八十二話
これ以上は何も話してくれなさそうだったのでレイジは窓から風景を眺めた。
葉の茂りを整えられた植木が等間隔で並んでいる。こういうのって手間がかかるんだろうなと思っていると、車が止まる。前方には翼を広げたツルの造形をあしらった大きな鉄柵門がある。どこかで見たような形だ。門柱には〈鶴来〉の文字。
しばらくすると門がキィと開いて、車は再び道路を進み始めた。前方には遊園地のアトラクションだろうか、大きな建物が見えた。
レイジは勘違いしていた。これは道路じゃない。とんでもなく広いが、ここは庭だ。車内からざっと見渡しただけでは端が見えないぐらいの広大な敷地が広がっている。優に鈴ヶ森学園が収まるのではないだろうか。
円形の造園を回り込んだとき、レイジはもう一つの勘違いに気づいた。近隣にある遊園地の施設かと思っていたものは、この敷地に立つ巨大な家だったのだ。
広大な庭、威圧感さえ覚えるような立派な家。これ以上の説明は必要なかった。お金持ち……それも超をずらりと眼前に並べただけでは足りず、さらに視界の奥行きを埋め尽くしてもまだ表現できないぐらいの、とんでもないお金持ちだ……。スミカはここに住むリッチマン、あるいはウーマンに援助を頼んだに違いない。
スミカの主人という立場からすれば、人の力に頼っただなんて大きな声では言えない。お金となればなおさらだろう。
だんだんと話が見えてきたぞ。
車は建物の正面で止まった。老紳士がドアを開けてくれる。
「ありがとう」
スミカの言葉に彼は深く頭を下げた。どこかで見たことがあるんだよな、この感じ。
レイジも紳士にお礼を言ってスミカに続く。
レイジは家を見上げた。でけぇー。西洋風だが、所々に和のテイストが見られる。大きさはともかく、金ぴかに飾ったりしないところに本物のお金持ちっぽさを感じる。
「キョロキョロするな。ここからは……」
「静かに礼儀正しく、だろ」
「ならいい。行くぞ」
初めてのラーメン屋にも一人で入れないレイジなら怖気づいてしまうところだが、スミカは実に堂々と、自分の家のように扉を開けた。
中は広いエントランスになっていた。メイドと思われる女性たちがずらりと並び、一斉に礼をした。メイドはこれだけでないらしい。シーツをワゴンに乗せた女性が通りかかり、レイジたちに気づき会釈すると慌てて廊下の奥へと消えて行った。
なんだか申し訳ないような気持ちでレイジは頭を下げたメイドたちの間を進んだ。スミカはというと全く動じていない。今さらだが、何者だ一体。




