第1話・敗北感を認めた先で ~他の誰でもなく~
第8章 己のすべてと……
第1話・敗北感を認めた先で ~他の誰でもなく~
かなわない……
クロードに抱き着いて、静かに涙を流すアインを見つめるインスの心には、苦い、疑いようのない敗北感が広がっていた。
分からないわけではないのだ。
何しろ、クロードは『一番最初』にアインを救った恩人で……同じ神殿側の所属なので、インスよりもよっぽど自由に会うこともできる。
だから、ずっと気にかけていて……。アインも信頼していて……
その間に、入り込めるはずもない、というのも分かっている。
(……リオンさんが、アイン君に嫉妬する気持ちが、少し分かりましたね……)
同じくクロードに拾われて、それで生き永らえたリオンは、急に現れてクロードの気を引いているアインに対してどうしても当たりが強くなってしまう。
それが、大好きな『お兄ちゃん』を取られそうになって『拗ねている弟』のような心境であることは、はたから見ていても、もちろん本人も分かっている。
何とも言えない……どこか、置き去りにされた子供のような気配を纏うインスは、ただ無言で二人を見つめるだけ。
「……とりあえず、アイン。お前は一度、治療を受けて休め……。休憩だ」
様子を見ていたシリウムが声をかけ、こくりと頷いたアインを抱いたまま、クロードが立ち上がる。
「……インス……」
「はい?」
そのまま、アインをシリウムに渡して、クロードが声をかけたのはインスに対して。
どうしたのだろうかと首を傾げるインスに、おもむろに告げられたのは……
「……話がある……」
「……はい?」
思いもかけない言葉に、インスは訝しげに眉を顰め、ならここを使えと言って、アインを抱いたままのシリウムが残りの面々を促す。
「……ちょっ……!」
「お前も、言いたいことがあるって顔をしているぞ?」
「……………」
声を上げかけたインスを遮って告げたウスニーの言葉に絶句する。
戸惑ううちに、護衛官を含めて全員が部屋を出ていき、病室にはインスとクロードの二人が残された。
「……それで、お話しというのは……?」
扉が閉ざされ、足音が遠ざかるのを聞いて諦めたインスは、困惑気味にクロードを見上げる。
「……アインを、頼む……」
「……………」
短く告げられた、思いもよらない言葉に、インスは目を丸くした。
「……俺は、絶対の、味方には、なれないから……」
「……それは……」
ほんの僅か、気のせいかとも思うほど微かに眉を下げたクロードの言葉に口籠る。
そう。クロードは神殿護衛官。場合によっては、その時に付いている神官呪師を始末しなければならない立場。
その、付いている神官呪師が……アインになる可能性も、高い。
「……どうして、私なんですか……? 他にも、アイン君の味方になってくれる方は……」
「……アインが、お前を、選んでいるから……」
「……っ……!?」
ごくあっさりと言われて息を飲む。
アイン君が、私を……?
「……お前は、きっと、アインを、絶対に、裏切らない……」
そう思う。と言われて……
もう、無理だった。
「……私は……間違えましたよ……? あの子を追い詰め、傷つけ……壊しかけた……」
「それでも、アインが、選んだ……」
片手で顔を覆って俯いたインスの言葉に、きっぱりとクロードは返す。
「……だから、頼む……。俺は……」
そっと、熱い吐息を逃すインスを見つめたまま、クロードも眉を下げ、本当の気持ちを抑えて、変えられない現実を口にする。
……責任を、持てないから――
あの子の生に。あの子の幸せに。
どれだけ、本当は望んでいても……
全うしなければならない役割に縛られる。
(……本当に……)
薄く、口元に笑みを這わせて、目元の熱を押さえ込んで、心の中でインスは返す。
(……保護者にはかなわない……。完敗ですね……)
けれど、そのことに、なぜか少しの喜びを感じていて……
「……分かりました……約束しましょう……。私は、何があっても、どんな状況であっても……アイン君の味方であり続けると……」
この魂魄のすべてをかけて……
必ずあの子を、守り抜きましょう――
第8章第1話をお読みいただきありがとうございます。
今回はアインを想う二人の不器用な大人たちの、静かで熱い「保護者面談」回です(笑)
アインの涙を受け止めるクロードの姿に、インスが抱いた苦い「敗北感」。
アインの恩人であり絶対的な保護者であるクロードにはかなわないと悟るインスでしたが、二人きりになった病室で、クロードから思いもかけない言葉を託されます。
神殿護衛官であるクロードの苦悩と、それを受け止めるインスの覚悟。
病室で二人きりになった彼らが、それぞれの立場と限界、そしてアインへの想いを交差させた先に導き出した「一つの答え」と「約束」とは?
次回もお楽しみに!
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活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!
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【第6弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】
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ノリト&ミコト




