↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪『役』令嬢  作者: mask


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/23

処刑

 その日。

 民衆は今までにない熱量で沸いた。

 王国に王子が産まれた日でさえ、ここまで祝福しなかっただろう。

 牢から出された女性が後ろ手に手首を縛られる。

「痛くはないですか?」

「ええ。ありがとう」

 処刑人の優しく案じる声に女性は微笑む。

 そして女性は自ら歩き出す。

 周りの男たちは驚いた。

 他の人間は泣き喚き、命乞いをし、動かない。

 男たちはそんな奴らを無理やり連れて行くために待機していたというのに。

 女性が先に歩いて行ってしまったので慌てて追いかける。

「ま、待て! 逃げるつもりか!」

 男の一人が女性の肩を掴む。

 それに女性は驚きもせず、触れられたことを蔑みもしない。

 ただ、にんまりと笑う。

「あら。あなたに私(わたくし)をエスコートする覚悟がおありで?」

 気丈な振る舞いに男は言葉を詰まらせる。

「ふふっ。逃げたりしませんわよ。だって私の最後の大舞台ですもの。さあ、端役は私の後ろに付き従いなさいな」

 彼女の言葉に男たちは従うしかなかった。

「ではレーヌ。私にエスコートさせていただきませんか?」

「ええ。あなたなら相応しいわ」

 女性は後ろ手で縛られてるから、処刑人の手を取ることは出来ない。

 処刑人もそれを理解している。

 だからただ黙って女性の隣を歩く。

 牢屋の塔を出ると、女性を出迎えたのは民衆の視線と声。

 怒りに蔑み、嘲笑。

 女性を称える言葉はひとつもない。

 だけど女性は毅然とした態度で胸を張る。

「まあ、なんて数の観客でしょう。嬉しいですわ!」

 女性の声は近くに民衆に伝わって困惑させる。

 その声は続々と伝播する。

 女性への声が静まっていく。

「レーヌ。こちらの馬車へどうぞ」

 処刑人がまるで御者のように馬車へ案内する。

 しかし女性は首を振る。

「こんなにこ観客が居るのに馬車だなんて勿体無いわ。歩いて参りましょう」

 処刑人は目を丸くしたが、女性の表情を見て頷く。

「分かりました。王妃様」

「さあ! 道を開けなさい!」

 王妃様と呼ばれた女性の言葉に困惑していた民衆が王妃に道を開けるために中央から分かれていく。

 彼女が一歩、また一歩、歩みを進める度に民衆は王妃の前から退く。

 もう誰も蔑みの目も罵声も向けない。

 ただ絶対的な存在に頭を垂れた。

 王妃を処刑人がエスコートし、後ろには男たち、そして民衆が黙って付き従った。

 この光景を見て、誰が処刑前の一幕だと思うだろうか。

 処刑場近くではまだ熱気に包まれていた。

 そこに王妃が近づくにつれて冷めていく。

 王妃はもはや華美なドレスも着ていない。

 町娘よりも酷い汚れて生地の薄い白い服。

 化粧だってしてなく、頬は青白くて寒さのせいか唇も青紫色。

 髪も手入れされていなくてボサボサでブロンドの髪にはストレスからか白髪が混じっていた。

 王妃の姿はもうなかった。


 だけどそこに居た全員がみすぼらしい目の前の女性が王妃だと認識していた。


 誰もが王妃に平伏していた。


 そして王妃は広場に設置された処刑台に上がる。

 もう誰もが黙って王妃を見つめるだけだった。

「ここまでありがとう、ムッシュ」

「私こそ。王妃様。あなたをエスコート出来たことは我が家の誇りとなりました」

 王妃は民衆の前に立ち、見下ろす。

 誰もが王妃の言葉を待っていた。

 王妃は端から端まで民衆を見渡し、満足そうに頷く。

 そして大きく息を吸った。


「我が王国の民たちよ! 大義である!」

 

 その言葉に民衆は一斉に目を丸くする。

 これから無様な死に様を見てやろうとしていた相手に最上級の褒め言葉をいただくなんて誰が思っていただろうか。


「王国を混乱に陥れた我が王家は残り私だけだと聞いている。それまでに数多くの民の血が流れたとも」


 王国中で王国軍と民衆が戦い、千人以上が死に、数万人が傷ついた。


「だがそなたら戦いに勝利した。誇るが良い!」

 

 すっと民衆が背筋を伸ばし、胸を張る。

 その瞳には王妃への敬意。


「妾が死ねば、その瞬間に王国は終わりだと思うだろう! しかし、王国は滅びぬ。なぜなら勇敢なそなたらがおるからだ!」


 そしてにいっと笑う。


「声をあげよ! 拳を掲げよ! 今日は記念すべき日だ! さあどうした! そなたらが望んだ瞬間であるぞ! 盛り上げよ! 王国を讃えるのだ!」


 静まる広場。

「お」

 一人が、まるで久しぶりかのように枯れた声を出した。

「王国万歳」

 その一言が周りに伝播する。

「王国万歳」

「王国万歳」

「王国万歳」

 そして声に熱が増していき、広場を埋め尽くしていく。


「王国万歳! 王国万歳っ!」


 手を叩く者、拳を掲げる者、歌を歌う者。

 民衆の誰もが自分たちが産まれた王国を讃える。


「王妃様。お時間です」

 処刑人が恭しく王妃に一礼する。

「あい、分かった」

 王妃は踵を返す。

 そしてギロチン台に身体を横たわらせる。

 首が枷で固定される。

「ああ」

 ギロチン台にうつ伏せになる王妃。

 彼女の本当の表情を見れたのは処刑人だけ。

「やっと……終わるのね」

「お疲れ様。アニタ」

 王妃の涙が溢れる瞬間ーー


「王国万歳」


 処刑人の言葉でギロチンが落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。