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そのメール、代筆いたします  作者: 蒼井スカイ
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15/23

11.架け橋に(前)

本日は2本に分けて投稿いたします。この後、2本目を公開するので楽しみにお待ちいただければ幸いです。

 夏目さんからの連絡がなかなか来ず、夕食を何にしようか悩んでいる時に、スマホの通知音が鳴った。すぐにスマホの画面を開くと、メールの着信が1件入っていた。メールは夏目さんからだった。



『理桜ちゃん、待たせてしまってすまないね。今夜会って話をしたかったんだけど、急な仕事が入ってしまってね。申し訳ないけど、先に結果だけ伝えて、詳しい話は後日ということにしてほしい。

 それで、3通目のメールだけど、しっかり読ませてもらったよ。最初から最後まで理桜ちゃんらしい文章だと思ったよ。ぜひ、俺に君の起業全般をサポートさせて欲しい。つまり、合格だよ! 詳しくはまた今度会って話そう。

 今日は慣れない場所で疲れてると思うから、ゆっくり休んで。また連絡するよ。おやすみ。』



「や、やったぁ~!!!」


――夏目さんから合格もらえたっ! やった~! これで起業できるっ。夏目さんが起業のサポートをしてくれるっ! 夏目さんがいてくれるなら、きっと起業してもやっていけそう。良かったぁ~、本当に良かったっ!


「あっ! 夏目さんに返信しないとっ」



『夏目さん、お忙しい中、ご連絡くださってありがとうございます。3通目のメールも無事に合格をもらえてホッとしました。メールの評価や今後の詳しいお話は後日聞かせてください。


 今日、夏目さんとお会いするとは思わなくて驚きました。でも、とても緊張していたので、知っている人の顔を見れて少し緊張がほぐれました。


 お仕事お忙しいと思いますが、どうかお体には気をつけてください。おやすみなさい。』





 それから数日後の金曜の夜――。


「理桜ちゃん、待たせたね」

「いえ、私もさっき着いたばかりですから」

「じゃあ、お店を予約してるから行こうか」

「あっ、はい。あの、夏目さんっ」

「ん? どうかした?」

「あの、今更なんですが……私の服装、これで大丈夫でしょうか?」

「服装? うん、いつも通り可愛いよ」

「へっ? あっ、いえ、夏目さん、「今日はおしゃれして来て」とメールであったので。私、この格好でお店に行っても大丈夫かな、と思って……」

「あぁ、そういうことか。今夜予約したお店は少し畏まった所だから、カジュアルな服装だと入りづらいんだ。でも、理桜ちゃんの服装は何も問題ないよ。変な気を回させてしまってごめんね。もう少し説明しておけば良かったな」

「いえっ、そんなことは! 私、ちゃんとしたお店で食事をするのは初めてなので、ドレスコードとか、よく分からなくて……。夏目さんに恥をかかせてしまったらどうしようかと」

「そんな心配はいらないよ。理桜ちゃんはいつも可愛いよ。俺が理桜ちゃんのことを恥だと思うことは絶対にないから安心して。けれど、女性はフォーマルな場所での服装選びは難しいよね。男はスーツさえ着とけば何とかなるものだからね」

「……」


――恥ずかしすぎるっ。夏目さんといい、東雲さんといい、何で大人の男性はこんなに褒め上手なの? 私みたいな平凡な女にもサラッと「可愛い」って言うなんて……。


 男性から褒められ慣れていないこともあり、可愛いと言われる度に頬の温度が上がってしまう。これを何とか直したいものだが、現実的には難しいだろう。


「――ちゃん、理桜ちゃん?」

「えっ?」

「どうかした? 何か考え事?」

「いえっ、何でもないです。少しボーっとしてしまっただけで……」

「――そう。理桜ちゃん、そういえば先日はお見合いだったのにお邪魔してしまって悪かったね」

「えっ? あっ、そんなことないですっ。むしろ、夏目さんの顔を見てホッとしたと言うか……。あぁいう場は初めてで……どうも苦手なんです」

「苦手ってことは誰かの紹介か何かで?」

「――母が、近所の人から「どうしても」と押し切られてしまって、仕方なくお見合いをしただけなんです。最初から断るつもりだったんですが……」

「理桜ちゃん、断るとか苦手そうだよね?」

「えっ! 私、そんなに分かりやすいですか?」

「うーん、分かりやすい、かな? よく表情に出てるからね」

「あー、やっぱりそうなんだ。東雲さんの言う通りなんだ」

「彼に何か言われたの?」

「――東雲さんにも言われたんです。私は感情が顔に出るから、初対面でも私の感情が手に取るように分かるって」

「――へぇ、そうなんだ。それで、理桜ちゃんは彼と会ってみてどうだったの?」

「どうっていうか、私は最初から東雲さんと結婚するつもりはないんです。断わろうと頃合いを見計らっていたんですが、タイミングを逃したというか……話す間さえもらえなかったというか……」

