いはほとんど不意打ちで、まともに正体もわからないまま気絶したっけ。目を覚ましたのはここだったな。奴隷になるのに反発して部屋を飛び出しもした。苦笑。
つい最近の出来事のはずだが、なんだか懐かしくさえ思えた。
お昼時の混雑の中でもキョウの容姿は目立った。そのおかげでレイジたちは食堂にいるスレイ部を難なく見つけることができたのだ。珍しくアンリの姿もある。
「スミカ様がいらっしゃいました」
真っ先に気づいたのは堀之内。
「おースミカ様。いいタイミングだね。ちょうど食べ始めるところだよ」
「私が持ってまいります。行きましょう、レイジくん」
今日の献立は親子丼とほうれん草のおひたしらしい。
レイジは堀之内と共に料理を注文しに行った。堀之内が耳元で、
「お帰りなさい、レイジくん」
「ああ、ただいま。ホリー」
ニッっと笑い合う。男の合図だ。
そう。出かけていたことはレイジとスミカ、そして堀之内しか知らない、三人の内緒なのだ。
「レイジ、隣に来いよー」
キョウが隣の席をバンバンと叩くので、レイジはお盆を持ってそこに座った。
いただきます。
何気ない、いつも通りの昼食が始まった。




