三十九話
予報通り、天気は快晴。気持ちのいい陽気だ。
レイジはぐっと伸びをすると、学園前のバンへ向かった。
すでにスレイ部のみんなが揃っている。
みんな私服だ。制服も素晴らしいけど、私服もいいなあ。
アンリの姿もある。レアキャラだ。
「遅いぞ、六号」
「ごめん、ごめん」
「六号が来たことだし、そろそろ出発しよう。皆、忘れ物はないな」
「必要なものはもうバッチリ積みこんであるよ。忘れても何とかなるさ。下着と歯ブラシだけは確認しな。これだけは貸してやるわけにいかないからね」
タケミが運転席でハンドルを握り、他は後ろに。
「さーて、行くよ!」
アクセルを踏む。ゆっくりとバンは発進した。
レイジは最後尾で堀之内とアンリに挟まれ、車の振動に身を任せていた。
キョウは狙っていたレイジの隣りを奪われて、口をとがらせていた。
アンリをちらりと見る。アンリは視線に気がつくとにこりと笑った。
「なにかな、六号くん」
「えっと、何ってわけでもないけれど」
この移動時間は仲良くなるチャンスだ。
アンリは大人しそうだ。少し強引なぐらいでいいかもしれない。
レイジの方が先輩だし、ここはリードしないとね!
「俺たちって、あんまり会う機会ないよね。オカルト以来かな」
「そうだね。僕、スレイ部の方にはなかなか顔を出せてないから」
アンリは苦笑する。
「責めてるわけじゃないんだ。機会がないなら、その数少ない機会は思いっきり活用しちゃおうぜ」
「活用?」
「この合宿だよ。数日間で思いっきり仲良くなるんだ」
「あの、レイジくん」
堀之内が話しかけてくる。なんだろう?
でも丁度いい。彼も巻き込んでしまおう。レイジは堀之内の肩を抱いた。
「俺はさ、ホリーとも出会って数日だ。でも、もうかなり仲良しさ」
「そうですね。もはや数年来の知己という気さえしますよ」
チキってなんだ?
鶏肉。――それはチキン。
うーむ、わからんが悪い意味ではないだろう。
「だからさ」
レイジはアンリの肩も抱く。
「うわわ、六号くん!」
うわ、こいつ華奢だなあ。それに何だかいい臭いがする。シャンプーかな。
顔真っ赤にしちゃって、恥ずかしがり屋さんめ。
とりあえず続けよう。
「アンリもそうならないと限らないだろ。この合宿でさ」
「六号くん……。すごく嬉しいよ」
「よし、俺たちはここでは一心同体だ! やるぞー!」
男子同盟の結成だ。
「あの、レイジくん」
峠道に入ったのか、バンががたんと揺れて堀之内の言葉を中断させた。
「ええっ、それって、それって……。恥ずかしいなあ……」
アンリは何やら真っ赤になっている。
「何をやっているのかしら?」
「六号のやつが品のない話でもしてるんじゃないか」
「どうやら、そのようですわね。はあ、レイジにも困ったものですわ。それよりスミカ様。車内での読書は気分が悪くなりましてよ」
「私は平気だ」
バンは峠をことこと昇っていく。
地形のどうしようもない揺れは別として、タケミの運転はとても滑らかだ。
「この峠を越えたら目的地だよ」
「タケミは運転上手いなあ。驚いちゃったよ」
ノブコ先生が振り向く。
「でしょー。タケちゃんはねー、運動神経もいいけれど、こういうのも上手いのよねー」
「ノブコ先生はどうなの? 免許は持ってるでしょ」
「もちろんよー」
車内の空気が変わった。
何も感じていないのはレイジとキョウだけである。
「そうだ。タケちゃん、そろそろ疲れたでしょー。私と運転交代しましょー」
タケミはぶるぶると高速で頭を振った。
「だめだ。世の中に絶対はないってのが信条だが、そればっかりは絶対だめだよ」
「えーケチー。私も運転したいわー」
「だめったら、だめだよ。六号もこの話は終わりだ」
「あはは。そう言わずノブコ先生にも運転させてあげてよー」
レイジがそう言った瞬間、空気がはっきりと凍った。
「六号……。大バカ者め。発言には責任を持て……」
スミカが震えながらそう言った。