「実に彼らしいやり方だ……」

「えっ? 今、何て?」

「いや、何でもないよ」


――夏目さん、今何を呟いたんだろう? 聞こえなかったけど、一瞬表情が強張ってたような……私の気のせいかな?


「夏目さんは東雲さんとお知り合いなんですか?」

「いや、彼と話したのは初めてだよ。ただ、仕事関連のパーティーで何度か見かけたことがある程度かな」

「東雲さんは夏目さんのこと、CEOって言ってましたよね? 夏目さん、もしかしてもの凄くお忙しい方なんじゃないですか?」

「んー? CEOなんてのは肩書きの1つにすぎないよ。忙しいかどうかは人それぞれかな? 俺はまだ楽な方だと思うよ。できるだけ仕事はセーブするようにしてるしね」

「でもっ、私の起業をサポートするとなると、お仕事に支障が出てしまったりしないですか?」

「それは大丈夫だよ。これでも自分の力量は理解しているつもりだからね。仕事に支障を出すことはないよ。もちろん、理桜ちゃんのサポートも疎かにするつもりはない。ただ、今の時期だけ少し忙しいってだけなんだ。来月になれば余裕ができるから心配ないよ」

「それなら、良かったです」


――良かった、夏目さんが無理をしている訳じゃなくって。私のせいで夏目さんに迷惑をかけるのだけは避けたいもの。だけど、起業は私がすることだし、できる限り夏目さんに迷惑をかけないように自分でも勉強しておかないと……。




「理桜ちゃん、着いたよ。このビルの最上階のレストランだよ」

「――」


 目の前に高く(そび)えるビルはビジネス街の一角にあった。首を最大角度まで上げたが、ビルが高すぎて最上階を視界に捉えることができなかった。


――うそっ! ここって、このビルの最上階のレストランって言ったら、今年二つ星を獲得したばかりのお店じゃないっ。予約は半年先まで埋まっていると聞いたことがある。夏目さん、どうやってこのお店の予約を取ったんだろう? それともCEOともなるとVIP扱いされるとか?


「理桜ちゃん? 入ろうか」

「あっ……はいっ」


 ロビーの扉の前でボーっとしていると、後ろを振り返る彼に声をかけられた。私は慌てて彼のそばへと駆け寄った。


 ロビーに入ると、右にはカフェバー、左には高級感のある黒革のソファがいくつも並んでいた。待ち合わせやちょっとした打ち合わせに良さそうな空間だ。ロビーを通り抜けると左右に2台ずつエレベーターがあり、彼がボタンを押した。


 すぐにエレベーターの扉が開き、彼の後を追うように中へ入った。エレベーターの壁の一部は強化ガラスになっていて、外の景色が眺められるようになっていた。


「わぁ! エレベーターからの眺めが綺麗ですね」

「そうだね。けれど最上階から見る夜景はもっと綺麗だよ」

「夏目さんはよくこちらのお店に来るんですか?」

「よくという訳ではないけど、たまに仕事関連の会食で利用してるくらいかな」

「そう、なんですね……」


――やっぱり夏目さんはこういう場所に慣れてるんだ。そんなの当たり前か、夏目さんはCEOで、有名な経営者の1人だと東雲さんも言ってたし……。私なんかと一緒に行って夏目さんに迷惑かからないように気をつけなきゃ。それに、夏目さんの知り合いと会って、変な誤解とかされたら迷惑かけそう……。


