出逢い
「ふんふんふーん♪」
少女は楽しげに鼻歌を歌いながら箒で石畳の道を掃く。
「よお! アニタ。なんかご機嫌だな」
飲んだくれのおじさんがアニタに手を振る。
「おはよう、グッチさん。そうなのよ。今日は街に劇団が来るらしくて」
「ああ、そういえばそんな話があったな。見に行くのか?」
「ええ。ご主人様には夕方は休みをいただいたの!」
「そうか! 楽しんで来いよ!」
「グッチさんもお酒飲み過ぎないでね!」
少女の名前はアニタ。
にんじん色の髪にそばかすが彼女の印。
この辺りではあまり見ない姿だけど、誰の見た目を馬鹿にしない。
誰にでも明るく、優しいアニタを住民は優しく見守っていた。
実はアニタには母親がいない。
彼女が幼い頃に病で亡くなった。
父親は出稼ぎに行っているため半年に一度しかアニタに会いに来れない。
だけど住人たちに恵まれたアニタは寂しくなどなかった。
彼女が奉公している酒場の主人もアニタの境遇を憐れまず育ててくれている。
それにアニタも一生懸命働いて応えていた。
「おお、アニタ。商品を持ってきたぞ」
「あらベッケルさん。おはようございます」
「おはよう。おい! 早く荷物を下ろせ! アニタを待たせるな!」
馬車の荷台に乗っていた男たちが荷物を下ろしていく。
そこには酒場で売る酒や料理の食材たち。
「お金を持ってくるわね。ちょっと待ってて」
「ああ。急がんで良いよ。少し一服するからな」
そう言ってベッケルの爺さんは懐から葉巻を取り出す。
その間にアニタは店の扉を開いて男たちを中に入れてあげる。
「ご主人様! ベッケルさんが来ましたよ!」
「おう!」
酒場の女主人であるミラがカウンターから顔を出す。
「アニタちゃんここで良い?」
「ええ。ありがとう」
男たちは荷物を店に置いていく。
アニタはリストを取り出すと、商品を受け入れていく。
「これで以上だ。どうだい」
「ちょっと待ってね」
ひとつずつ抜けがないかを丁寧に確認していく。
「うん! 大丈夫! ちょっと待ってね」
アニタはエプロンから鍵を取り出す。
そして店の奥の金庫を開ける。
銀貨と銅貨の枚数を確かめて握りしめて鍵を閉める。
「はいこれ」
「まいど」
受け取った男の一人は代金を確かめもせずに麻袋に入れる。
「また確かめないの? 間違ってたらどうするの?」
「その時は次回来るときに貰いにくるさ」
アニタを信頼しているから、男たちは笑顔で店を出ていく。
アニタも見送るために店の外へ。
「おお! アニタ!」
ベッケルの爺さんがアニタを手招きする。
「悪いがマッチあるか?」
「珍しいわね!」
アニタは驚いたが、ポケットからすぐにマッチの箱を取り出してマッチを擦る。
そしてベッケルの爺さんが葉巻を咥えると火をつけてあげる。
「ありがとよ。それにしても魔法のポケットだな。なんでも出てくる」
「ふふっ。ただのポケットよ」
「あはは! じゃあな! また頼むよ」
「ええ。いつもありがとうございます」
笑うアニタにベッケルの爺さんは満足そうに頷いて荷馬車を走らせた。
荷馬車が見えなくなるまで見送ったアニタはすぐに店に戻る。
すでに主人のミラは働いていた。
アニタも急いで手伝う。
店内の清掃。
物品の補充。
料理の下拵え。
その間にもちらほらとお客さんが来店する。
「ようアニタ!」
「こんにちはアニタ!」
「腹減ったよアニタ!」
「金が入ったんだ! お酒くれアニタ!」
まだ昼前だというのに男たちは小銭を手に酒と料理を頼む。
ここに居る誰一人として裕福な生活は送っていない。
だけど皆がアニタ目当てに店に来ていた。
「はいはい。順番に伺いますから待っていてくださいね」
それを知っているアニタは呆れながらも誠実に対応する。
そんなアニタがみんなは愛しくて仕方がない。




