出逢い4
鬼ごっこをしたその夜。
「そりゃあ。大変だったね」
顛末を主人であるミラに話したアニタ。
すでに店じまいをしたから今は二人っきりだ。
「それにしても」
ミラは壁にかけられた絹のローブを見る。
「質の良いものを持って来ちまったね」
「返そうとしたんですけど、忘れちゃって」
「だけど早めに返したほうが良いだろ? それにこんな良いの持ってるほうが心臓に悪い」
「ですよね。洗って返そうかと思ったんですけど、こんなに良い物を洗ってダメにするのも怖くて」
アニタも絹製品を洗った経験がなかった。
他の洗濯物と一緒に洗ってダメにしたら、それこそ不敬罪になりそうで恐れ多かった。
「相手は分かるのかい?」
「あ、はい。確かミレーチェ様だと」
「……は?」
ミラが固まる。
「アニタ。ミレーチェ様って本当に言ってるのかい?」
「えっ? はい」
「あんた。すごいことをしたね」
もはや呆れ返ったミラの声。
「ミレーチェ様って、あんた。この国の皇女様じゃないかい」
「皇女様? 皇女様って、あの皇女様?」
「他にどの皇女様がいるんだい。それにしてもどうして皇女様なんかに。まさかお忍びだったのかい?」
「さ、さあ。どうでしょうか」
アニタの視線はローブに注がれる。
皇女ミレーチェ。
その姿を思い出して心が温かくなる。
皇女様なんて、この国の誰もが憧れる少女。
偶然とはいえ、そんな人物と話せたことがアニタにとって誇らしくなった。
「あ、でも。そうだとしたら急いでローブを返さないと」
「今日はもうやめておきな。城門も閉まってるはずだし。明日時間やるからさ」
「は、はい」
せめてでもと思ってアニタはローブの土汚れを手で払った。




