↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/90

三十五話

「何をやっている」


 不良の動きが止まった。

 ああ、ほら、来ちゃったじゃないか……。レイジはがっかりした。せっかくの信頼を得るチャンスだと気合いを入れてきたのに、途中まではすごく順調だったのに……。

 堀之内とエリナも階下から驚いた表情で見ている。

 これはスミカパンチの二、三発は覚悟しなければいけない。それよりも「やっぱり堀之内がいなくては何もできない六号」というレッテルを張られるのが辛いなあ。


「寳栄……スミカ!」


 不良少女は最上段に昇って来たスミカを睨む。


「誰だこいつは。六号、何をしていたんだ。邪魔なものを片づけに行ったのだろう」

「どうしても、どいてくれなくて」

「そんな言い訳は知らん。岩が道を塞いでいたらどうする。動かせませんでしたとべそをかいて戻ってくるのか。それをどかすのが仕事だろう」

「うん……ごめん」


 不良はレイジとスミカのやり取りを聞いて、震え始めた。


「誰だ、だと? 忘れてるのか、俺を……俺を……俺を無視するんじゃねええええ!」


 鋭い踏み込み。靴がきゅっと音を鳴らし、腰の回転でスカートが少し浮き上がる。肩、肘、手首と連動された力は先端の拳に乗り、真っ直ぐにスミカに発射される。

 スミカは見もしないで拳を払った。

 不良はたたらを踏んだが、すぐに体勢を立て直す。飛びかからんばかりの勢いで連撃を繰り出す。

 だが、次の攻撃も、次の攻撃もスミカは易々と処理していく。


「しかしだな、六号。自分の奴隷が危害を加えられたとしたら別だ。危害を加えたやつを私は許さん」


 スミカは不良の拳を受け止める。キッとその目を見た。

「スミカあああ!」

 不良は全身の力を込めて押し返そうとするが、スミカはびくともしない。


「そして、こうも考える。奴隷が汚名返上の機会を望んでいるのなら、それを与えてやるのも主人の務めだとな」


 スミカが手首を返しながら押しやると、不良は尻もちをついた。


「ちくしょう! まともにやりあえ!」

「私はお前の相手をしない。後は六号に任せる」


 不良は埃を叩き落としながら立ち上がる。


「バカにしてるのか。お前ならともかく、こんなやつ相手になるか」

「やる気が出ないか。なら、こうしよう。お前が勝てば、なんでも言うことを聞いてやろう」

「なんだそりゃ。俺は今のうちにありがとうとでも言っておけばいいのか?」

「だが、お前が負けたときには、私の奴隷だ」


 不良はぽかんとした。だが、その口が歪んでいく。


「くくく、奴隷か。上等じゃねえか! じゃあ、俺が勝ったときには、スミカ! お前を俺の奴隷にしてやるよ!」

「いいだろう」

「スミカ様!」

 堀之内とエリナが結果を案じて声を上げた。

「はん、今さら変更はなしだぜ。俺はやる気になってんだ。その、もやしボーイをボコボコにするってな」


 堀之内とエリナがスミカの横に並んだ。


「心配はいらん。六号は私の奴隷だ」


 ありがとうスミカ。レイジは心の中でお礼を言った。

 だが、その信頼に応えられるだろうか。

 スミカは不良の攻撃を簡単にいなしていたが、それはスミカだからだ。

 もし、負けたのならスミカが奴隷に……考えたくもない。スミカは主人以外あり得ない。


「少し狭いな。廊下に出るぞ」


 講義前、かつスミカが人払いしているので辺りはしんとしている。

 不良とレイジが対峙する。

 その間合いの外、スミカたちが見守っていた。レイジは三人にうなずいて見せる。


 風を切る音。


「何ぼさっとしてんだ! もう、始まってんだぜ!」


 レイジは突きをかわす。甲を下に向け、がら空きのボディに……。

 だめだ。レイジは人を殴ったことがない。その上、相手は女の子だ。殴るなんてとてもできない。


「フェニミスト気取りか? ご苦労さん」


 迷いのない一撃が顔面を捉え、レイジは壁際まで吹き飛ばされた。壁に激突し、ずり落ちる。


「レイジくん!」

「レイジ! しっかりするのですわ!」


 スミカは静かにレイジを見ている。


「はん、立てねえよ。今ごろ脳がぐらぐらだ。さてスミカ、約束は守ってもらおうか」


 スミカがにやりと笑った。

 背後の気配に不良が素早く振り返る。


 レイジが立ちあがっていた。


「あ、あり得ねえ……」


 レイジは自分の体を不思議そうに見た。

 壁まで吹き飛んだのには驚いた。だが、率直に言って何ともない。ぴんぴんしている。

 この不良のパンチは強烈なのだろう。しかし、スミカ、エリナやタケミの暴力と比べたら、まるでそよ風だ。


「レイジが、レイジが立ちましたわ!」

「さすがレイジくんです。スミカ様のパンチをスレイ部で一番受けているだけはあります」


 不良はぎりぎりと歯噛みするが、無理に表情を緩める。


「おまえ、本当に脳みそ入ってるのかぁ? だが、立てない方が幸せだったぜ。もう立てなくなるまで殴られるんだからな!」


 強烈なパンチの嵐。最後の一発が顔面にヒットし、レイジは再び壁際まで吹き飛んだ。


「どうだ、これで……」


 むくり。

 何事もなかったかのようにレイジは立ち上がった。


「なんだ、何なんだおまえ……」

「スミカのパンチは、その一万倍は痛いぞ」

「ふ、ふざけんなあああ!」


 不良がレイジ目がけて駆ける。その加速を拳に乗せる。

 倒れるレイジ。そこを執拗なまでに不良の蹴りが襲う。


「このままでは……スミカ様!」


 エリナは見てはいられないと目を逸らした。


「いや、見ていろ。六号は負けていない」


 不良はレイジの頭にがつんと足を乗せ、ぐりぐりと踏みにじった。


「はあ、はあ……。けっ、生意気な口を聞くからこうなるんだ。もう降参もできねえかも知れねえがな……」


「――六号はな、私の足も押し返したんだぞ」


 押さえつける力に逆らい、レイジの頭が持ち上がる。

 不良は仰け反って、背中から倒れた。

 レイジがすっくと立ち上がる。着衣や髪の乱れはあるが、まるで元気だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。