【第1話】目覚め
意識が戻ると、襲ってきたのは鋭い痛みと、胸を容赦なく圧迫するような、なんとも言えない苦しさだった。
酸素マスクや体に貼られた電極、あらゆるものが鬱陶しい。
「……全部、外して……」
掠れた声が、奇跡的に喉の奥から絞り出された。
しかし、それを誰かが聞き届けてくれたのかどうかを確かめる前に、意識が遠のき、私はまた気を失なった。
次に目が覚めた時、息苦さが消えていた。
視線をかすかに動かすと、開け放された窓から吹き込む風に、白いカーテンが穏やかに揺れている。
その向こうには、どこまでも澄んだ水色の空が広がり、まるでちぎったわたあめのような白い雲が、ゆっくりと流れていた。
美しい、と思ってしまった。
そして直後、激しい自己嫌悪が胸を突き上げる。
(なんで、目覚めてしまったのだろう)
見上げる空が、あまりにも綺麗で残酷だった。
生きていることを祝福されているようなその光景が、今の自分にはただただ苦しくて、目尻から熱い涙がひとすじ、こめかみへと伝ってこぼれ落ちた。
視線を自分の体へと戻す。
全身には、何本もの点滴のチューブが這うように刺さっている。
さらに、布団の隙間から覗く足には分厚い布のような装置が巻き付けられていた。
血が滞りなく巡るように、規則正しい音を立てて、空気が入っては抜けていく。
自分の意思とは関係なく、機械が私の体を、無理やりにでも生かそうとしている。
時間の感覚は完全に狂っていた。
1日の長さは、誰にとっても同じ24時間のはずなのに。
今の私にとっては、激痛と、それに耐えかねて気を失うように眠る時間の繰り返しだった。
あっという間に、私はあの地獄のような目覚めから三日目の朝を迎えていた。
体の中に、ほんの少しだけ「起きている」ための体力が戻ってきたのを感じた。
私は重い腕を動かし、ようやく手の届くベッドの横の棚から、置き去りにされていたスマートフォンをつかまえた。
画面を点灯させると、眩しい光の中に無数の通知が表示される。
何度も、何度も着信があったようだ。
あの人から、家族から。
折り返さなければ、あるいは何か返信しなければいけないのかもしれない。
そう思うものの、点滴の針が手の甲に深く刺さっているせいで、指先が思うように動かせない。
スマートフォンの操作はひどくぎこちなく、文字を1行打つことさえ、今の自分には大きな仕事に思えた。
結局、誰にも連絡を返せないまま、急激な疲労の波が押し寄せてくる。
やはり長くは起きていられず、私は再び眠りに落ちていった。
次に目が覚めた時、窓のカーテンはきっちりと閉められ、病室の電気はすべて消えている。
暗闇の中に、医療機器の小さな緑や赤のランプだけが、呼吸をするように光っていた。
今度はスマートフォンを見る気力さえ起きず吸い込まれるようにまた眠ってしまった。
静まり返った夜の病室で、何度目かの目覚めを迎えた時、私の頭はひどく冴え渡っていた。
暗闇を見つめながら、私はこれまでの自分の人生を静かに振り返っていた。
本当に、いろんなことがあった。
喪失、他人の期待という名の重圧、そして自分自身が犯した過ち。
それらの記憶が積み重なるうちに、私はいつしか、自分自身の心に太い鎖を巻き付けていたのだ。
第2話へ続く。




