出逢い5
翌朝。
アニタは街の大通りを歩いていた。
胸には布に包まれたローブ。
結局、ローブの汚れが気になってしまい、日の出前からローブを洗って急いで暖炉で乾かしたのだ。
大通りは宮殿へと続く道であり、アニタが住む狭い路地とは大違いの通行量だった。
アニタは大通りの端を他の住人たちのように静かに歩く。
中央では馬車や荷馬車が忙しなく走り回っているため、少しでも近寄ろうものならば蹴飛ばされる。
「大きいな〜」
顔をあげると、彫刻の壁が目の前に聳え立つ。
皇女ミレーチェが住まう宮殿は高い高い壁に囲まれてどこから入れば良いのか分からない。
「ん? 何してるんだ、お前?」
壁に沿って歩いていたら皇国軍の兵士に声をかけられる。
隣にいた同じ兵士もアニタを囲う。
「え、えと皇女様に用事があって」
「皇女様? 何番目の方だい?」
「へ?」
兵士の質問にアニタは目を丸くする。
アニタはミレーチェしか知らない。
まさか皇女が何人もいるとは思っていなかったのだ。
「申しわけありません。何番目の方なの方までは。お名前はミレーチェ様です」
アニタが名前を告げると二人の兵士は互いに顔を見合わせる。
「もしかしてミレーチェ様が何かご迷惑を?」
「また何か壊しましたか?」
申し訳なさそうに二人の兵士が眉を下げる。
「あ、いえ。壊したわけでは」
「ではお金を払わずに露店の物を食べましたか?」
「まさか気に入らない相手を蹴飛ばしましたか?」
「ち、違いますっ!」
慌ててアニタは否定する。
それに兵士たちはホッと胸を撫で下ろす。
「あ、あの。このローブをお返しに来たんです」
兵士に丸めた布を渡す。
兵士は布を包みを剥がしていく。
「ああ。確かにこれはミレーチェ様の物だ」
「昨日も着てたやつだな。これで逃げられて大変だったな」
「あー」
アニタは苦笑する。
その逃げ回ったのは自分だと。
流石に口には出せなかったが。
「分かった。これはミレーチェ様にお返ししておく。ご苦労様」
「ありがとうね」
「はい! お願いします」
任務を果たせてアニタは胸を撫で下ろす。
そして帰ろうとしたときだった。
「ミレーチェ様が脱走したぞ!」
壁の中から悲鳴のような声。
二人の兵士がびくりと肩を跳ね上げる。
アニタも同様だった。
「よっと」
アニタたちが動揺していると、目の前に誰かが飛び降りた。
「あっ」
飛び降りて来た人物と目が合う。
「ああああっ! アニタじゃない!」
そのままの勢いでぎゅーっとアニタは抱きしめられた。
「み、ミレーチェ様っ!?」
現れたのは皇女ミレーチェだった。
「もう! ミリーで良いって言ったじゃない。それよりも今日はどうしたの?」
「あ、うん。それを返しに」
抱きしめられたままだったのでアニタは視線を送る。
ミレーチェの視線は兵士の持つ絹のローブへ。
「あっ! 忘れてた。もしかして届けてくれたの?」
「は、はい」
「ありがとう!」
「うぐ」
さらに強く抱きしめられてアニタは潰れる。
「あの。ミレーチェ様」
「ん? 何?」
「宮殿へお戻りください」
兵士の言葉にミレーチェは周りを見る。
ミレーチェを追いかけて来た兵士がミレーチェとアニタを取り囲む。
「あら。今日は早かったですね」
「もう五十回以上も逃げられてますからね?」
追いかけてきた兵士はなんとか笑顔を取り繕うが、怒りが消せていない。
「うーん。今日はここまでかしら。仕方ないわね」
ミレーチェはアニタを解放する。
「またね。アニタ」
含みのある笑みでミレーチェは兵士を引き連れて帰って行った。
ローブも返し終わり、これで皇女であるミレーチェとの繋がりは消えた。
これからはいつも通りの生活に戻れる。
アニタはこの日までそう思っていた。




