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【第1話】目覚め


 意識(いしき)(もど)ると、(おそ)ってきたのは(するど)(いた)みと、(むね)容赦(ようしゃ)なく圧迫(あっぱく)するような、なんとも()えない(くる)しさだった。


 酸素(さんそ)マスクや(からだ)()られた電極(でんきょく)、あらゆるものが鬱陶(うっとう)しい。


「……全部(ぜんぶ)(はず)して……」


 (かす)れた(こえ)が、奇跡(きせき)(てき)(のど)(おく)から(しぼ)()された。


 しかし、それを(だれ)かが()(とど)けてくれたのかどうかを(たし)かめる(まえ)に、意識(いしき)(とお)のき、(わたし)はまた()(うし)なった。


 (つぎ)()()めた(とき)息苦(いきぐる)さが()えていた。


 視線(しせん)をかすかに(うご)かすと、()(はな)された(まど)から()()(かぜ)に、(しろ)いカーテンが(おだ)やかに()れている。


 その()こうには、どこまでも()んだ水色(みずいろ)(そら)(ひろ)がり、まるでちぎったわたあめのような(しろ)(くも)が、ゆっくりと(なが)れていた。


 (うつく)しい、と(おも)ってしまった。


 そして直後(ちょくご)(はげ)しい自己(じこ)嫌悪(けんお)(むね)()()げる。


(なんで、目覚(めざ)めてしまったのだろう)


 見上(みあ)げる(そら)が、あまりにも綺麗(きれい)残酷(ざんこく)だった。


 ()きていることを祝福(しゅくふく)されているようなその光景(こうけい)が、(いま)自分(じぶん)にはただただ(くる)しくて、目尻(めじり)から(あつ)(なみだ)がひとすじ、こめかみへと(つた)ってこぼれ()ちた。


 視線(しせん)自分(じぶん)(からだ)へと(もど)す。


 全身(ぜんしん)には、(なん)(ぼん)もの点滴(てんてき)のチューブが()うように()さっている。


 さらに、布団(ふとん)隙間(すきま)から(のぞ)(あし)には分厚(ぶあつ)(ぬの)のような装置(そうち)()()けられていた。


 ()(とどこお)りなく(めぐ)るように、規則(きそく)(ただ)しい(おと)()てて、空気(くうき)(はい)っては()けていく。


 自分(じぶん)意思(いし)とは関係(かんけい)なく、機械(きかい)(わたし)(からだ)を、無理(むり)やりにでも()かそうとしている。


 時間(じかん)感覚(かんかく)完全(かんぜん)(くる)っていた。


 1(にち)(なが)さは、(だれ)にとっても(おな)じ24時間(じかん)のはずなのに。


 (いま)(わたし)にとっては、激痛(げきつう)と、それに()えかねて()(うし)うように(ねむ)時間(じかん)()(かえ)しだった。


 あっという()に、(わたし)はあの地獄(じごく)のような目覚(めざ)めから()()()(あさ)(むか)えていた。


 (からだ)(なか)に、ほんの(すこ)しだけ「()きている」ための体力(たいりょく)(もど)ってきたのを(かん)じた。


 (わたし)(おも)(うで)(うご)かし、ようやく()(とど)くベッドの(よこ)(たな)から、()()りにされていたスマートフォンをつかまえた。


 画面(がめん)点灯(てんとう)させると、(まぶ)しい(ひかり)(なか)無数(むすう)通知(つうち)表示(ひょうじ)される。


 (なん)()も、(なん)()着信(ちゃくしん)があったようだ。


 あの(ひと)から、家族(かぞく)から。


 ()(かえ)さなければ、あるいは(なに)返信(へんしん)しなければいけないのかもしれない。


 そう(おも)うものの、点滴(てんてき)(はり)()(こう)(ふか)()さっているせいで、指先(ゆびさき)(おも)うように(うご)かせない。


 スマートフォンの操作(そうさ)はひどくぎこちなく、文字(もじ)を1(ぎょう)()つことさえ、(いま)自分(じぶん)には(おお)きな仕事(しごと)(おも)えた。


 結局(けっきょく)(だれ)にも連絡(れんらく)(かえ)せないまま、急激(きゅうげき)疲労(ひろう)(なみ)()()せてくる。


 やはり(なが)くは()きていられず、(わたし)(ふたた)(ねむ)りに()ちていった。


 (つぎ)()()めた(とき)(まど)のカーテンはきっちりと()められ、病室(びょうしつ)電気(でんき)はすべて()えている。


 暗闇(くらやみ)(なか)に、医療(いりょう)機器(きき)(ちい)さな(みどり)(あか)のランプだけが、呼吸(こきゅう)をするように(ひか)っていた。


 今度(こんど)はスマートフォンを()気力(きりょく)さえ()きず()()まれるようにまた(ねむ)ってしまった。


 (しず)まり(かえ)った(よる)病室(びょうしつ)で、(なん)()()かの目覚(めざ)めを(むか)えた(とき)(わたし)(あたま)はひどく()(わた)っていた。


 暗闇(くらやみ)()つめながら、(わたし)はこれまでの自分(じぶん)人生(じんせい)(しず)かに()(かえ)っていた。


 本当(ほんとう)に、いろんなことがあった。


 喪失(そうしつ)他人(たにん)期待(きたい)という()重圧(じゅうあつ)、そして自分(じぶん)自身(じしん)(おか)した(あやま)ち。


 それらの記憶(きおく)()(かさ)なるうちに、(わたし)はいつしか、自分(じぶん)自身(じしん)(こころ)(ふと)(くさり)()()けていたのだ。


 

(だい)()(つづ)く。


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