三十四話
レイジが朝のゴミ拾いに出発しようとすると、スミカが呼び止めた。
「待て、六号。今日は一人で行ってもらう」
「ええっ。なんか悪いことした?」
「その逆だ。最近はよく頑張っているようだ。だが、お前の頑張りがどの程度なのか、堀之内の働きに隠れて判断しにくい」
「それで一人か」
「スミカ様の目に汚い部分が映らないように、きちんとするんですのよ」
「レイジくんならやり遂げられますよ」
「そういう理由だったら、わかったよ。行ってくるね」
レイジは一人でゴミ拾いに出かけた。
寂しい気もしたが、スミカたちに認められつつあるのだ。ここはばしっと、びしっと、気合いを入れて綺麗にしてしまおう。
今日のルートは本棟の中だ。玄関ではなく、体育館と繋がる通路から入り、蛇行しながら三階まで登り、降りてくる。
堀之内のアドバイスによると、各講義室は担当者が綺麗にしているが、廊下や階段は人通りが常にあり、隅々までの掃除が行きとどかないのだそうだ。つまり、そこを重点的に確認して進めばいいわけだ。
なるほど、あるぞあるぞ。
鈴ヶ森学園の各施設は土足厳禁ではない。そのため、砂ぼこりがかなり溜まる。
歩いている分には目に留まらないが、ほうきで一撫でするだけでかなりの量が出た。しかも廊下が長い。果てしない。
これはきびきびやらないとスミカたちに追いつかれてしまうぞ。
レイジはさかさかとほうきを振るい、埃をちりとりで集めていく。
腰に痛みを覚えながらも、一階、そして階段の踊り場までをクリア。
全行程の三分の一が見えてきたところか。レイジはふうと息をつく。
人の気配を感じ、ふと上を見る。
赤毛というよりもオレンジに近い色の髪が高い位置で二本にまとめられ、肩に垂れさがっている。褐色の肌。やたら短いスカート。ブレザーのボタンはピンバッジに変わっており、これでは前を留められない。丈を詰めたブラウスの胸元は開き、リボンがだらしなくゆるゆるに襟に引っかかっている。色はレイジと同じ青。ブラウスの下からはおへそがちらり。靴下はなんだかべろんとしてる、べろんと。
そんな姿の少女が最上段で腕を組み仁王立ちしていた。
これはいわゆる不良というやつではなかろうか。
まさか一等級の鈴ヶ森に不良がいるなんて驚きだが、そんな場合ではない。何とかどいてもらわないと、レイジも不良少女も大変な目に遭ってしまう。
少女の目つきは鋭い。恐ろしいが、レイジは声をかけてみた。
「あのう、ここはどいてもらないと困るよ」
あと、どかないとスカートの中が見えそうだよ。
少女は何も言わずにレイジをじろじろと見た。下から説得していたのでは埒が明かなさそうだ。
レイジは最上段まで昇っていく。
「一人の時間を邪魔されて怒るのもわかるけれど、ここにいてもらっちゃまずいんだ」
背中に触れないように手を回し、移動を促してみよう。おお、なんだか堀之内っぽいぞ。
だが、レイジの腕はぱしんと払われてしまった。
「おい、お前。寳栄スミカの知り合いか」
うわ、すごい口調。まるで男だ。
「そうだけど……」
「なら、どかねえよ。あいつに用があるんだからな」
なんてこった。この不良少女はスミカを待っているらしい。歓迎ムードではないのは確かだ。
「後じゃだめなの? スミカは散歩中なんだ。邪魔されたら怒るよ。怒らせない方がいいと思うなあ」
「俺の用ってのは散歩の邪魔だぜ。わかったら、さっさと消えろ」
「そこまで言うなら、力づくでどいてもらうことになるよ」
レイジは凄んで見せた。
「お前が……力ずくぅ? なんかの冗談か。面白くねえけど」
「えー……」
全く効果がない!
レイジの人生で凄んだのはこれで二回目だ。一度目は子供の頃、近所の野良犬に対してだ。激しく三十分ほど追いかけ回されたので、それ以降は凄むことのない人生を送ってきた。
効果がないはずである。
時間も押してきている。ゴミ拾いはまだ二階、三階と残っているんだ。
もう女の子相手だからといって、迷っていられない。強引に腕をつかんででもここから移動してもらおう。
レイジは不良の腕をつかんだ。
「気安く触んじゃねえよ」
腕を振りほどこうとするので、レイジはしっかりとつかむ。
「ほら、暴れないで。行くよ」
少女は拳を握った。
「触んなって、言ってんだろが!」
拳がレイジの顔面に迫る。
レイジはひょいと避けた。
「危ないなあ。もう、本当にまずいんだって。話があるなら、スミカに後で話しておくから」
少女は真っ赤になってぶるぶると身を震わせた。
「スミカも、おまえも……」
激しく抵抗し、レイジの手を振り払う。
「俺をコケにするんじゃねええええ!」
不良が殴りかかる。危ないレイジ!




