【第2話】夜明け
もうすぐ、街中が浮き足立つ賑やかな夏祭りがやってくる。
それが終わって寒くなれば、きらびやかなイルミネーションが灯るクリスマス。
そして、古い荷物を下ろして誰もが新しいスタートを祝う、年が明ければお正月。
本来なら、そんな季節の節目節目に、部屋に飾り物をしたり、美味しいものをたくさん集めて誰かと囲んだりすることに、胸をわくわくさせるものだ。
子供の頃の私は、確かにそれを純粋に楽しんでいた。
けれど、いつからだろう。
「それもしてはならない」
そう頑なに思い込むようになったのは。
私のような人間が、人並みの幸せを味わってはいけない。
楽しそうに笑ってはならない。
私にはその資格がない。
心の中の鎖が、季節の彩りをすべて拒絶するように、ギチギチときつく音を立てて私を縛り付けていた。
明日を期待してはいけない。
明後日を楽しみにしてもいけない。
いつか叶えたい夢なんて、見ることも許されない。
そうやって自分を罰し、抑圧しているうちに、私はいつの間にか、すべての感情を「作り笑い」で済ませるようになっていた。
心は泣いているのに、あるいは何も感じなくなっているのに、顔だけは周囲を安心させるための、あるいは傷つかないための仮面を貼り付ける。
それでいい、と思ってしまった。
いや、そうするべきだと、それしか自分に許された生き方はないと、本気で信込んでいた。
「……あ」
暗闇の中で、小さく声が漏れた。
手の甲の痛みが、少しだけ和らいでいることに気づく。
本当に、私はこのまま作り笑いの人生を終えたかったのだろうか。
全部、外して、と願ったあの瞬間、私はすべてを諦めていたはずだった。
なのに、なぜ機械によって生かされたこの体を、今、少しだけ愛しいと思ってしまっているのだろう。
窓の外へ視線がいく。
遮光カーテンの隙間から、ほんのわずかに、街の夜景の光が漏れて床に細い線を引いていた。
鎖は、他人が私につけたものではない。
私が、私を許せないがゆえに、自分で自分に巻き付けたものだ。
もし、この点滴がすべて外れ、自分の足で再びあの水色の空の下へ歩き出したなら。
私は、次のクリスマスには、小さな飾りを部屋に置くだけの許しを、自分に与えてもいいのだろうか。
美味しいものを美味しいと、作り笑いではなく、本当の笑顔で口いっばいにしてもいいのだろうか。
まだ、答えは出ない。
点滴の機械の音が、私の心音より大きく響いている。
次に目が覚めたら、何度も着信をくれた人たちに「私は大丈夫」だと、一言だけ返してみようと思う。
夜明けは、もうすぐそこまで来ていた。
第3話へ続く。




