出逢い7
その日から、酒場と離宮の往復がアニタの日課になった。
元から休みなく働いていたアニタだったが、ミレーチェからも毎日のように呼び出されては話し相手になった。
アニタの生活、アニタの両親、アニタの出自、アニタの働いている姿、アニタと親しい街の住人。
ミレーチェは飽きもせずに、アニタの全てを知ろうと、耳を傾けた。
アニタもミレーチェに求められるままに話し続けた。
次第に心が繋がり、敬語は消え去り、ベットで一緒に寝るまでの中になった。
そんな日々が一年続いた。
……その日はミレーチェから話し始めた。
「結婚が決まったの。隣国の王太子様との」
「……え?」
紅茶で喉の渇きを癒そうとしていたアニタの手が止まった。
「えと。おめでとうで良いのかな?」
「ふふっ。ありがとう」
笑顔のミレーチェ。
だけどその笑みが疲れているようにアニタは感じた。
「嬉しくないの?」
アニタにとって王太子との結婚なんて華やかで喜ばしいことだと思っていた。
しかし目の前の親友を見て不安になる。
「皇国と隣国の王国ってね、今までずっと仲が悪かったの。私はその関係を修復するための政略結婚。つまりは人質であり、生贄なの」
「そんな……!」
強張ったミレーチェの声にアニタは驚愕する。
「そんなのあんまりだよ! 断りなよ! ああっ!」
怒りに立ち上がったらカップが跳ね上がって紅茶が溢れる。
自分の失態にアニタは慌ててカップを戻し、自分の服で紅茶を拭こうとして召使に止められたり。
「……ぷ」
その姿を見てミレーチェが吹き出す。
「あはは! もうアニタったら! 大丈夫? 火傷してない?」
「う、うん」
ミレーチェが召使からタオルを貰い、アニタにかかった紅茶を拭く。
「……ねえ、アニタ」
ミレーチェの手がアニタの手に触れ、掴む。
「もし、もしよ。あなたが良ければ……その」
歯切れの悪いミレーチェ。
アニタは不思議そうにミレーチェの手を握り返す。
「どうしたの、ミレーチェ?」
「えと……」
ミレーチェはアニタを見つめーー
「いえ。なんでもないわ。今日はこの後予定があるから終わりにしましょうか」
恒例のお茶会は唐突に終わる。
「じゃあね、アニタ」
「うん」
一年続いたお茶会。
その日は珍しくミレーチェはアニタに『またね』ではなく『じゃあね』と言った。
その違いにアニタは気付いていなかったがーー
翌日から兵士のお迎えが来なくなったことで全てを察したのだった。




