八十一話
「私は学園に入ったとき、ひとつルールを決めた。他人の力だけで物事を解決しないというルールだ。だが、この問題に直面したとき、そうも言っていられなくなった。学園の機能が損なわれるだけでなく、笠舞はこの件を自分の失態のように気にしている。なりふり構わず解決しなければならない」
「どうやるんだ? 俺が協力できることなんだろ? だから呼んだんだ」
「余計なことを言ったり、大げさに驚いたり、はしゃいで走り回ったりするな。つまり、黙って静かについてくればいい」
「えー」
「えーではない。大事なことなのだぞ」
「でも、何をするか俺も知っていた方がスムーズだよ。詳しく教えてよ」
スミカはすぐに言葉を繋がなかった。教えようかどうか迷っている。
「……全ては到着してからだ」
だが、やはり伝えないと決めたようだった。
「納得していない顔だな。そうだな……大筋だけは教えておこう。脅威となる力があるのなら、同じだけの力をぶつけてやればいい。数日の間、私が学園を留守にしただろう。実はこうなることを予測し、事前に約束を取り付けに行っていたのだ。案外時間がかかってな。お前たちには負担をかけた」
スミカは〈学園破り〉の相手が龍晃学園だと気づき、その中に俵屋センゾウがいると直感した。センゾウが絡むなら、お金が絡む。〈学園破り〉に勝利しても、お金の部分は取り戻せないと最初から睨んでいたのだ。
レイジはここ数日のスミカの行動に合点がいくと同時に、彼女の優れた洞察に感服した。
それと同時に、そこまで見通しているスミカが頑なに内容を明かしてくれないのは、なんだか見くびられているようだ。レイジは不満に感じてしまう。
静かにしていろだって。それって、俺じゃなくてもよかったんじゃないか。重要な仕事を任されるのかとドキドキしていたが、むしろ重要でないから俺が選ばれたのでは? そうだよ、ホリーの方が何にだって適任だ。わざわざ俺を選ぶ必要なんてない。そうなると、誰でもよかったんだ。ちぇー、面白くないなあ……。ぶー。
ちょっと、ふてくされてしまうよ。
「今日、出てきたのは、約束の条件をこちらが整えたと示すためだ。だが、レイジの行動次第でそれがご破算になるかもしれん」
むむ!?
レイジは事の重大さをスミカパンチで換算した。ぴぴーっ、ぴっぴ! 出ました、推定十四発です!
……耐えきれるわけがないでしょう? 低く見積もっても、体力の最大値、その五倍分を楽に持っていかれる。人生の残機は常にゼロ。従わなければゲームオーバー確定である。
だが十四スミカパンチともなると、とても重要な役割じゃないか。レイジのむくれ気分はぱっと晴れた。切り替えの速い男である。
「わかった。静かにしてるよ」
「そうだ。静かに礼儀正しくしていればいい」