「理桜ちゃん? 随分険しい顔をしてるけど、気乗りしない? やっぱ店を変えようか?」

「――いえっ、大丈夫です。私が、というより、夏目さんは私なんかと一緒にいるところを誰かに見られて困ったりしませんか?」

「どうして俺が困るの? こんなに若くて可愛い子と食事ができるのに、むしろ、理桜ちゃんの方が俺と一緒にいるところを誰かに見られて困ったりしない?」

「そ、そんなことないですっ! 絶対にないです!」

「ぷはっ……ごめんっ……くっくっくっ……。良かった、安心したよ」


 彼は笑いを堪えた後で、やさしい微笑みを私に向けた。


――もうっ、夏目さんっ。また、色気を漂わせてるっ! あぁ、鼓動が早く打ってる……心臓に悪すぎる。最近の夏目さんはどうしたんだろう? 最初会った時は隣にいても安心できるというか、緊張しなかったのに……。


 足の裏に微力な振動を捉えると、ポーンと目的のフロアへの到着を告げる音が鳴った。


 夏目さんは片手で扉を押さえ、「理桜ちゃん、先にどうぞ」と声をかけてきた。さすが大人の男性だ。一つひとつの所作も美しい。私は彼に「ありがとうございます」と告げて、先にエレベーターを降りた。


 エレベーターホールを抜け、レストランの扉の前に着くと、夏目さんはごく自然に店の扉を開け、私を先に通してくれた。私は会釈をして店内へ足を踏み入れると、レストランのウェイターが上品な微笑みで迎え入れてくれた。


 ウェイターは店内の奥へと進み、廊下の突き当たりにある個室へ私たちを案内した。




「理桜ちゃんは何飲む? お酒は大丈夫?」

「はい、少しなら」

「そう、シャンパン、ワイン、ビール、何でもあるよ。何がいい?」


 着席時にスタッフからドリンクメニューを受け取った彼は、メニューをこちらに開いて見せてくれたが、お酒の品種がずらっと並んでおり、さっぱり分からないため、彼に任せた。


「ビールやウイスキーみたいな苦味が強いのは苦手なんです。シャンパンやワインなら大丈夫だと思います」

「普段、お酒は飲まない?」

「以前いた会社で定期的に飲み会がありましたけど、いつもソフトドリンクばかりでした。家では……たまに飲むくらいです」

「そうか、それなら度数が低いシャンパンにしておこうか」

「はい」

「料理はどうしようか、理桜ちゃんは嫌いなものはある?」

「――内臓系でなければ大丈夫です」

「内臓系……あぁ、レバーとかホルモンとか?」

「はい……見た目がグロ――いえ、風変わりな見た目のものが苦手で」

「理桜ちゃん、ここは個室だし、俺たち以外はいないから、そんな畏まらなくても大丈夫だよ」

「はい……」

「――じゃあ、カニとかエビは? あれもある意味グロテスクじゃない?」

「身だけなら食べれないことはないんですけど、そのまま出てくるとちょっと手が出しづらいです……」

「じゃあ、貝類は? 魚は?」

「お魚は大丈夫です。でも貝類もどちらかというと苦手かもしれません」

「他には?」

「――ナッツ類とか豆類も……でも、パウダー状ならナッツ類も大丈夫ですし、豆類は大豆や納豆なら食べられますっ」

「ぷはっ、食べれない物、結構あるじゃないか」

「すみません……」

「理桜ちゃん、俺の前ではそんなに気負わなくてもいいよ。誰だって好き嫌いはある。せっかく来たんだし、どうせなら好きな物だけ食べた方が食事を楽しめるよ」

「――はい……」

「それで? 他に食べられない物や苦手な物はないの?」

「はい、さっき言ったものがほとんどです」

「そうか、分かったよ。さて、どうやってメニューをオーダーしようか」

「あっ、でも、アレルギーって訳ではないので、料理に混ざっていても大丈夫なので……」

「大丈夫、俺に任せて。理桜ちゃんの嫌いな食べ物は記憶したから、安心して」


 その後、スタッフにシャンパンとコース料理をオーダーし、彼はジャケットの内ポケットから出したメモにスラスラとペンを走らせ、メニュー表と一緒に手渡していた。スタッフはメモの内容を確認すると、彼に「承知いたしました」と言い、会釈してから部屋を出て行った。


「夏目さん、さっきのメモは……」

「ちょっと個人的な頼み事をね」


――頼み事……? 何だろう? 私の好き嫌いをメモで伝えてくれたのかな? 何だか悪いな。好き嫌いが多くて申し訳ないな……。

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