赤字夫人
アニタが首都で暮らしている間、アニタさえも失ったミレーチェもストレスは極限にまで高まってしまいました。
自分は王太子を産んだ。
役目を果たしたのだと豪語し始めたミレーチェは散財癖が再発。
ミレーチェはアニタを部屋に入れなかったというのに、アニタは自分を見捨てたのだと怒りを募らせました。
ミレーチェは前のように髪結師や服飾師、宝飾師を毎日代わりばんこに呼んでは買い漁ります。
離宮には小さな劇場を作り劇団の真似事。
他にも小さな牧場を作り農家の真似事。
ミレーチェは心からアニタを嫌えていなかったのです。
アニタが好きだった劇、アニタが教えてくれた庶民の生活を学ぼうとしていました。
ですが貧しい庶民からしたらそれは単なる遊びです。
地方で起こっていた飢饉はいつしか首都にまで及び、暴動が絶えなくなってしました。
税金がとめどなく上がり続けるし、不作で小麦の値段が跳ねあがったのです。
王はそれをどうにかしようとしましたが、焼け石に水。
国庫のほとんどが前から支援している新大陸の合集国の独立戦争支援で消えていきました。
普通ならそんな割に合わない戦争なんて辞めれば良い。
そう思うでしょうが、王国は大英国と対立していたため、敵の敵は味方である合集国を支援して大英国を弱らせてもらうことしか考えていませんでした。
「怖いね」
シャルティアが外を見て言います。
王国専属の処刑人の家系であるシャルティアの家は処刑人の仕事の他に簡単な病院も経営していたのでお金があり、食いっぱぐれることはありませんでした。
しかし、食卓の献立が日に日に減っていることは痛感していました。
再び外を見ます。
路地では生活ができない人々が道の端で座り込んだり、農具を手に暴動を起こしています。
同じ庶民ですからシャルティアの家が襲われることはないと信じつつも、自分たちだけが食べられていることに嫌な不安もありました。
「旦那様、奥様、またパンを配ってきます」
そこでアニタは少しでも怒りが向かないように数少ないパンを道端の子供たちに配っていました。
大人たちもシャルティアの家の病院にお世話になっていたので怒りを向けることもありませんでした。
そんな日々が続いたときです。
あのミレーチェが『パンがなければケーキを食べれば良いじゃない』と言い放ったという噂が首都中に流れたのは。
それに加えてミレーチェの散財が止まらずに《首飾り事件》が発生。
未来を期待されて王国に迎えられた王太子妃はいつしか“赤字夫人”と呼ばれるようになってしまったのでした。




